2014年も残すところあと2日となりました。今年のICT市場は、ソーシャル、分析(ビッグデータ)、モバイル、クラウドなどが注目されていました。その中でもクラウドについて、IDC Japanによる予測では、国内パブリッククラウドサービス市場は、2013年の同市場は前年比37.4%増の1302億円となり、
2018年は2013年比3.0倍に当たる3850億円に拡大するとのことです。
中小企業がIT導入時にクラウドを一つ目の選択肢として検討する「クラウドファースト」が当たり前の時代となってきました。皆さんよくご承知のAmazonは、当日配送で日本の通販市場にインパクトを与えてきましたが、Amazon Web Serviceも同様にクラウドの世界でもそのスピードと実行力でIBMやHPといったハードメーカーを追いやり、MicrosoftやGoogleを凌いでいます。
2014年はまさにクラウド時代真っ只中・・といえるようです。クラウドサービスを使う、メリット、デメリットも見えてきました。実際に利用する際には以下のような「中小企業のためのクラウドサービス安全利用チェックシート」にあるようなことを十分考慮しておく必要があります。
A.クラウドサービスの利用範囲について
・利用範囲の明確化(利用する対象業務の切り分けや運用ルールの設定)
・適切なサービス選定(種類とコスト)
・扱う情報の重要度と管理レベルの決定
・セキュリティポリシーやルールとクラウドサービスの整合性
B. クラウドサービスの利用準備について
・担当者の確保しているか
・ユーザの適切な管理ができるか
・パスワードの適切な設定・管理ができるか
・サービス停止時などに備えたデータの複製ができるか
C. クラウドサービス提供条件等について
・事業者は信頼できるか
・サービスレベルなどの信頼は高いか
・セキュリティ対策は万全か
・利用者サポートは充実しているか
・利用終了時のデータ取り扱いの条件はあっているか
・契約条件項目を確認したか
※IPA「中小企業のためのクラウドサービス安全利用の手引き」より
http://www.tokyographics.or.jp/privacy/cloud_check.pdf
公的支援機関からは、このようなクラウド利用の手引きがでていますので大いに参考にしてください。そして再度私自身が考える「クラウドサービス利用のやってはいけない」を3点あげさせていただきます。
1)目的と手段をはき違えてはいけない
様々なクラウドサービスが提供されていて、簡単に導入することができるようになっています。うまく活用するためには、ビジネス課題の解決といった「目的」とそのために何をすべきか「手段」を考えてその1つの選択肢としてクラウドサービスがあるという意識が大切です。そもそもシステム活用が必要なのか? そのシステムの利用形態にはどのようなものがあるのか?(クラウド? オンプレミス?) クラウドサービスを使うことが目的になってはいけません。
2)有償サービスだからといって安心してはいけない
無料クラウドサービスの利用は、突然のサービス停止といったリスクが潜んでいることご承知のことと思います。Yahooグループやgooメール、iGoogleなどの大手の無料サービスが終了して別の仕組みに乗り換えられた方も多いのではないでしょうか? このように無料サービスでは突然のサービス停止されるリスクが高いのですが、有償サービスだからといってこのようなリスクがゼロになるわけではありません。実際に有償のストレージサービスであったKドライブは今年の8月でサービスが終了しました。
有償サービスであっても、プロバイダー側の方針や戦略によってサービス提供がされる場合がありますので、有償無償にかかわらず、プロバイダーの会社の状況や利用者の推移、提供条件などを十分に調べておく必要があります。
3)ずっと同じ機能が利用できると思ってはいけない
利用者が多くて有償サービスだし信頼ができるプロバイダー、新規の契約者が増えているだから安心でしょうか? 答えはNoです。
クラウドサービスは多くのプロバイダーが参入していて競争が激しい市場です。
したがってサービスプロバイダーは新しい利用者を獲得し、既存の利用者が他社に流れないように、どんどんと新しい機能を提供し、利用できるシステム環境(OSやブラウザー)などをどんどんと新しいものに対応できるような改修を行っています。利用者にとってメリットがあるようにも思えますが、実はここに落とし穴が潜んでいます。
新しい機能が提供されるということは、使えなくなる機能もあるということです。この機能が利用したくて契約したのに、突然使えなくなるといったことが発生します。最初からシステムの機能が足りない場合は、システム以外の業務処理などを準備して対応することが可能です。しかし順調に使えていた機能が突然使えなくなると、せっかく整備された社内のフローなどを一から見直す必要が出てくるのです。
また利用できるWindowsOSの環境やInterenetExplore等のブラウザーのバージョンに関する問題があることは、案外と気づいていない利用者も多いようです。
社内のパソコンにオンプレミスの仕組みを導入して使っている場合は、パソコンのOSやInterenetExploreバージョンを無理にバージョンアップする必要はなく、古いバージョンのモノでも十分使えます。これがクラウドサービスだとどうでしょうか? パソコンにソフトを入れずにブラウザさえあれば使えるというのがクラウドサービスのメリットの一つですが、これが逆に足かせになるのです。大手で利用者の多いサービスプロバイダーになればなるほどWindowsOSやブラウザバージョンアップに早く対応をしてくれます。これは逆に古いバージョンのサポートができなくなるということを意味します。例えばMicrosoftのOffice365のSharePointがサポートするIEのバージョンは11および10です。(今後は最新のみとなる) IEのバージョン8や9はサポート対象外です。別に古いIEでも使えるのでは? と思われるかもしれませんが、実際にIE8では突然使えていた機能が使えなくなり、操作に大きな支障をきたすようなケースが多く発生しています。このような場合はいくらサポートに問い合わせをしても、「IEのバージョンアップをお願いします」と切り返されるだけですので、それに従わざるを得ません。ブラウザーのバージョンアップができればいいのですが、今度は他のシステムやサービス利用ができなくなるという問題も発生する可能性があります。
クラウドサービスは、システム導入のコストや時間を短縮することができる大変便利なサービスですが、このようなリスクや問題があることを十分理解して活用することが大切です。
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■執筆者プロフィール
杉村麻記子
中小企業診断士・ITコーディネータ・PMP