知的資産経営を見直す / 中村久吉

 謹んで新春のお慶びを申し上げます
 読者の皆様のご健勝とご多幸の年となりますことを祈念致します

 さて、今回は久しぶりに知的資産経営をテーマにします。このテーマを初め
て取上げたのは、「知財立国」宣言のあった2002年12月であり、前回執筆した
のは2008年8月でした。実は3年前の2010年1月に「中小企業の知的資産経営推進
ガイド」を上梓しました。この時は、滋賀、京都、奈良、大阪、兵庫から知的
資産経営の先達企業と目される60社に個別訪問調査を実施して、その結果を取
りまとめました。現在は以下のウェブサイトにて公開しています。
 http://www.j-smeca.jp/attach/kenkyu/shibu/h22/h_kyoto.pdf

 中小企業が知的資産経営に取組もうと思った時に、体系的な観点から知的資
産経営を捉えて、自社の知的資産経営のロードマップを描くことができる案内
書が当時なかったことから、有志メンバーにて調査研究を実施しました。

 それから3年が経過しましたので、2013年11月から25社への個別訪問に規模を
縮小して追跡調査を行いました。その結果を取りまとめて本年2月に追補版を上
梓する予定です。地域の中小企業が知的資産経営に取組む場合、3年前の調査で
複数の課題が明らかになっていました。それに対するソリューションを探り、
知的資産経営に取組む中小企業の参考に供することが目的です。今回の調査課
題は、以下のようなものでした。

(1)知的資産のライフサイクル
 前回の調査で最初に打ち出した概念です。製品やサービスにライフサイクル
があるように、それらの源泉である知的資産にもライフサイクルがあると言う
考え方です。調査対象企業は、これに対してどのような管理をしているのかを
取材しました。管理レベルは様々ですが、概ね何らかの対策を講じていること
が判明しました。

(2)知的資産のポートフォリオ
 通常、企業組織に知的資産が一つしかないということはなく、複数の知的資
産を見出すことができます。加えて、前記のライフサイクルの存在からすると
次に知的資産のポートフォリオが考えられます。しかし、前回の調査では、こ
のポートフォリオを意識している企業は非常に稀にしか見られませんでした。
この状況は、今回の調査においても同様の感でした。

(3)組織の知的資産経営成熟度
 どんな知的資産であっても、それが存在しているだけではキャッシュを生み
出すことがない訳です。知的資産を管理し、活用する組織の能力がなければ如
何に素晴らしい知的資産といえども宝の持ち腐れです。この観点から、前回調
査では0~5レベルの6段階評価を試みました。結果は単純平均値で2.5レベルと
知的資産経営の先達企業としては低いレベルになっていました。今回の調査で
は、僅かですが平均値は良くなったように思われます。

(4)金融機関との関係
 前回の調査で明らかになった重要な問題の一つが金融機関からの評価でした。
特に起業して未だ事業の立上げ途上にあるベンチャービジネスにおいては資金
繰りが経営の重要な課題ですが、持てる知的財産に対して十分な評価を得られ
ないために経営に行き詰まるケースが見られました。今回の調査では、この点
を重点調査項目として調査対象企業だけでなく、金融機関の考えも取材しまし
た。
 経営者としては、業績の良い時は実態を説明する十分な意欲を持っています
が、業績が悪くなると途端に消極的になるものです。しかし、業績の如何に関
わらず、企業は取引先金融機関に事業実態を説明してコミュニケーションを保
つことが、良好な関係を築くポイントだと言うことが浮き彫りになりました。
 しかし、知的資産経営そのものから見た場合、根本的には知的資産を評価し
流通させるような市場が形成されていないことに原因があると言えます。「知
財立国」宣言から11年経過しても、未だにこのような仕組みが整備されていな
いのです。先ず核となる知的財産を対象にして全国的な仕組みづくりから取り
掛かるべきではないでしょうか。その後に、知的資産全体に拡大すれば良いの
です。

(5)知的資産経営報告書(京都においては、知恵の経営報告書ともいう)
 企業情報のディスクロージャという観点からいうと、B/S(貸借対照表)や
P/L(損益計算書)に代表される決算諸表は財務面から見た過去の情報であり、
企業の一部側面しか表していない。財務情報以上に大きな位置を占める非財務
の目に見えにくい企業情報、特に未来に関わる情報として知的資産経営報告書
が作成されてきました。企業実態を正しく判断するには、財務情報を基礎とし
て非財務情報の把握が必要不可欠だからです。他に広報ツールと位置付けられ
る「CSR報告書」も多く作成されています。最近は、これらを一括して取扱う
「統合報告書」も作成されるようになって来ました。
 しかし、中小企業では知的資産経営報告書は、企業情報のディスクロージャ
という観点(つまり、知的資産経営のアウトプットの一つ)よりも、それを作
成する作業を通じて自社のビジネスモデルや経営戦略を明確化できることに重
点があります。ここでは、経営を見直す機能が評価されています。残念ながら
これを経営管理サイクル(PDCA)に結びつけているケースは少ないのが現状で
した。 

 今回の調査を総括すると、3年間での進歩・成長が個別企業には見られるもの
の全体的に大きな変化はなかった印象です。かつて日本が米欧を目標に追いつ
き・追い越せと頑張ってきたように、発展途上国が著しい成長を遂げています。
単なるモノづくり技術だけでは、先行優位性を維持することは困難でしょう。
IT経営と共に知的資産経営の重要性は、ますます高まっているようです。

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■執筆者プロフィール

中村久吉(なかむらひさよし)
ITコーディネータ、中小企業診断士、プライバシーマーク主任審査員

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