暑中 お見舞い申し上げます
近年は地球環境から来る激烈な気象変動に影響されてか、人々の意識分布も 様々なようですが、せめて心の中は調和を第一にしておきたいと思います。
2013年12月26日に中小企業庁が発表した調査データでは、我が国の全企業数は、2012年2月時点で386万者(2009年調査では421万者)です。うち385万者(99.7%)が中小企業及び小規模事業者で、更に334万者(86.5%)が小規模事業者です。通常は中小企業という単語で一括していますが、その内訳は小規模事業者が86.5%で、それより多少規模の大きい中小企業が13.2%と言うことになります。この分類は中小企業基本法の定義を用いることが一般的ですが、関連法令によっては、その境界線に多少の違いがあります。
問題は、ここでいう中小企業には相当の幅があって、従業者数が数人以下の小規模企業から大企業に近い企業まで含まれている点です。多能工化とかいうことではなく1~2名で全ての業務をこなさねばならない小規模企業と職掌分化が確立した300名の企業では、中小企業支援と言っても、当然ながらその進め方は全く違うのです。従って便宜上は、小規模企業、中小企業、中堅企業、そして大企業とする方が、それぞれの組織特性の観点からは適切なように思います。
視点を変えてICT(情報及び情報通信システム)の利活用と認識の面では、直感的に明らかなように一部の例外を除けば、大企業 > 中堅企業 > 中小企業 >小規模企業の順に低下しています。特に、大企業・中堅企業と中小企業・小規模企業との間には大きな落差があります。前者は企業組織として情報システム部を持ちICTを経営リソースとして企画し管理しているのに対して、後者は経営リソースとしての認識がないためにICTを企画管理する部署若しくは担当者もいないか又は兼務で権限は付与されていないのです。もちろん、ICT投資予算に対する認識や措置も同様です。
これをITベンダから見ると、前者は重要な市場ですが、後者は市場として認識していないという現実になります。つまり、小規模企業及びこれに類する中小企業は、ITベンダから見ると見込顧客にもならない訳で、当然何らのICT活用に関する経営改革提案も得られずに、前時代的な経営に留まったままという結果になっています。
考えてみれば、これは双方にとって不幸なことであり、国レベルで見ると大きな機会損失が発生しているように思われます。大企業及び中堅企業は事業者数では多くても3~4%以下でしょう。これに対して、中小企業及び小規模企業は96%以上の事業者数です。ここを活性化することができれば、日本の産業競争力は大幅に強化される筈です。例え1件当たりのICT投資は少額であっても、何と言っても圧倒的な多数です。小規模企業及び中小企業の市場特性を良く見極めた上で、それに合ったビジネスモデルをITベンダが実装して、適切なコミュニケーションをこの市場に成立させることができれば、双方WinーWinのハッピーな関係を確立できると思われます。
数年前からクラウドサービスが大きな期待を集めています。これは、ICTを購入して所有するのではなく、クラウドサービス業者から借りて使用する形態ですから、(1)何よりも多額の初期投資が不要になることと、(2)運用・保守のために要員ほかの経営リソースをあまり必要としないこと、(3)短期間で導入・利用できること他の特徴があり、小規模企業や中小企業に大変適したICTだといわれてきました。現在、記憶装置やサーバ及びネットワークのようなインフラ(IaaS)、開発環境やミドルウェア(PaaS)、業務用ソフトウェア(SaaS)等の幅広いサービスが提供されています。しかも、このサービスの施設は強固なセキュリティと高信頼性を確保したデータセンター(IDC)を利用しており、安心して利用できるレベルになって来ています。
では、小規模企業や中小企業は、クラウドサービスを活用しているでしょうか。
皮肉な現象ですが、一部のケースを除き、クラウドを有効に活用しているのは大企業・中堅企業のように見えます。つまり、もともとICTを管理し活用してきた企業が全社的若しくは企業グループ的な観点から全体最適を追求する中でクラウドサービスを部分的に採用しているというケースが多いようです。
クラウドサービスのビジネスモデルは米国から入ってきた経緯があって、クラウドというソリューションを開発してリリースすれば、市場が受入れるだろうという期待があったのでしょうか。国内のITベンダは受託開発の経験は積んでいても、上に記述したように小規模企業・中小企業の市場特性を見極めたマーケティングを展開するノウハウを持っていなかったようです。しかし、クラウドサービスを離陸させ、小規模企業や中小企業を活性化するためには、これは決定的に重要なことです。
(NPO)ITコーディネータ京都では、1年半程度前から小規模企業や中小企業がIT経営に取組むための支援策を検討するために、主に伝統産業や観光関連産業数社に個別訪問して課題を調査してきました。今年度からは、地元京都のITベンダとも連携して、それぞれの課題解決に取組みつつあります。小規模企業や中小企業の経営改善・改革に関する課題がありましたら、ぜひ一度声を掛けてください。
(追)前回の拙稿「知的資産経営を見直す(2014年1月6日配信)」で記述しました調査研究報告書は、現在次のアドレスにて公開しています。
http://www.j-smeca.jp/attach/kenkyu/honbu/h25/chitekishisan_guide.pdf
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■執筆者プロフィール
中村久吉(なかむらひさよし)
ITコーディネータ、中小企業診断士、プライバシーマーク主任審査員