クラウドもハイブリッドがいいね! / 岩本 元

1.ハイブリッド雑学
 ハイブリッドと聞いて、多くの人はハイブリッド車を思い起こすでしょう。ハイブリッド車はガソリンエンジンと電気モーターの2つの動力源を持つ自動車です。ガソリンエンジンは高速運転を考慮して設定されるため、低速度では効率が著しく下がります。そこで低速域や発車時には電気モーターで走行することで燃費が大きく向上します。また、電気モーターにはバッテリー充電の制約があります。そこでガソリンエンジン走行時にブレーキを掛けることで捨てられていた運動エネルギーを活用して発電・バッテリー充電します。このように、複数の異質なものを組み合わせて互いの弱点を補う、または「いいとこ取り」する仕組みがハイブリッドです。ちなみに、ハイブリッドの語源はラテン語のイノブタ(=猪と豚の交配種)です。

2.ハイブリッドクラウド
 ハイブリッドクラウドは、パブリッククラウドとプライベートクラウドの2種のクラウドを併用することです。Amazonに代表されるパブリッククラウドは、サーバやその上で稼働するアプリケーションを自社で保有せず、サービスとして提供されるものを利用します。そのメリットは、調達時間が短い、アプリケーションのパブリッククラウド(SaaS)ではアプリケーションを自社で開発・保有する場合より大きくコスト削減できる、導入時のキャッシュアウトが小さくサービスが不要になったら解約すれば後のコスト(自社保有する場合の原価償却費)が掛からない、保守や運用の負担から逃れることができることです。一方、デメリットとしては、可用性や情報セキュリティ等のサービスレベルが保証されないことが多く、SaaSはアプリケーションを自社に合わせる改修が困難です。
 プライベートクラウドは、大規模なサーバを自社で保有し、サーバの必要時に仮想化技術等を用いてサーバリソースを分割して利用するものです。パブリッククラウドと共通するメリットとして、調達時間が短いことがあります(自社保有でもクラウドと呼ぶ理由)。その他のメリットとデメリットはパブリッククラウドのデメリットとメリットを裏返したものとなります。
 これらの2種のクラウドを併用して「いいとこ取り」を目論むのがハイブリッドクラウドです。例えば、高いサービスレベルを求める情報システムはプライベートクラウドを利用し、通常のサービスレベルの情報システムはパブリッククラウドを利用して構築することで適正な全体コストを実現します。

3.プライベートクラウドとパブリッククラウドの適用基準
 ハイブリッド車と異なり、ハイブリッドクラウドでは情報システム毎に、プライベートクラウドとパブリッククラウドのどちらを適用するか判断する必要があります。判断基準はコスト/品質他の観点から設定します。
 コストの基準では、ハードウェアやソフトウェアの初期コスト・保守コストに加えて、(プライベートクラウドでは直営労務費または業務委託費として発生する)運用コストがポイントです。短期間で見るとパブリッククラウドの方が低コストですが、大規模なハードウェアを長期間使用するならプライベートクラウドの方が低コストとなることがあります。逆に、大規模なハードウェアを短期間使用する場合はパブリッククラウドが適しています。
 品質の基準では非機能要件がポイントです。パブリッククラウドはプライベートクラウドと比べると、以下の要件を充足しないことがあるため、確認した上で情報システムの要件と突き合わせて判断します。
・性能の要件: 必要時にリソースの自動または迅速な追加が可能か
・可用性の要件: 障害発生確率(または稼働率)や障害復旧時間(冗長化システムへの切換時間等)は問題ないか、データバックアップの有無
・災害対策の要件: ディザスターリカバリの仕組みを構築可能か
・情報セキュリティの要件: 機密データを預ける場合に必要な対策が取られているか
また、SaaSの場合、最低限の機能要件を充足するかを確認し、それ以外の機能については業務手順をSaaSに合わせて変更する対応とします。

 クラウド(共用サーバ)を使用すべきでない場合もあります。共用サーバがサポートしない独自OSを使用するとき(本来、汎用OSを使用すべきですが)、共用サーバでは当初から性能が確保できないとき、使用するソフトウェアが共用サーバ上で動作が非保証/共用サーバ上で使用するとライセンス料が大きいとき等は、共用サーバでなく個別サーバを使用します。個別サーバの場合も、コスト/品質の観点で自社保有か物理ホスティングサービスを選択するとよいでしょう。

4.クラウド間連携の仕組み
 ユーザーやアプリケーション開発者がプライベートクラウドとパブリッククラウドの環境の違いを意識せず同じように操作・使用できるように、プライベートクラウドとパブリッククラウドの間や複数のパブリッククラウド間を連携する仕組みを導入します。
 例えば、認証連携の仕組みを使用すると、プライベートクラウド上のアプリケーションにログインする際に入力するIDとパスワードで、パブリッククラウド上のアプリケーションにもログインできます。シングルサインオンの連携も可能です。他に、ファイルを変換・伝送するデータ連携の仕組み(EDI)、機能連携の仕組み(Webサービス)、両連携を実現するEAI・ESB等があります。
 最近は、これら連携の仕組みもパブリッククラウドサービスとして提供されているため、プライベート/パブリックの選択が可能です。

 ユーザー企業、ベンダ企業、ITコーディネータにとって、コストの最適化を実現するハイブリッドクラウドは情報システムアーキテクチャの重要な選択肢となっています。

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■執筆者プロフィール
 岩本 元(いわもと はじめ)

 ITコーディネータ、技術士(情報工学部門、総合技術監理部門)
 &情報処理技術者(ITストラテジスト、システムアーキテクト、プロジェクトマネージャ、システム監査他)
 企業におけるBPR・IT教育・情報セキュリティ対策・ネットワーク構築のご支援