1.グローバル社会と日本が置かれている環境
少子高齢化による人口減少のために日本の国内市場は縮小傾向にある。また日本の産業をリードしてきた製造業の業績は停滞している。一方、アジアの新興国の市場は急速に拡大している。日本の製造業は海外進出しないと、もはや成長できない状況にある。
グローバル化の荒波(経済・金融・政治)が日本の国境の壁を乗り越えて押し寄せている。経営資源が豊富な大企業さえ生き残りに苦慮しているのに、経営資源の乏しい中小製造業にとってグローバル化の荒波は死活問題である。厳しい経営環境の中、中小企業までが海外進出を余儀なくされつつある。
2008年のリーマンショック以降、特に人材のグローバルな流動化が進み、企業は外国人の採用割合を拡大している。2020年に開催される東京五輪のため、外国人が日系企業で働くようになってきている。逆に多くの日本人が外資系企業で働いている。このように日本人が外国人と同じ職場で一緒に働く機会が急増し、外国人との意思疎通のための「コミュニケーションの場」が重要となってきている。
2.グローバルビジネスにおける異文化コミュニケーションの重要性
私は、2010年にITコーディネータ京都の研究会、2012年にPMAJの関西P2M研究会に参加して、バックグランドの異なるメンバー達とグローバルビジネスの推進についてディスカッションを行った[1]。その結果、グローバルビジネスで最初の障害となるのは、難しい「専門技術、マーケティングや経営」ではなく、「信頼できる人間関係作り」となった。最も痛感したことは「異文化コミュニケ
ーション能力」の重要性であった。
3.「欧米人とアジア人」と「中国人と日本人」の性格の違い
グローバルビジネスでは、自分達と異なる価値観を持つ外国人と交渉・説得する能力が求められる。海外の現地法人の駐在員は、「ビジネスそのもの」より「現地法人の顧客や社員との人的コミュニケーション」が上手くいかず悩んでいるケースが多い。それを解決するには「敵(外国人の価値観や行動様式)を知り、己(日本人の価値観や行動様式)を知る」ことが重要である。そうすれば百戦殆うからずである。
以下、典型的な例として「欧米人とアジア人」と「中国人と日本人」の性格の違いを説明する。
(1)欧米人とアジア人の違い ・・・低コンテキストと高コンテキスト
アメリカの文化人類学者のエドワード・T・ホールは、「コンテキスト」という概念を提唱した。ここで言うコンテキストは単なる「文脈」という意味でなく、異文化コミュニケーションの基盤となる人種・民族の言語・倫理観・宗教・歴史・日常生活などの「価値観や考え方」のことである。異文化コミュニケーションには、低コンテキストと高コンテキストの2つがある。
・「低コンテキスト」とは、お互いに考え方が異なるため、言語による論理的なコミュニケーションが必要となる文化である。文章など形式知を活用する。
・「高コンテキスト」とは、以心伝心でお互いに相手の意図を察しあうことのできる、言葉を使わなくても通じる文化である。勘や直感など暗黙知を活用する。
欧米人は低コンテキストで、アジア人は高コンテキストと言われる。すなわち、欧米人には「論理で考える傾向」があり、アジア人には「直感で考える傾向」がある。このコンテキストギャップに日本人はもっと敏感になって対応する必要がある。
(2)「中国人と日本人」の違い ・・・個人主義と集団主義
中国人と日本人は同じアジア人として共に高コンテキスト文化であるが、中国
人は「個人主義」である。対して日本人は「集団主義」である。
・中国人は企業規模が小さくても一国一城の主を目指す。「独立志向の攻撃中心 の加点主義」である。「短期に業績を挙げて、高い評価や待遇を受ける」ことを期待する。日本人は日本企業の終身雇用や年功序列といった長期的に安定した雇用を望む。「終身雇用を基本とした守り中心の減点主義」で「人事評価が下がる」ことを心配する。
このように中国人と日本人では人事評価に対する価値観が異なる。
・中国人と日本人の性格の違いを比較した中国の有名な諺がある。
「一個中国人 是龍、一群中国人 是虫 一個日本人 是虫、一群日本人 是龍」
和訳「一人の中国人は龍(強い)だが、集団になると虫(弱い)。
一人の日本人は虫(弱い)だが、集団になると龍(強い)。」
・中国人の性格をもう少し深堀りしたものとして「一個和尚有水喝,両個和尚挑水喝,三個和尚没水喝」という諺がある。
和訳「山奥で毎日水汲みが必要な山寺で、和尚が一人で住んでいる時はよく働くが、和尚が三人だと、誰かがやってくれるだろうと思い、さぼって何もしない。」
中国人の性格では、仕事の責任と役割が明確でなければ仕事ができない。中国語ではあるが、判りやすい子供向けの説明動画がある[2]。
4.日本人の「世間体を気にする性格」
私は冠婚葬祭などで作法が分からないとき、恥をかかないよう、自分で考えずYAHOO知恵袋を参照することにしている。日本人の行動様式は「恥をかかない」よう、ともかく「他人と異なることを嫌い、他人と同じ様に振舞う」ことである。
その歴史的背景には、血縁関係や地域の共同作業である農作業で密接に結びついた地域社会がある。江戸時代には五人組という制度があり、「犯罪の防止、年貢の納入、キリシタン禁制」を連帯責任としお互いに監視させていた。その名残が現在の家族関係や町内会・自治会、近所付き合いに繋がっている。それは世間体(せけんてい)と呼ばれる日本特有の「価値観・考え方」である。
日本人は「世間体のルール」を破ることを恥としてきた。最悪の場合は村八分となった。そのために「自分独自の判断や意思決定よりも周りに気を使って「世間体のルール」を優先させる傾向がある。この日本人の行動様式はグローバルビジネスにおいて意思疎通を阻害する原因となっている。
中国や韓国には日本人の性格を「口蜜腹剣」と表現する人がいる。直訳すると「口では蜜であるが、腹の中は剣である」となる。つまり、日本人は「表面上の言葉は丁寧で柔らかいが、腹の中では自分の利益を着々と達成する」という皮肉である。「日本人はずるい」と思われている。
「聖徳太子の以和為貴」「おもてなしの気持ち」「お客様は神様」など相手の心情を重んじる余り、日本人は相手と対立した場合も不快感・怒り・不満を直接的に言葉や顔の表情に出さないことがある。この曖昧な行動様式はグローバルビジネスの交渉の場では誤解を招くことになり、結果的に禍根を残すことになる。
まとめると以下の点に留意を要する。
・日本人が無意識に行っている行動様式や振舞いが相手から誤解を招かないように細心の注意を払う必要がある。
・日本人は、「日本でのビジネスでは性善説」を「グローバルビジネスでは性悪説」の様に、状況に応じてダブルタンダードを意識して使い分ける必要がある。
グローバルビジネスでは、日本人は相手の国・地域にあった異文化コミュニケーションを理解し行動することが重要である。
<参考文献>
[1]PMAJ関西P2M研究会 グローバルビジネスに関する報告書
http://ns.pmaj.or.jp/library/open/regular/kns20130712.pdf
[2]儿童歌曲三個和尚
http://www.youtube.com/watch?v=fV9k4yE2llE
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■執筆者プロフィール
坂口幸雄
・ITベンダ(東南アジアや中国で日系企業の情報システム構築の支援、中国全土での日系企業のIT市場調査)、
・JAIMS日米経営科学研究所(米国ハワイ州)、
・外資系企業(プロジェクトマネジメント)、
・海外職業訓練協会(キャリアコンサルティング)を経て、
・グローバル人材育成センターのアドバイザー
資格:ITC、PMP、PMS、CISA
趣味:犬の散歩、テレサテンの歌を聴くこと、海外旅行、お寺回り
(四国八十八カ所遍路の旅および西国三十三カ所観音霊場巡り)