感動が原動力 / 小林 由香

 東京から帰りの新幹線で、ふと「新幹線開業50周年」のポスターが目に留まっ
た。0系ひかり号のテープカットの様子、くす玉の垂れ幕には「祝 超特急ひか
り号」と書かれていた。そして、その傍らに「東京駅19番線。出発を告げる汽笛
をかき消すほど湧き上がった、たくさんの歓声。その感動が、私達の原動力にな
りました」と。記録的猛暑の日帰り出張の疲労感がスーッと消えたのは、言うま
でもない。1964年10月1日の感動の瞬間から、もうすぐ50年を迎える。

 その年に生まれた私は、その瞬間をテレビで見たりラジオで聞いたかもしれな
いが、もちろんその記憶はない。しかし、物心ついたときから、おもちゃ箱の中
に0系ひかり号の模型があったことは覚えている。新幹線に初めて乗る前日の夜
はわくわくして眠れなかったし、京都駅の新幹線ホームで、入構してくる新幹線
のボンネットとまんまるのライトを見たときは、心臓がどきどきした。「新幹線
開業50周年」のポスターは、それを思い出させてくれた。

 ポスターの「その感動が、私達の原動力になりました」であるが、これは、新
幹線に携わった方々だけでなく、この国の成長の大きな原動力の一つとなったに
違いない。あれから50年たった現在、衣・食・住にまつわる物質的欲求は満たさ
れ、また、あらゆる情報が氾濫している。例えば、新しい情報端末が出たら最初
は感動するのであるが、わずか数か月で新機種が登場するし、SNSのような新
しいツールも、使っているうちに気持ちが冷めていくこの頃である。消費者は、
また新たな刺激を求め、メーカーはそれに応えようと新商品を続々と送り出すと
いう繰り返しである。
 
 さて、わが身を振り返り、自分に問いかけてみる。
 お客様に感動をあたえられているだろうか。
 また、相手の感動を受け止める感性が持続しているだろうか。
夢の超特急が走り出すほどの感動ではないにせよ、日々のビジネスの中にも、必
ずその瞬間はあるはずなのである。それらを相手と共有できて初めて、本当の意
味でのコミュニケーションをはかることができ、感動をあたえられるのではない
だろうか。例えば、自分自身が忙し過ぎて、視野が狭くなっているようなとき、
感動する心が鈍く、その瞬間をキャッチすることが出来ず、相手にも感動をあた
えられない。

 以下は、ほんの一例であるが、私がハッと我に返った瞬間である。とある役所
の窓口で順番待ちをしていた時である。事業者が許可申請を手続きされているが、
書類に不備があり、希望の期限までに間に合わず、困り果てておられる様子であ
った。もちろん、書類が揃わないので、本来ならば出直してもらうしか方法はな
いのであるが、その、窓口担当者の対応が、親切かつ丁寧で驚いた。審査の時間
短縮のために、その時、揃っている書類で審査をして、その間に足りないものを
集めるようなアドバイスをこと細かにされたように思われる。
 その窓口は、月末のせいかかなり混雑していた。それにもかかわらず、困った
表情も見せず、根気よく一つ一つ丁寧に対応をしておられた。考えてみれば当た
り前のことなのだが、その対応のレベルの高さに驚き感動したのである。今まで
持っていたイメージががらりと変わった。そして、ハッと我に返り、余裕のない
自分に気づかされたのである。
 
 仕事柄、税務や会計の相談に加えて、企業の経営者に新たなプロジェクトのス
タート時や、転換時に、それについての意見を求められることが多い。どのよう
なプロジェクトも、顧客を満足させるにあたう製品・商品・サービス内容でない
と、顧客の満足は得られないのは、もちろんのことであるが、加えて感動をあた
えられるかどうかが、大きなポイントではないかと考えている。
 しかしながらその時々で私自身の感動する心が鋭くないと、感動をあたえられ
るかどうかの正確な判断やアドバイスはできない。生身の人間であるから、それ
を保つのには、工夫がいるのである。

 思えば、あっと言う間の50年であった。そしてその半分の約25年間、今の仕事
をしてきた。これからの50年いつまで仕事を続けているかはわからないが、変化
する時代に適合し、仕事のスキルを向上させることは、最低限必要な条件であり、
さらに感動する心を磨いていかなければならない。あのポスターは、静かに語り
かけていた。これからの50年、新幹線も新たな局面を迎えることになるのであろ
うが、あの感動は、いつまでも私の胸に刻まれ続ける。

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■執筆者プロフィール

小林由香(Kobayashi Yuka)
小林税理士事務所 所長
税理士、ITコーディネータ、ファイナンシャルプランナー
「お客様の発展のため、最大限の努力をいたします。」が信条。

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