1.はじめに
パブリッククラウド(以下クラウド)の導入が進みつつあります。一部の企業はクラウド・ファーストを提唱し、情報システムを構築するときにオンプレミスより先にクラウドの利用を検討しています。その一方で外資系のクラウドサービスの先行き(サポートの内容、予告ない値上げ等)や情報セキュリティ他に対する不安から、クラウドの導入に二の足を踏む企業も多いです。
クラウドの特徴の1つに試導入の容易さがあります。イニシャルコストが非常に小さく、ランニングコストが従量制であるため、少人数用に導入し使ってみて、不安を払拭できたら本導入し、ダメだったら止めることが可能です。特に、オフィス系クラウドは、これまで多くの企業がオフィス系ツールを使用していることや、無償版のオフィス系クラウドを個人的に使っているユーザーが結構多いことから、試導入と後の本導入の際にユーザーがあまり迷わずに使用、操作できる特徴があります。
本稿では、Google Apps for Workを導入した企業から、実際に得たメリットやデメリット等をお聞きしたので紹介します。
2.Google Apps for Workの概要
Google Apps for Workは、グーグル社が提供するオフィス系クラウド(SaaS)であり、Gmail、カレンダー、ドキュメント、ドライブ、ハングアウト、サイト(ポータル、掲示板)といったツールから構成されます。
・Gmailはメールです。無償版もあり、全世界で4億人以上が使用しています。
・カレンダーは予定表です。「予定」の場所はGoogleマップ上に表示し、ハングアップ(ネット会議)を予約することもできます。
・ドキュメントは文書作成/表計算/プレゼンテーション作成のツールです。マイクロソフト社のWord/Excel/Powerpointとの間に、完全ではありませんが、相互互換性があります。
・ドライブはオンラインストレージまたは個人単位のファイルサーバです。基本パックではユーザー1人あたり30Gバイトを全ツールのデータ保管用に使用できます。
・ハングアウトはネット会議のためのツールです。在席表示/チャット/TV電話と画面共有の機能を用いて、離れた場所のユーザー同士で会議を開催できます。
3.Google Appsのメリット
Google Appsのメリットとして、以下をお聞きしました。
(1)低コスト
基本パックは、ユーザー1人あたり月額500円で利用できます。メール・予定表や掲示板等のグループウェア、ファイルサーバ、ネット会議のツールを個別に全て導入するときと比べれば、コストを大きく低減することが可能です。また、必要なユーザー数分のライセンスを初期購入する必要のあるオンプレミスと比べて、初期費用をほとんど掛けず、ユーザー数の増減を利用料の増減で対応できます。
(2)デバイスを選ばない
ツールの多くはWebブラウザから使用します。Chrome、Internet Explorer、Safariといったマルチブラウザに対応しているため、WindowsPCだけでなく、iPhoneやiPad、Androidスマートフォン・タブレット等のマルチデバイスで利用できます。
(3)BYOD(Bring Your Own Device)
デバイスを選ばないことに加えてインターネットからアクセス可能なため、個人のデバイスから容易に利用できます。ユーザー個人が保有するスマートフォンを用いることでデバイスに掛かるコストを大きく低減することが可能です。
4.Google Appsのデメリット
続いて、お聞きしたGoogle Appsのデメリットです。
(1)機能と操作性
Gmailやカレンダーは他社のソフトに比べて機能と操作性が劣ります。また、ファイルは特定ユーザーが所有するため、グループで共有するには一手間掛かります。
また、バージョンアップが頻繁に行われ、急に、使っていた機能がなくなる、操作性が変わることがあります。
(2)情報セキュリティ
グーグル社はISO 27001(ISMS)を取得しており、セキュリティパッチ等の対策を適宜実施するため、ユーザー企業はセキュリティ対応の負担から解放されます。ただし、標準設定では各ユーザーがアクセス権限を自由に変更できるため、知らない間に社外から社内情報を閲覧できるようになっていることがあります。
標準設定を変更し、社外からのアクセスを完全に遮断することで防止できますが、BYODを実現しにくくなります。
お聞きしたものではありませんが、以下は一般的なデメリットです。
(3)可用性
SLA(サービスレベル契約)における可用性は99.9%ですが、2013年の実績は99.98%を越えています。それでも1年間に10時間以上は停止する計算となり、実際に30分以上停止することもあります。そのような停止時間を許容できるかどうかは、業種業態に依ると考えられます。
(4)ネットワーク性能
企業とGoogle Appsのクラウドセンターの間のネットワークの性能によって、大容量のファイルを扱う場合等にレスポンスが悪化します。ネットワークの性能を向上させる場合はコストが増加します。
5.おわりに
上記ではグーグル社のGoogle Appsを紹介しましたが、マイクロソフト社のOffice365でも同様のメリット・デメリットを得られることが想定されます。クラウドの利点を生かし、まずは使ってみた上で、自社に合うかどうかを評価してはいかがでしょう。
[参考]
・Google Apps公式サイト <http://www.google.com/Apps>
・クラウドサービス利用これはやってはいけない いいじゃないの~ダメよ~ダメダメ/杉村 麻記子
<https://www.itc-kyoto.jp/2014/12/29/クラウドサービス利用-これはやってはいけない-杉村-麻記子-いいじゃないの-ダメよ-ダメダメ/>
・ファイル共有にクラウドサービスを使おう / 山口 透
<https://www.itc-kyoto.jp/2014/03/31/ファイル共有にクラウドサービスを使おう-山口-透/>
————————————————————————
■執筆者プロフィール
岩本 元(いわもと はじめ)
ITコーディネータ、技術士(情報工学部門、総合技術監理部門)
&情報処理技術者(ITストラテジスト、システムアーキテクト、
プロジェクトマネージャ、システム監査他)
企業におけるBPR・IT教育・情報セキュリティ対策・ネットワーク構築のご支援