●このコラムでは、多くの新しいキーワードを紹介してきましたが、最近、注目している言葉があります。それは「ビッグデータ」です。読者の方々も、この言葉をどこかで目にしたことがおありではないでしょうか。言葉自体は、難しくないので何となく意味が分かりそうですが、この言葉が、ビジネスにどれ程のインパクトがあるか、についてはなかなか正確に理解できないのではないでしょうか。
●「ビッグデータ」は、新しい言葉なので、まだ厳密な定義はないようです。一般的には、「ペタバイト級の大容量データをビッグデータと呼ぶ。」などと解説されており、非常に大きなデータの集まりを指します。ペタバイトというのは、2の50乗、すなわち約10の15乗の数値を指し、テラバイトの一つ上の呼称です。テラバイト自体も分かりにくいですが、これは我々がよくハードディスクの容量で使う、ギガバイトの上の呼称ですから、ギガバイト→テラバイト→ペタバイトの順に、約1000倍ずつ大きくなります。したがって、ペタバイトは、ギガバイトの約100万倍の大きさの単位ということになります。
●なぜ、このような膨大なデータが話題になるかというと、それは、世界中にスマートフォン、パソコン、ウエブカメラ等のIT機器やハードディスク等の大容量記憶装置が溢れ、かつそれらが、インターネットで接続されたため、個人や、企業が、世界中のデータにアクセス可能になったことに根本の原因があります。そのため、ご存じのように、グーグル等の検索で、瞬時に、世界中のデータにアクセスして、欲しい情報を取り出せるようになりました。
●今回、着目されている「ビッグデータ」の視点は、データをそのような、単なる検索対象としてだけではなく、分析対象とするものです。検索機能だけだと、世界中のどこかにあるデータを効率よく取り出せば良いだけですが、「ビッグデータ」の視点は、それらを分析し、ビジネスに有用な、例えば顧客の購買動向や商品の販売実績等を解析し、顧客の販売行動や商品の売れ行き予測等をしていこうというものです。
●もちろん、これらの予測は従来から行われていますが、分析対象になるデータの種類や数に制限があり、安価に正確な予測が出来ませんでした。「ビッグデータ」は、この制限を取り払い、膨大なデータの中から、所望のデータを抽出し、それを分析することにより、格段に多くのビジネス上の有効なデータが得られる可能性があるのです。そのため、最近、企業の情報処理技術者の必要スキルに統計学が急浮上しました。いわゆる「データアナリスト」が「ビッグデータ」の活用に不可欠になってきたのです。
●最近の「ビッグデータ」は、文字だけでなく静止画、動画、音響等、多様なデータから構成されるため、これまでのようなデータベース構造(代表的にはリレーショナルデータベース:RDB)での取扱いが難しいため、技術的には非構造化データを扱うことのできる技術(最近では、Hadoop等)を使うのが特徴です。このような最新の技術の導入による「ビッグデータ」活用例は、日本ではまだ少ないですが、欧米では、既に、有名なクレジットカード会社がカードの不正利用の発見に利用しています。日本でも、面白い活用例が出てくるのは、時間の問題でしょう。
●「ビッグデータ」の活用分野は、今後、消費者市場での商品や顧客分析、社会インフラ分野での災害予知、産業分野での品質管理やセキュリティ分析等が予想されます。本格的な活用はこれからですが、既に、そのような未来を見据えた動きが、各企業で起こっており、実際に成果をあげている事例も見られます。
●日本の代表的な部品メーカでは、「ビッグデータ」を活用して品質に決定的な影響を与える要因を特定し、製造時の不良率低減を実現しています。設計情報、材料情報や工場の生産設備で日々発生する加工データ等を蓄積し、約3000項目、10テラバイトを超えるデータを解析する事で、不良率に決定的に影響する要因を、毎月4~5個のペースで発見しているといいます。
●このように、データは至る所に存在し、簡単に蓄積できるようになってきたので、それを他社に先駆けて有効に活用する事が今後のビジネスの成功要因の一つであることに対し、誰も異論を唱えないでしょう。そして、このような取り組みは決して大企業だけが出来るのではなく、現在は、中小企業や個人であっても利用できる、無償や低価格の環境が提供されつつあることも知っていただきたいと思います。まさに、「ビッグデータを制する者が、ビジネスを制する」、時代がそこまで来ているのです。
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■執筆者プロフィール
馬塲孝夫(ばんばたかお) (MBA)
ティーベイション株式会社 代表取締役社長
株式会社遠藤照明 社外取締役