愛されるお店になるために ~Amazonから学べること / 杉村 麻記子

 大手ECサイトのAmazonの日本市場での売り上げは、2013年度で約7400億円となり、前期比20%増とのこと。日本最大の楽天市場は1兆3000億円とAmazonの倍近くの売り上げがあるが、Amazonのこの数字はあくまでも単体(ショップとしてのAmazon)であり、いわゆるマーケットプレイスの売り上げは入っていない。マーケットプレイスの売り上げも入れるとほぼ楽天市場に並んでいるといわれている。私自身もかなりのヘビーユーザで2日に1回くらいのペース?であのAmazonの箱を開けているわけだが、たった1つのお店がなぜこれほどまでの売上をあげられるのであろうか?
本稿ではAmazonの強さの秘密を探るとともに、中小小売業が消費者(生活者)に愛されるお店になるために必要なことが何かを顧客視点から考えたい。

【4P戦略からみたAmazonの強み】
1.Product(商品)
 Amazonの品揃えは自称「地球最大?」というだけあってほぼ何でも揃う。いわゆる売れ筋ではない商品を揃えることで、買い物をする側の期待を裏切らない。
「Amazonで探せば欲しいものが見つかる」という安心感があるからこそ、買い物をしようという気持ちなる。またAmazonのサイトにいなくても、Google検索から製品のキーワードを入れるとAmazonの商品が価格入り(在庫有り)で表示されるためそのまま買い物にやってくる。この品揃えはロングテール(SEO)戦略といわれていて、ネット通販では非常に有効な戦略となり売上高を伸ばす源泉になっている。

2. Price(価格)
 定価販売が規制で守られていた書籍の購入時にポイント還元されていたり、そのほかの商品でも定価と販売価格(いくら割引するか)が表示されていて、Amazonは安いというイメージ?を消費者に植え付けることに成功している。しかしAmazonの価格は思うほど安くはない。価格比較サイトでみても、商品によってかなり安いものもあれば、最安店より3割増しなんていう商品もある。Amazonの販売価格は、需要と供給の関係で大きく変動しているといわれている。在庫がなくなりそうな時には高くなり、余っているときには安くなるといった動きをしているようだが、これは市場経済の原理からすれば当たり前の動きといえる。売価変更を自動化させているのがAmazonのすごいところといえる。
 買う側からすれば、いろいろ探しても在庫がない商品がAmazonで見つかった。
ちょっと高いけど必要なので買おうか・・といったことになる。それなりに安いものであれば、いつものお店で買う。必ずしも最安値のところから買うわけではなく、いろいろなこと(納期や、配送や返品、アフターサービスなど)を総合的に判断して購入をする。Amazonの値決めはそんな顧客の心理を上手くついた設定になっている。

3. Place(配送・返品)
 私自身がAmazonで日用品から文房具まで買い続けている大きな理由は、Amazonの配送や返品の仕組みが非常によくできているからである。有料のプレミアサービスに入会し、即日配送のサービスを利用中だ。たとえば朝にある日用品がないことに気づき、仕事の帰りに買って帰らなきゃ・・といった状況でも、朝通勤途中にスマホで注文しておけば夜に帰るときには宅配BOXに届いている。
コンビニで買うよりも安く、何よりも朝のうちに買い物が片付くのが便利である。
また複数の商品を買った時は、早く準備ができたものから先に配送してくれるサービスもある。
 楽天市場もあす楽という翌日配送のサービスがあるが、以前届かなかった経験もありあまり利用していない。(いまは配送が届かなかったらポイント5倍付与するといったキャンペーンをしているようだ。)15年前の通販では、お届けまで2週間・・なんてことも普通にあったことを思えば物流の進化には驚く。
 通販で最も困るのは買った商品がイメージと違っていたり、サイズが異なる場合などだが、Amazonも基本的なキャンセル・返品を受け付けてくれる。日本の大手の総合通販でも返品を快く?受け付けて売上を伸ばしているところもある。実店舗で買うのではないが故の不安を解消し、顧客に安心感を与えている。
 先日配送トラブルで購入した柔軟剤がこぼれるトラブルがあった。スマホでサイトにアクセスしたら夜の10時にもかかわらずすぐに電話がかかってきて、謝罪の言葉と新しい商品をすぐに手配してくれた。こういった対応で顧客満足の獲得に成功している。

4.Promotion(レコメンド、検索、クーポン)
 購入をした人のレビューがあったり、「この商品をチェックした人はこんな商品もチェックしています」といったお勧めなど、買い物を楽しむことができる要素を提供している。
 商品検索については、検索キーワードを全部入れなくても候補を出してくれるサジェスト機能や、価格帯やブランド、カテゴリーなどで絞込をする機能、検索結果の件数を表示する機能などがあり、目的をもって買い物に訪れたお客様を逃さない。
 これらECサイトに必須と言われるレコメンドやサイト内検索機能はクラウドサービスで安価に提供されるようになったが、そのモデルはAmazonを参考にしたものも多い。

 Amazonの強みは以上のように
・欲しいものが、それなりに安い価格で買えて
・頼んだらすぐに持ってきてくれる
・なにか問題があればすぐに返品ができる
・買い物途中では、こんなものを一緒に買うと便利ですよと言ってくれたり、ほかの人が買った感想もわかる。 等があげられる。

【愛されるお店になるために】
 さて中小小売業はこれらの強みのどの部分を参考にできるだろうか?
 いうまでもなくAmazonは莫大なIT投資によりこれらの機能を自動化しているしその真似はできない。お客様が望んでいることをきっちりと提供しているという観点では、やっていることはシンプルである。リソースの限られた中小小売では、すべての人々に対してアプローチをするのは難しい。ただし、お客様のセグメントを年代別、性別、地域別などで分けてその中で特に重要となる層にターゲットを絞って活動をすることで存在価値を高めることができる。例えば「○○地区の60代、70代のシルバー層」や「20代、30代の子育て中の主婦層」など特定の市場であれば、オンリーワンなお店になるのも夢ではない。

 4P戦略で考えた場合、まず商品については、特定の分野、ニッチな市場での豊富な品ぞろえで他にはない商品を提供することで強みを発揮することは可能だろう。
 価格については、大きな値引きをするのは難しいが、あまりにも高いとお客様が見向きをしてくれなくなるのである程度の価格帯を見極める必要がある。また売価変更についても、簡単なIT化で管理の仕組みをいれれば、市場の需要動向に応じて柔軟に値決めできる。ネットで市場価格を調べることもできるので、面倒でも売れる価格(利益の出る価格)を見極めて細やかな対応によって利益を確保していくべきだろう。
 配送については、欲しいものがすぐに届く「三河屋さん」のような顧客視点に立ったサービスへの対応が再び見直されてきている。
 商品名がわからなくとも「こないだTVでみたあれが欲しい・・」といえば、「これのことですね。最近よく売れてますよ~」といってくれるそんな形で世の中のトレンドとお客様の嗜好を理解して、欲しいものをお勧めできるような活動ができればお客様は繰り返し注文をしてくれるのではないだろうか?
 お客様視点に立ったサービスが何かを再度考え、少しでもそれに近づけることが、消費者から愛されるお店になるための秘訣となる。

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■執筆者プロフィール

杉村麻記子(すぎむら まきこ)
ITコーディネータ京都 副会長
ITコーディネータ・中小企業診断士・PMP