毎朝繰り返される身支度タイムの騒動。小1の息子がマイペースで食事をするのを見かねて、「早く食べなさい、今何分だと思ってるの、学校に遅れるぞ、早め早めになんでできないんだ・・・」祖父母が孫に向かってかける言葉はさまざまでイライラ感が伝わってくる。息子はと言えば家を出る時間にはちゃんと間に合うんだからいいじゃないか・・・と急ぐ風でもない、あれこれ言われるとかえってゆっくりしたりする。時々見込み違いで大慌てで半べそをかくこともあるが、時間にはちゃんと間に合っている。
毎日同じことの繰り返しなのになんでこんな状態なのかな~と考える。朝起きて学校に行くまでの時間にまったりゆっくりするのが彼流の時間の過ごし方なのだろう。家を出る1時間45分も前に起きているのだ。途中あれこれ言われて嫌な気分にはなるものの、結果、間に合っていて困ることはないため続けていると思われる。朝の騒動を終え学校に行く息子を見送りながら、人はやはり結果で動
くものだとつくづく思うのである。
企業支援の現場では、「人の行動をどう引き起こすことができるのか」、そして「どう成果に結びつけるのか」ということを意識している。つまりは、「行動」と「成果」を最大化することを目指して関わっていくのである。なぜならば、売上は事業に関わる人の一つ一つの行動が積み上がりもたらした結果であると考えるからである。ということで、今回は「行動分析学」という学問の中の「ABCモデル」を紹介したい。
Aは、“Antecedents”=誘発要因
Bは、“Behavior”=行動
Cは、“Consequences”=行動結果
ABC モデルは、人間の行動の発生の背景にある「行動原理」を示すもの。人間の行動は全て「誘発要因→行動→行動結果」のサイクルに従っている。まず、行動を起こす前には、その行動を促す何かしらの事柄やきっかけがあり、これを「誘発要因」と呼ぶ。そして、それをきっかけとして、何らかの「行動」が起こり、その「行動」の結果、行動者にポジティブな結果やネガティブな結果が起こり、行動者は何かを感じることとなる。このことを「行動結果」と呼ぶ。
たとえば、「夕飯何食べる?と話しながら、ふと目にとまったレストランの看板を見て、店に入り、食事をする。値ごろ感がありとてもおいしかった」という一連の行動は、ABC モデルでは、
誘発要因(A): レストランの看板を見る
行 動(B): 店に入り、食事をする
行動結果(C): 値ごろ感がありとてもおいしかった
となる。このようなサイクルを体験すると、人は、次回も「誘発要因」(A)であるそのレストランの看板を見たときに、「店に入る」という「行動」(B)を起こしたくなる。そして、その結果、さらに「店主との会話が楽しかった、子供にお菓子をもらった等の良いサービス」という新たな体験、つまりは「行動結果」(C)を得ると、このサイクルが強化されていく。一方、「高い割には、いまひとつおいしくなかったね」という「行動結果」(C)を得た場合は、次回、「店に入る」という「行動」(B)は減少する。
レストランの顧客がリピートするかどうかは、「行動結果」(C)によるということである。すなわち、その人にとって「値ごろ感がありとてもおいしかった」という「ポジティブな行動結果」であれば、将来、再度「店に入り、食事をする」という「行動」(B)が起こる可能性は高まるである。
しかし、「高い割には、いまひとつおいしくなかったね」という「ネガティブな行動結果」であれば、二度と行かないのだろう。一度、そのような体験をしてしまうと、たとえその店から「割引クーポン」をもらったとしても(誘発要因(A)を刺激されても)、再びこの店に行く可能性は減少するだろう。つまりは、将来の行動の頻度は、行動の前に存在する条件「誘発要因A」よりも、その行動の直後に何が起こったのか「行動結果C」に、大きく影響を受けるということである。
店前看板にお金をかけても、ホームページやFacebook等で一生懸命情報発信しても、それは誘発要因でしかない。もちろん顧客が買いたくなるような感性情報をタイミングよく届けることは大事だが、当社の商品やサービスを体感いただいた後に顧客がどう感じるかによって次の行動につながるかどうかが左右される。
既存顧客の満足よりも新規顧客獲得に気持ちがいきがちであるが、まずは確実な「行動結果C」を導き出すことを意識したい。
誘発要因(A)は、行動を引き起こす刺激であり、きっかけをつくるものの、その効果は短期的であり、行動を定着させるまでには至らない。継続的な行動に結びつくことを重視したい。店にとって、望ましい行動を繰り返してもらおうと思ったら、「行動を起こさせるために何をするか(誘発要因(A))」も重要だが、「その人が行動したことに対して、何をするのか(行動結果(C))」をマ
ネジメントすることが重要だということである。ビジネスシーンにおいても、本当に社員の行動を変えたいと思うならば、「誘発要因(A)」ではなく「行動結果(C)」に力を入れる必要がある。
そこで、行動結果についてもう少し詳しく見ていく。私たちは行動した後に以下のような4つの行動結果のどれかを手にしている。
1)承認による行動強化
その行動をすると「欲しいものが得られる」ので、将来の行動頻度は増加する。
テレビで見かけるペットの芸も、飼い主の悦ぶという承認を得て芸を覚えていったのではないかと思う。
2)脅迫による行動強化
その行動をすると「嫌なものを避けられる」ので、将来の行動頻度は増加する。
いわゆる、子供が親に怒られるからやるという状況である。
3)処罰による行動弱化
その行動をすると「嫌なものをもらう」ので、将来の行動頻度は減少する。
その昔、廊下に立たされたり、居残りさせられたのはこれだろうか。
4)無視による行動弱化
その行動をしても「欲しいものはもらえない」ので、将来の行動頻度は減少する。息子に何を言っても状況が改善されないとき、しばし放っておくことがあるが、無視なんだなあと改めて思う。
DSなどのゲームなども同様で、息子が熱中しているのを見て、何が面白いのだろうと思うものの、ゲームが「承認による行動強化」を与えているのだなあと理解している。何が面白いの?と聞けば、どんどん強くなっていく、アイテムが手に入る、友達とゲームの話ができる等々、ゲームを順にクリアしていく達成感や上達していく成長感、友人と競い合って優越感を手にするなどの「行動結果(C)」が、行動を反復させているのだ。親としては何とも厄介であり、でも本当によくできているのである。
「承認による行動強化」は、「行動をしている最中」に行うのが最も効果的、最中が無理な場合は、「行動が終わった直後」である。それは、行動者が、「どの行動に対して『承認による行動強化』が行われたのか」をはっきりつかむことができるからである。
なるほど、最中に褒めればいいのか!ということで、登校前の朝タイムに、「時間通りに起きられたね!」「おっ、今日はもう着替えたんだ」「もうちょっとで食べ終わるね」「今日は余裕があるね」と毎日繰り返し言ってもすぐに飽きてしまう。「承認による行動強化」を行うときに気をつけたいのは相手が「何が欲しいのか」「何を得たいのか」「どう認められるとうれしいのか」であり、それは人によって異なるのである。行動結果は、本人がどう感じたか、が全てである。さて、我が息子はどんな「行動結果」を求めているのだろう?
皆さんも是非、「人は結果で動く」ということを意識し、皆さんの関わる人の承認の好みを探り、目的に向かった行動を引き起こしていただければと思う。
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■執筆者プロフィール
中川 普巳重(なかがわ ふみえ)
(公財)京都高度技術研究所 新事業創出支援部 コーディネータ
(一財)九州産業技術センター 九州地域新産業戦略に基づくイノベーション創出事業 コーディネータ
中小企業診断士、ITコーディネータ、日本経営品質賞セルフアセッサー、
(財)生涯学習開発団体認定コーチ、キャリア・デベロップメント・アドバイザー