日本の長寿企業の調査 / 米田 良夫

 筆者は今年3月、大阪市立大学大学院創造都市研究科を修了した。今回は修士論文作成時に長寿企業について調査した結果の要約を掲載する。

 日本には200年以上続いている長寿企業が3千社を超える。永く続いてきた長寿企業は、なぜ永く事業を継続することができたのか。

 アンケート調査を行い、永続している要因を探り出すことを目的とした。

 先行研究からは、長寿企業は経営理念(家訓・社訓・社是)があり、それを維持・継承し、「のれん」を守り、家業の継続を優先する。本業を重視し、身の丈経営で適正な規模を守り、堅実な経営を行う一方、新規事業も開拓する。売上を追わず。環境変化に敏感で経営革新に取り組む。同族企業と代表者のリーダーシップに期待し、後継者を育成する。顧客からの信頼を得ることを重視し、ニーズ
に対応し関係性を深める。新たな顧客も開拓する。品質本位で製法の維持継承する一方、新商品の開発をしており、創業時の商品にこだわらない。既存の販売経路と良好な関係を築きながらも、新しい販路を開拓する。従業員を重視し、親密な関係を作る。従業員には理念教育をし、参加型経営を行う。創業の地を大切にし、地域の文化の継承と貢献で信頼を得る。これらは、経営要素をすべて含んでおり、総論的であった。

 アンケート調査では、新商品開発戦略に着目し、長寿企業は既存商品の改良や新商品・サービスの開発(以下新商品開発と略す)にどのように取り組んでいるかについて、仮説をたて調査した。具体的には、改良や開発を行ったきっかけ、どのような内容か、そのための技術はどうしたのか、販売地域や販売経路はどうか、顧客の構造に変化はなかったかについて調査した。

 調査対象は江戸時代以前創業とされている企業(個人企業も含む)に質問紙郵送法で行った。郵送件数563通、返信件数220通(返信率39.6%)、有効件数207通であった。

 調査の結果から経営理念(家訓、教え)がある企業が6割強しかなく、のれん(屋号、事業所名、ブランド名)は半数が変えていた。肯定された仮説は、長寿企業は新商品開発に取り組む、既存の改良が主で、販売地域と販売経路を拡大することであった。否定された仮説からは、新商品開発は顧客や地域からの要望ではなく、他の事業へ進出せず、新規顧客の開拓に効果ありという結果であった。
新商品の開発を行ってこなかった企業は、小規模の企業であり、家業を維持している現状維持の企業像が浮かびあがった。

 自由記述をデータマイニング分析したところ、「良い」と「商品」が強く繋がり、「伝統」と「革新」と「連続」、「顧客」と「大切」などが強い繋がりを持っていた。

 アンケート結果から考えられるのは、企業運営にあたり経営理念は、規模が小さくなれば、あまり重要ではないのではないかと推察できる。小規模の企業は、日々の業務のなかで代々の考えや行動を身につけているのではと推察できる。また、「のれん」はあまり重要ではないのではと考えられる。

 新商品開発については、ほとんどの企業が取り組んでいた。きっかけは、顧客や地域からの要望が少なく、顧客や地域を大切にするという意味を、外部環境の変化と捉えている可能性がある。また、絶えず新商品の開発に取り組んでいる企業には、経営理念が「ある」、「なし」、に関わりがないのではと考えられる。新商品の開発を、既存商品の改良や機能を追加して新しい商品を生みだし、積極的に技術を習得したり、外部からも導入する。既存の技術を現状のままで継承していくだけではない。

 販売経路の開拓は、流通の多様化を図り、拡販していくことと推察できる。このことは、取引関係のあった企業を変えていくことを意味していると考えられる。
 新製品開発による顧客構造の変化については、新しい顧客を獲得することが主であり、既存の顧客を維持することの重要度は低かった。顧客第一主義の意味は、現在の顧客の要望に応えて維持していくことだけではなく、新しい顧客の要望に応えていくことも含んでいると推察される。

 結論として、経営理念や「のれん」はそれほど重要ではなく、新しい商品・サービスを開発することが、長寿企業が永く事業を継続してきた根幹であることが認められた。長寿企業は、積極的に新しい技術を取り入れ、新商品を開発して、新しい顧客を開拓し、今までと違う販売経路を求めていく。
 そこから導かれるのは、顧客に提供する商品の改良と、新商品の開発をし続けることが最も重要であると考えられる。そのためには、自社の技術だけにとどまらず、積極的に外部からも新しい技術を導入し、習得することが必要である。そして、販売経路を拡大して、顧客を開発していって、事業の継続が実現する。既存の顧客を維持することより、新しい顧客を獲得し、場合によっては既存顧客を捨てる柔軟性も求められる。

 長寿企業は戦略ありきではなく、日々の業務のなかから戦略を生み出しているのではないかと推察される。具体的には、自社の技術に加えて、外部からも新しい技術を導入し、それを自社内で消化し、新しい製品を開発する。そして、新しい販売経路を開拓して、新しい顧客の獲得をする。その結果、技術が次世代へ受け継がれていく。経営理念やのれんはそれを背景として意味づける。このような長寿企業の学習のループが導きだされた。 

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■執筆者プロフィール

 クリッジナリティー 代表 米田 良夫
 中小企業診断士、ITコーディネータ