中小企業(法人)の決算は一般的には年一回行われます。決算時に作成される書類は貸借対照表や損益計算書等の財務諸表、法人税等の確定申告書の税務書類です。確定申告書を税務署に提出する際、税理士法第33条の 2の書面を申告書に提出する事できますが、その添付率は約 8%となっており、決して高い率とはいえません。今回はこの書面添付制度について説明いたします。
1.新書面添付制度(税理士法第33条の2の書面)
新書面添付制度は、税理士法第33条の 2に規定する計算事項等を記載した書面を税理士が作成した場合、当該書面を申告書に添付して提出した者に対する調査において、従来の更正前の意見陳述に加え、納税者に税務調査の日時場所をあらかじめ通知するときには、その通知前に、税務代理を行う税理士又は税理士法人に対して、添付された書面の記載事項について意見を述べる機会を与えなければならない(税理士法第35条第 1項)こととされているものであり、税務の専門家である税理士の立場をより尊重し、税務執行の一層の円滑化・簡素化を図るための制度です。
この制度は税理士が申告書を作成するに当たって、どのような帳簿や資料の提示を受け計算整理を行ったか、納税者からのどのような相談に応じたかを記載した書面を作成します。例えば、取引先が倒産し、多額の貸倒損失を計上したような場合に、法的整理か私的整理によったのか等内容を具体的に記載し、その事実を確認した書類や、どの通達に基づいて貸倒処と判断したのかを記載します。
この書面を申告書に添付した場合には、税務調査の事前通知前に税理士から意見聴取をするというものです。この意見聴取は税務署の職員と税理士により行われ(納税者は同席できません)意見聴取をしたことによって、疑問点が解消した場合には税務調査が省略されることとなります。ただし、この意見聴取は事前通知のある調査に限られ、納税者に不正の疑いがある等により行われる、いわゆる無予告調査に係るものについては行われません。
税務調査というものは、たとえ不正を行っていなくとも経営者(納税者)にとって嫌なものです。過去の帳簿や請求書、契約書等を確認されることになるので物置の奥にしまってある書類を引っ張り出してこないといけませんし、調査当日も相当な時間がとられることになります。
また、税務署側にしても国の予算の関係や、昨年より税務調査の手続が厳格になったことにより実際の調査件数は減少している現実があります。
ゆえに、この書面添付制度は調査をする側、受ける側どちらにとってもよい制度のようですが、上記に記載したように法人税に関していえば 8%の添付しかないのが実情です。これにはどのような理由があるかを考えますと、
・税理士法第33条の 2の書面を出せば必ず調査が省略されるものではないこと及び事前通知のある調査に限り意見聴取がされること
・税理士法第33条の2の書面の作成に対する手数料を報酬に転嫁しにくいこと
・虚偽記載を行った場合には税理士が業務停止等の懲戒処分を受けること
等があります。
通常、書面添付を行っている税理士事務所でもすべての顧問先に対して書面添付を行っているとは限りません。月次で監査を行い証憑等の確認ができている関与先でないと書面の作成ができないからです。私どもの事務所でも関与して 3年以上で、原則として翌月監査による月次決算ができる関与先様と、TKC全国会で作成した基本約定書に基づき意思確認を行い書面添付を行っています。
新書面添付制度は、税務の専門家である税理士に対して付与された権利であるといわれますが、その作成、添付は任意となっています。前述のようにその添付率は8%ですので書面添付を行っている税理士の方が少ないのかもしれません。書面を添付するかどうかは、個々の税理士自身が判断することになりますが、実際には納税者との信頼関係のうえに、適時、適正な記帳による決算が基礎となり書面の添付を判断するものと考えます。
ゆえに書面が添付された申告書、決算書は国税からの信頼を得るだけでなく、金融機関からも信頼されることとなり、安定した経営を行うことができるのではないでしょうか。
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■執筆者プロフィール
竹内政明(たけうち まさあき)
竹内政明税理士事務所(認定経営革新等支援機関)
代表 税理士・ITコーディネータ
近畿税理士会右京支部 副支部長
TKC全国会会員・電子申告、書面添付推進事務所