利用者の見方が味方に / 戴 春莉

ユーザ・エクスペリエンス(UX)が話題になっています。
一貫したコンセプトで戦略・要件・構造・骨格・表層の各階層をデザインしているユーザ・エクスペリエンスは、単なるデザインではなく、ユーザのビジネス価値創造に繋がります。
例えば、
 ■二重入力のないデータ連携で利用者の作業時間・労働時間を削減
 ■ガイドラインに沿って操作を自動的にガイドしトレーニング・コストを削減
 ■データの自動チェックと保守により、人為的なミスを最小限抑え、ミス対応コストを削減
です。
 私は以前、「ソフトウェア利用者(使用者)目線の品質意識は品質向上に繋がる」という表題で、ソフトウェア品質は「要求事項適合」と「使用適合性」両方を満たすべきと申し上げました。
しかし、UXは更なる進展であり、「要求事項適合」と「使用適合性」両方に満たすことだけではなく、価値を創りユーザに感動を与えることだと考えております。
 十数年前から、弊社IT部門ではIT化による社内各部署の事務作業効率の向上を目標とし、各部門のシステム化を進めて参りました。
しかし、弊社は大手企業ではなくIT部門の人的リソースに制約があるため、システム化による事務作業効率の向上を実現しても、その後のシステムメンテナンス、社内オペレータトレーニング等の対応には限界があると想定されました。
外部ベンダーに依頼すれば、開発で数億円、メンテナンス・教育も数千万円のコストが発生するため、投資の意思決定を簡単には下せられませんでした。
投資金額を最小限に抑えつつ、既存のIT部門の人的リソースで業務を回すことができる最善の方法はないか、複数回の検討を行いました。
その結論として、徹底的にユーザ目線でシステムを構築し、ユーザ自身である程度の問題に対応できるという方針を立て、システムの開発を行うことにしました。
 例えば、基幹システムを設計する際、メンテナンスの手間とコストを削減するために、チェックポイントを入れ、内容を自動的に判別するようにし、入力における人的ミスを抑えました。
また、オペレータのトレーニングを簡略化するため、処理画面に操作ガイドラインを設け、操作マニュアルをいちいち見なくても操作を進められ、複雑な業務でも簡単に行えるように工夫しました。
 この結果、システムの自社開発による投資を最小化し、ユーザレベルでの問題解決によるトラブル対応時間やコスト削減を実現し、操作問い合わせによる時間的損失を押さえ、ユーザがその時間を他の業務に振り分けることで、結果的にユーザが生み出す価値の向上に繋がりました。
同時に、IT部門の技術者はユーザ自身が対応できないより専門的な問題や新たなシステムの構築に注力することができ、結果的に技術者の成長にも繋がりました。

 ソフトウェアの利用者は経営者、マネージャ、オペレータと様々であり、立場の違いによって要求も評価基準も違います。
その結果、当然ながら、ITに対する誤解もある程度存在し、IT技術者として誰もが辛い経験をされていると思います。
しかし、開発者は利用者目線に立って、ユーザのあるべき姿、現状とのギャップを埋めるためにやるべきことを、利用者と一緒に探ることができます。私も同様な悩みに直面したことがありましたが、利用者のUXを高め、利用者を味方につけることができれば、どんな難しい局面になっても、利用者達が守ってくれました。
まさに、利用者の見方が自分の味方になってくれました。

 ユーザのビジネス価値を創り、ユーザを感動させることは、ユーザ・エクスペリエンス(UX)の主旨ですが、どこまでユーザ・エクスペリエンスを実現するかは、開発ベンダー側でも様々の議論があります。
一方、私達の経験では、ユーザ側の発注者は、ベンダーがユーザのことをどのぐらい理解しているかに関して、ますます重要視しております。
これからはユーザが主導するIT化の時代になり、技術的に最高のシステムよりユーザに最適なシステムが求められています。
そういう意味では、ユーザ目線での開発を行わなければ、ユーザの選択リストに入ることも困難になるでしょう。
一方、ユーザ目線での開発こそ、ユーザからの誤解を防ぎ、結果的にベンダー自身を守ることにもなるでしょう。

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■執筆者プロフィール

戴 春莉
PMP(Project Management Professional)、
ブリッジプロジェクトマネージャ・システムエンジニア・プログラマ、情報システム監査士、情報処理技術者(中国)、工業デザイン修士号(京都工繊大)
デザイン分野で取得したプロセス(デザイン思考)+情報処理技術の総合ソリューションで、グローバルチームビルディング、グローバルプロジェクトマネジメントを行い、決まっているコストと納期の中、最適な高品質を追究しています。