ビッグデータで競争優位を築く / 下村 敏和

 最近のIT業界では「クラウド・コンピューティング」と並んで「ビッグデータ」がもてはやされています。近年、ITコストが劇的に下がったことにより、ビッグデータと言われる“既存技術では管理するのが困難な大量データ群”の処理が可能となってきました。ビッグデータの活用領域は驚くべきスピードで拡大し、奇跡的な事象を起こすことも可能となってきています。ビッグデータ活用に知恵と労力を惜しまずチャレンジすることが他社との競争優位を築くことになると信じ、今さら聞けない「ビッグデータ」について少し勉強したいと思います。

■ビッグデータとは
 ビッグデータの本質は、従来の業務システムデータのような構造化されたデータ加えて「構造化されていないデータ」(以下、非構造化データと呼ぶ)にあります。

1)非構造化データとは
様々なログファイル(システムログ、アクセスログほか)、Webサイト・ブログ、ソーシャルメディア(Facebook、Twitterなど)、メール、静止画・動画、音声、各種センサーデータ、GPS、RFIDなどが挙げられます。
2)ビッグデータの特性、3つのV
ビッグデータの特性としては、3つの頭文字からはじまるVolume、Variety、Velocityにキーワードであらわされる。
・Volumeはデータ量(現状では数十テラ~ペタバイトクラス)、
・Varietyは多様なデータ(構造化データ+非構造化データ)、
・Velocityは処理速度の速さ(データの生成頻度、更新頻度)
を意味する。さらにVeracity(正確さ)、Value(価値)、Vision(ビジョン)などが加えられる場合があります。
3)ビッグデータでビジネス価値を創造
ビッグデータの価値は、「これまで見えなかったものが、見えるようになる」という点にあります。「膨大な形式知」から「見えなかった暗黙知」を見える化できるようにするのです。
a)コスト削減、
b)意思決定の改善(高速化/質向上)、
c)製品・サービスの改善
などの目標設定を行い、必要な特定データを収集し、課題解決に向けてデータ処理し、分析し、試行錯誤を繰り返して、その中から解決策を発見し、その知見を業務に落し込むことによってビジネス価値を創造します。

■ビッグデータの事例研究
ビッグデータ分析では、ネット企業や旅行会社、クレジットカード会社などでの活用が先行しましたが、その他業界でも多くの活用事例がでてきています。
1)意思決定・製品・サービスの改善の視点
 医療分野では癌の早期発見のために患者のCT画像に似た画像を多くの症例から類似検索をして意思決定支援を行ったり、製造分野ではある商品と一緒にどんなキーワードが検索されているかをネット会社からデータ提供を受けて新製品開発に繋げたり、農業分野では露地や施設栽培での農場内に設置された各種センサー情報(気温、湿度、日照量など)から品質の良い商品開発に繋げるなど農業の見える化による収益改善への貢献が可能となって来ています。
2)異変を察知する視点
 各種センサーにより集められた沢山の過去データとリアルタイムに収集されるデータとの差異分析により異常値を検知する仕組みへの応用が期待されています。社会インフラ(橋梁、高速道路)、製造プラント、発電所そして自動車、列車、航空機などの故障予兆監視、品質管理強化への適用が考えられます。一方、製造業では製品だけでなくそれを作り出す機器類にも様々なセンサーを埋め込むことによってパフォーマンスを測定し、故障を素早く察知して保守業務などの効率化を図ったりすることも可能となります。
3)近未来を予測する視点
 GPSと各種センサーを組み合わせた例として、自動車のワイパーにセンサーを付けることによって、次に雨が通るところを予測することが可能となります。また、糖尿病の発症事例から多くの人の体組成計、歩数計、血圧計といった日々のデータと健康診断データ(血液検査データほか)、レセプトデータを分析し、糖尿病高リスク患者を予測することが可能となります。
4)今を描き出す視点
 運送会社では荷物の追跡システムによる自社の輸送ネットワークの最適化に加えて、今後は様々なセンサーによりサプライチェーン上の荷物の状態(周囲の明るさや温度、荷物の傾きやそれにかかる加速度、開封されたかどうかなど)の把握が可能になります。また、ネット上のTwitterのつぶやき情報の分析により、風邪の流行具合を把握して、より役に立つ風邪薬の情報をWeb上で発信したりすることも可能となります。

 今のところ大企業中心の事例ですが、今後新たな分析ツールの開発やSaaS化やクラウド化が進む中、中小企業においても競争優位を築き、生き残り戦略の重要な要素になると考えられます。

■ビッグデータのこれから
1)データを自ら生み出す
 城崎温泉の「ゆめぱ」は宿泊客が旅館にチェックインする際に携帯電話(おさいふ携帯付)やICカード(Suica、Pitapa、Edyほか)を受付でゆめぱ端末にかざし、利用登録を行う。携帯電話やICカードを持って外湯に行き、受付でゆめぱ端末にかざせば、その場で料金の支払いや飲食店などの支払いが可能になります。地域ぐるみで顧客の行動データを集めることにより、宿泊客の動線やどの店で何を買った等の情報が把握できるようになりました。
2)「顧客」から「個客」の理解へ
 ネットで商品を検索し、購入した情報が知らないうちに収集され、画一的な広告情報ではなく、顧客の興味・関心に照らし合わせた広告がでる個客対応が実践されています。また、交通系や店舗系のICカードなど電子マネーが急速に普及しています。これらの販売データから新商品開発に繋げたり、行動履歴から購買ストーリーを探るなどマーケティングに使われます。
 企業はデータの対象となる利用者に気持ち悪さを残さないように、データの内容や活用する範囲、意図、還元されるメリットなどを事前かつ丁寧に説明しておくことが、今後のビッグデータ活用の大前提になってきます。
3)機械学習とM2Mの普遍化
 先の” 異変を察知する”では「判断の自動化」につながる機械学習を利用しています。機械学習を使うと、収集した大量データから自動的にルールやパターンを見つけ出すことが出来ます。そのルールやパターンを「素早く」使えば、意思決定の作業まで自動化できるわけです。
  最近の自動販売機では、電子マネーで購入できるものが増えてきています。
これらの購入情報はM2M(マシンtoマシン)で自動転送され、商品配置・補充のオペレーションの質向上に使われています。

ビッグデータの活用は緒に就いたばかりですが、データ活用の文化を企業内に根付かせることも経営者として考えなければならないことだと思います。

(参考文献)
 ・データ・アナリティクス3.0 トーマス・H・ダベンポート著
 ・ビッグデータ入門 小林孝嗣&できるシリーズ編集部 著
 ・日経コンピュータ 2011.9.15号、2012.2.2号、2014.7.24号

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■執筆者プロフィール

 下村 敏和
 ヒーリング テクノロジー ラボ 代表
 ITコーディネータ