■はじめに
2012年12月26日に安倍晋三首相の危機突破内閣が発足した。3本の矢としてアベノミックス:“金融緩和”、“財政出動(一般会計総額:92兆6115億円)”そして“成長戦略”が設定された。2014年のはじめには、この2つの矢が功を奏して株高(日経平均 約16000円)・円安(104円前後)を誘導し、“失われた20年”を取り戻しつつある。振り返って見ると約1年前には、この政策が成功するかどうかは未知数であった。しかし、現在では、この2本の矢は、順調に飛翔しつつある。残る3本目の矢の“成長戦略”はこれから精力的に取り組まれると期待されている。この1年間、日本の最高責任者・トップリーダとしての安倍首相の政策・行動・意志決定は着実に成果を上げてきた。
ここでは、我が国、日本を先導した魅力あるリーダを振り返り、リーダがなすべきことについてお話する。
■土光敏夫先生の魅力あるリーダ魂 [1],[2],[3]
土光敏夫先生は、周知のとおり1896年に岡山県に生まれの昭和を代表するリーダと称されている。1920年に東京高等工業学校(現・東京工業大学)機械科を卒業後、東京石川島造船所(現IHI:石川島播磨重工業)に入社された。その後、タービン製造技術を習得するためにスイス留学され、石川島芝浦タービン(現IHIシバウラ)の技術部長として出向し、1946年に社長に就任された。その猛烈な働きぶりから「土光タービン」と呼ばれていたそうである。
1950年、経営の危機にあった東京石川島造船所(現IHI)に復帰し社長に就任され再建に取り組まれた。土光敏夫先生の徹底した合理化によって経営再建は成功した。また、1965年には、やはり経営難に陥っていた東京芝浦電気(現東芝)
の再建のために社長に就任し、辣腕を振るい翌年の1966年に再建に成功された。
その後、第4代経済団体連合会会長などの要職を務められ、1986年11月、勲一等旭日桐花大綬章を受章され多くの功績を残された。
土光敏夫先生の逸話につぎのようなものがある。1950年、東京石川島造船所の社長に復帰し、初出社の折、午前8時前に工場に行き、門の守衛に「あなたはだれですか」と問われたとのことである。土光敏夫先生は、「今度、社長になりました土光と申す者でございます」と返事し、守衛は大層驚いたとのことである。
このことを伝え聞いた役員・幹部は、今までの自己の姿勢を反省し、早朝出勤を励行し、仕事を今までの何倍も行うようになったとのことである。土光社長は、自ら会社再建の具体的構想の社内報を作り、新年の初出勤の日、会社に一番乗りし社員一人ひとりに社内報を自ら配ったとのことである。先陣を切って動き出す土光社長の姿勢に社員全員が驚き、その社内報を熟読し会社の再建計画の理解と具体的活動へと展開したとのことである。その結果、土光社長の指揮のもと石川島播磨重工業は、急回復し世界レベルの企業になったのである。
【土光敏夫先生の語録】
・会社で働くなら知恵を出せ。知恵のないものは汗を出せ。汗も出ないものは静かに去って行け。
・人間には人間らしい仕事をさせよ。そのために機械がある。
・失敗は終わりではない。それを追求していくことによって、はじめて失敗に価値が出てくる。失敗は諦めたときに失敗になるのだ。
・年寄りには年寄りの知恵がある。それは確かだが、若者の邪魔をしちゃいかん。
年寄りは若者の邪魔をするようになったと思ったら、さっさと退かんといけない。若い者にまかせれば、ちゃんとやってくれるよ。
・どの時代でも、不安のないときはなかった。それを乗り越えてきたところに、努力のしがいがあった。
・この世の中でいちばん大切なことは、「人間関係」ですよ。
・顔を見たら、コミュニケーションを行え。
・人間の能力には大きな差はない。あるとすれば、それは根性の差である。
■鈴木健二先生のリーダ談 [4]
鈴木健二先生のリーダ談でリーダとしての具体的な指針について興味ある部分をいくつか紹介する。
・リーダの人間学:“権限”と“権威”
“権力”でなく“権威”を身につけよと主張している。すなわち、企業・組織において管理職以上の役職になれば、“人事権”と“仕事の決定権”という2つの“権力”が付与される。一方、“権威”は、個人として、その人が身につけた人格・人柄、教養、行動力、包容力、才能・技術・技能などの能力、明るさ、説得力などの尊敬や信頼である。リーダは、この“権威”を率先して身につけよといっている。部下は、この“権威”に魅力を感じ納得して仕事をしてくれるのである。
・リーダの人間学:黙って本を読め
“権威”ある管理職以上の役職になれば“判断・意志決定”を求められる頻度が多くなる。このためには、部下よりも先んじて知識・知恵を充実させる必要がある。このためには、常日頃から多様な良質の本を読むことを求めている。
・リーダの人間学:会議の演出
企業・組織の会議開催では、ほんの数人が良く発言しその他の参加者は、聞く側の立場でのみ参加している場合が多い。しかし、会議とは本来、開催目的を明確にし、参加者の発言・意見に基づいて議論することである。そのためには、如何に多くの人たちからの意見・知恵を早く出してもらうかにかかっている。これを実現するためには、開催者は、会議開催前に十分な準備をおこない、参加者が自由に話しあえる良好な会議環境を演出しなければならないと助言している。
・リーダの説得学:聞くことを早く
交渉・説得の秘訣は、相手に先に話をさせることとだといっている。すなわち説得とは交渉ごとであるから、最初に相手の話を良く聞いて、その話の本質を理解し説得に臨むと上手くいくといっている。
■おわりに
グローバル競争時代の21世紀においても【土光敏夫先生の語録】は、日本を先導する魅力あるリーダになるための規範として十分に通用するはずである。すなわち、“魅力あるリーダ”になるためには、第一に、対象課題・テーマに対して人一倍・猛烈に・徹底して考え抜く“根性”がなければならないということであろう。また、鈴木健二先生のリーダ談は、組織の中で働く管理職を想定した具体的な指針を示している。この中でも重要なことは“権威”を持たなければならないということである。例えば、21世紀型の“政治の神様”、“経済の神様”、“経営の神様”、“教育・人材育成の神様”、“スポーツの神様”、“科学・技術の神様”、“哲学の神様”、“文学の神様”などは私たちが目指す正しい“権威”の一つとして相応しいと考える。
安倍晋三首相の精力的な活動は、日本の最高責任者・日本を先導する魅力あるトップリーダに相応しいものではないだろうか。その理由は、世界情勢を俯瞰し確固たる信念を持ち、3本の矢:アベノミックスの大胆な目標を掲げ意志決定を行い、それを着実に実行に移しているからである。多様な批判・批評は誰でもできるが、“有言実行”と“成果を上げる”ことができる日本を先導する魅力あるリーダは、それほど多くない。大いに期待したい。
次世代を担う若者諸君は、日本の高付加価値化を加速する為に、是非とも“日本を先導する魅力あるリーダ”を目指して研鑽していただきたい。
【参考資料】
[1] 土光敏夫,ウキペディア
[2] “ものづくりで再びNo.1になるには何をすべきか”,斎藤保・IHI社長 経営者編第7回,日経電子版(2013年5月8日)
[3] “成功へのヒント”,土光敏夫, http://success.hoyu.net/doko.htm
[4] 鈴木健二:“いまリーダがなすべきこと -職場を高性能化するために-”,
1985年10月,大和出版
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■執筆者プロフィール
柏原 秀明(Hideaki KASHIHARA)
京都情報大学院大学教授,柏原コンサルティングオフィス代表
NPO法人ITC京都副会長・理事,一般社団法人日本生産管理学会関西本部幹事,公益社団法人日本技術士会近畿本部幹事
博士(工学),ITコーディネータ,技術士(情報工学・総合技術監理部門),EMF国際エンジニア,APECエンジニア