「牛乳こぼし部」や「パン部」をご存じでしょうか?/山口 透

 「牛乳こぼし部」や「パン部」をご存じでしょうか?
 「牛乳こぼし部」や「パン部」は部活動ではなく、大小(たいしょう)というデザイナーが作ったブランドのひとつです。女子高校生や女子大学生に人気が出てきているブランドで、Tシャツやワンピース、スカート、靴下、コートなどをデザイン・製造・販売しています。原則は店頭ではなく、インターネットによる販売です。商品は高額で販売され、Tシャツは5000円ほどの値段がついています。

 また一度に売り出す数量に制限があるうえ、販売機会も年に数回と限られています。販売数量は開示されていませんが、人気商品のTシャツは毎回30分ほどで売り切れている様子です。さらに、売り出すたびにテーマとデザインが変わっているため、商品の希少が高くなっています。

 もちろん人気があるのはこの希少性だけが要因ではありません。
 経営的な視点で見てみると、人気の秘密にマーケティングのうまさがあると考えられます。

 ひとつは、デザインやコンセプトの明確化とテーマの一貫性です。
 デザインについては、商品のイメージを淡い色に統一しています。「パン部」のデザインの場合は、食パンを全面に押し出し、ジャムやピーナツを塗っています。「牛乳こぼし部」は牛乳瓶から牛乳がこぼれたデザインが中心です。いずれもかわいらしく「ゆるい」デザインが特徴です。これらを着たモデルは雑誌の読者モデルが多く、薄めのナチュラルな化粧でふんわりとしたイメージを与えています。勝手なイメージで恐縮ですが、女優やモデルの本田翼さんを想像していただくとよいでしょう。

 またテーマは全体的に一貫していますが、毎回変化しています。
 パン部は、「朝起きて、眠い目をこすりながら朝食の食パンを食べて、腹ごなしに少し運動をして、そしてゆっくりと出かけるまでの服です。」とテーマを設定していました。次の牛乳こぼし部では、「成長したくて前のめりに上昇志向だけど勢い余って慌てすぎるとこぼしたり、飲み過ぎてお腹を壊したり、、、でもちょっとずつでも成長したくて、、、」というテーマで販売していました。

 もうひとつは、このブランドイメージはSNSを使って広がっています。
 特に、女子高校生や大学生が使うInstagramやTwitterで情報が拡散されています。この商品を買った消費者が、読者モデルのようにポーズをとりInstagramやTwitterに掲載しています。他の商品にない可愛らしさ、商品のテーマやイメージが広告費用をかけることなく拡散しているのです。

 さらに商品の広告力を高めているのがバッチです。
 バッチはカバンや、このブランド以外の服にもつけることができます。服は毎日着替えることを考えると、このブランドのTシャツやスカートは他人に見てもらえない日がありますがバッチは毎日人の目に触れます。

 これをみた別の女子がそれなに? ということからはじまり、TwitterやInstagramでこんなデザインだよと見せることができます。

 情報は、毎日見せるバッチでリアルな世界に広まり、TwitterやInstagramでバーチャルな世界に広まっているのです。

 先日私はこの例を、学校の先生向け教材の製造販売会社に説明しました。
 これまではTwitterやブログなどとは無縁の会社でしたが、先生や生徒たちはSNSを利用しています。Twitterを使って先生に向けた商品情報を提供し、商品イメージを高め、Twitterなどで反応があった人や学校にサンプルを届けるという手順を繰り返し、リピート販売や別の商品の新規購入に役立てるということができるようになりました。

 私はこの「牛乳こぼし部」や「パン部」を娘が話題にしているので知ることができました。SNSの活用のために、他の業界でうまくいっている例を参考にしてはいかがでしょうか。

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■執筆者プロフィール
山口 透(とおる)

流通業や製造業等でIT戦略策定支援やバランススコアカードの導入、DWHの構築支援などを行っている。中小企業診断士、ITコーディネータ、システムアナリスト