皆さん、クマムシをご存知でしょうか?
この世で一番生命力の強い生物とか地球上最強の生物などと言われています。
地球どころか宇宙一かも知れません。宇宙空間(高度258 ? 281 km)に10日間曝露しても地球に戻ってきた後、平然と生きていたそうですから。
他にもクマムシの武勇伝はたくさんあります。
・摂氏150度の高温にも耐えられる。
・絶対零度(-273度)の低温にも絶えられる。
・真空にも耐えられる。
・乾燥にも耐えられる。
・75,000の高気圧にも耐えられる。
・そして、驚くことに人間の致死量の千倍以上に当たる放射線にも耐えられるのです。
100年以上、生きられると言う説もあります。
恐らく、人類が滅亡しても、クマムシは平然と生き続けると思います。
クリプトビオシスに入ったクマムシは呼吸もしていなければ新陳代謝も行っていないとのことです。呼吸も新陳代謝もしていなければ、通常の生物では死を意味するのですが、クマムシは環境が戻れば再び生命活動を始めるそうです。何とも凄まじい生命力です。
さて、前段が長くなりましたが、私達の会社もクマムシまではいかないまでも、あらゆる困難に耐え、生きながらえたいものです。
それも、ただ単に生命を維持するのではなく、健全なままでいなければ意味ありません。
LLP(有限責任事業組合)などを除き、多くの会社は人格を付与された法人ですが、生命体ではないので呼吸はしていません。
しかし、生命学と異なりはしますが呼吸のような活動と新陳代謝は繰り返しています。
例えば製造業であれば、原材料や部品を仕入れて、それを加工し、製品として出荷・販売し、得た利益でまた原材料と部品を仕入れて加工すると言った具合です。
そして、殆どの生物同様、会社も成長期・成熟期を経てやがて衰退期を向かえ、多くの会社は消滅していきます。
創業100年以上の国内長寿企業も2万6千社強ありますが(帝国データバンク 企業概要ファイル「COSMOS2」(144万社収録)より)国内企業数の1%にも満たない数です。
日本経済新聞社から発行された「会社の寿命」(昭和59年)では「企業の寿命30年の法則」が記されている通り、会社の規模を問わず栄枯盛衰が世の常なのです。
では、何故、会社は衰退・消滅していくのでしょう。
ビジネス環境の変化についていけなくなった、変化に耐えられなくなったからでしょうか?
見よう見真似で起業してもそこそこうまくいった高度経済成長期でさえ倒産する会社はありました。
一方で、長寿企業は、オイルショック、バブル崩壊、リーマンショックなどを次々と乗り越えて今もなお成長発展しているのです。
環境変化が会社経営に及ぼす影響は甚大ですが、それが廃業・倒産の真の原因ではないと私は考えます。
全てに当てはまるわけではありませんが、消滅した会社の多くは、創業者の思いや理念が継承されなかったり歪んで伝わる事で、本来兼ね備えていたはずの環境変化への適応能力や対抗意欲が失われていった為であり、或いは環境変化に組織が正しく機能しなかった為であると私は思います。
環境変化は常に起きることであり、その変化に対抗できる企業体力を備えておくことは大切です。
しかし、いくら外圧に対する堅牢な装備を施していても、環境変化を素早く察知する判断力がなければその装備は役にたちません。
クマムシもクリプトビオシスと言う防御形態に入らなければあっさりと死んでしまうのです。
環境変化の兆候を見逃さず素早く適応しなければならないのですが、会社は、クマムシのように休眠状態になることは許されません。
(休眠会社と呼ばれる会社はありますが決算申告は必要ですし、一定期間企業活動が認められない場合は法務大臣が解散したとみなすこともできます)
つまり、クマムシと違って極限状態においても、呼吸し新陳代謝し続けなければならないのです。
そのために必要なのが、コンティンジェンシープランです。
ここでは、コンティンジェンシープランについて深く述べませんが、MBA経営辞書 – goo辞書からコンティンジェンシープランの説明を引用させて頂くと
「起こりうる不測の事態、特に最悪の事態を想定して立てる計画、対処法。
考慮すべき事態としては、極端な経済要因の変動や法的要因の変化、技術変化、国際紛争、新しい競合企業の登場、極度の売り上げ不振などがある。
いずれも、その状況に陥ってから対応し始めるのでは既に遅く、日頃の情報収集・分析能力の充実が望まれる。また、天災など全く予測不可能なものにしても、いざという時に効果的に対処できるよう、企業内に危機管理の意識・仕組みを内在化させる必要がある。」
と記されています。
創業そのものがある意味コンティンジェンシープランの実践であり、創業者はその劇的変化の中で産声をあげ生き抜いて来られた方なので、次なる環境変化も予測し適応できる方が多いでしょうし、コンティンジェンシープランもお持ちでしょう。
しかし、個人から集団と言う組織で経営を行うようになると、創業者の研ぎ澄まされた感性、洞察力、決断力が組織に伝わらなく、コンティンジェンシープランの発動が遅れることがあります。
組織が肥大化すればそれは顕著であり、危機的状況が迫ってもなおまだ、旧態依然にしがみついたり、既得権益の喪失を恐れ組織改革を拒んだりするのです。
そして、それは先に述べたクリプトビオシスに入らなかったクマムシ同様、滅亡へと進むことを意味し、気づいた時には既に手遅れなのです。
そうならにように、会社は戦略的組織変革を果敢に遂行しなければなりません。
経営者、経営幹部は創業者の理念や思いを正しく理解し、現在おかれている状況やこれから起こりうる事象の情報を正しく収集し、自身の責任でその意味を解釈しなくてはならないのです。
また、変革にはコストと体力を必要とするため、常にギリギリの経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)で経営するのではなく、いざと言う時に利用可能な組織的なスラック資源(余裕)を保有しておかなければなりません。
クマムシが極限状態で耐えられるのも、健全な体とクリプトビオシスに寄与する体内物質と危機を察知する情報処理能力があるからです。
(お金だけは持っていませんね)
少子高齢化、産業空洞化、公的債務の増大など日本の経済環境は課題山積ですが、体長1mm前後のクマムシに負けぬようしたたかに、且つ勇敢に経営を続けていきたいものです。
最後に、このクマムシ、どこにいるかと言うと、皆さんのすぐ近くにいます。
家の前の溝など湿気がありコケが生えているところなら大概潜んでいるそうです。
と言っても、体長0.15mm~1.7mm程度のため肉眼では見つけられないので、顕微鏡が必要になりますが。
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■執筆者プロフィール
富岡 岳司
ITコーディネータ京都 理事
ITコーディネータ
文書情報管理士/IPAセキュリティプレゼンター/JNSA情報セキュリティ指導者