ERPパッケージは堅実に裾野を広げていますが、その一方でERPパッケージを止めたいという声も聞きます。その理由は高価な割にシステムとして効果が期待できなく、維持に手間がかかり、融通が効かない、などというものである。
一体システム現場で何が起きているのでしょうか。
改めて言うまでもありませんが、ERPとは企業全体の経営資源を有効に活用する観点から、その企業あるいは企業グループのリソースを統合的に管理し、経営の効率化を図るもので、その目的を実現するものが、ERPパッケージと言われる。このように定義してもERPパッケージ製品は実に多彩であり、そのことが実は企業戦略にも影響があると考えられます。
ERPは元々MRP(資材所要量計画)から派生して名付けられたもので、その対象とする範囲は、製造・物流・販売・調達・人事・財務などのモジュールを包含することになるが、モジュールの結合範囲・強度もマチマチである。そのことから生じる疑問は、当初の経営資源を有効活用する道具として実際適切に活用されているのだろうかということである。
もし、ERPを使っていて止めようと考えているならば、もう一度以下のことを見直して頂きたいと思います。
ERPを導入されている企業で見受けられるのが、ユーザ要望やベンダーのアップグレードサイクルに左右され、システムの運用・維持に追われ、大局的な見地からERPの利用価値を評価することが忘れ去られ、不承不承使い続けている
ことです。冒頭のボヤキが正にそれです。
ERPの導入当初は、1つのパッケージで全てを網羅するスグレモノとして迎えられたが、前述の基幹となるモジュールの他にCRMやSEM、PLM、BIツールなどが追加され、ERPを1つの大きなモジュールとして捉える考え方からすると大きな失望に変わっていきました。今でもERPを単一のシステムとして考えられていることがERPが誤解される理由でもあります。ERPはモジュールの結合体として捉えることにより、1つのトランザクションに連結するテクノロジーと考えると、ERPパッケージは’何でもできる’から’何々ができる’に変わるのである。
ERPパッケージの中には出来るだけ多くの業種・業態に適合させるため、小売業や特定の製造業、銀行、保険、公共などといった固有の機能を備えていることが、他のユーザにとっては無用で高価な買い物となってしまうのである。
現在ERPを使用している、あるいは使用しようとしているユーザにとって大事なことは、ERPの戦略を持つことである。オンプレミス型であろうが、SaaS型であろうが、ビジネスプロセスを支援するツールとしてソフトウェアを統合的に捉えるならばERPは実用にかなっています。
一般的にERPシステムに対する不満でよく耳にするのは
・業務の変化に伴う、ビジネスニーズに対応できない
・明確なメリットがなく、ITコストだけが高くつく
・システムエラーが絶えない
・全社的に統合されていない
等々ありますが、こうした問題の原因の1つとして、ERP戦略の欠如が考えられます。そしてその結果、規模の経済性に不満を抱くことになります。
問題は使用するERPが、自社のビジネスプロセスにどれだけマッチしているかをしっかり掴むことです。その為には自社のビジネスプロセスの適用範囲を明確に定義することです。それによって自社の状況にマッチしたERPを選択することが重要です。
ERPは広範囲なプロセスをカバー出来ますが、例えば財務会計用として、単なるデータ記録システムとしてしか使用していない事例がありますが、それでは高価な買い物になるのは仕方ありません。
ERPシステムを評価する時に、単一のパッケージの標準的機能を見るだけでは不充分です。特に近年はWebサービスをはじめ、SOAの発想によるシステ基盤構築などベスト・オブ・ブリード的な対応が必要となっています。
もう1つ、ERPを評価する場合に見受けられるのが、コスト節約と効率改善重視していることです。いずれも必要なことですが、それだけで評価してはいけません。繰り返しになりますが、ERPの本来の導入目的、ビジネスプロセスに合致しているかを重視すべきです。
その為には、ERPシステム構築プロジェクトの継続的評価が必要であり、次の点に留意すべきです。
1)戦略的ビジネスプロセスの目標との繋がりを意識すること
2)その為に、CIOは常に経営戦略を実現する手段を適切に判断すること
3)ITのノウハウを結集させること
です。
企業が継続・発展すると同じく、システムもゴーイング・コンサーンです。
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■執筆者プロフィール
合同会社グローバルITネット
代表社員 大塚 邦雄
ITコーディネータ、情報処理システム監査資格