1.アジリティー(俊敏性)をビジネスに、そこでITができること
ずいぶんと長い間、ITをビジネスに役立てることをお手伝いする専門家として、働いてきました。モチベーションとして、自分達が提供できることの価値を高めようと、様々な創意工夫をするとともに、競争に勝つために社内外で切磋琢磨されてもきたと思います。とはいえ、このお題目については、IT業界では幾度となくスローガンのように叫ばれましたが、なかなか手強く、正直なところ、手応えというものをあまり感じて来ませんでした。「発注リーダタイムを短縮する」といった単なるスピードアップとは違いますからね、このアジリティーって能力は。
よく例えられるのは、「自動車のフルモデルチェンジ周期」で、バブル前のまだ成長期の日本メーカーが、より成熟していた海外勢に追いつくために、当時の海外勢で主流の8−10年周期を4−5年周期に縮めることで、いろんな意味での成熟を早めたこと。これに対抗(追従?)して、海外勢がBPR等思想面と、ERP等道具面でのイノベーションを積極活用してきたというおはなしです。
この自動車の例では、「いろんな仕事の仕組みの”あり方”と、その”回し方”、それらを創意工夫で改善し続ける能力」が、企業風土を含めた様々な支えの中で開発され続けてきたんだろうなと。我々ITの専門家って、単独だとちょっとうさん臭いと思うのですね。だけど、向き合っているいろんなお客様がいるから、救われていると思うんです。
ところで、最近、再びこの命題と向き合うことがあり、その体験というか、悪あがきというか、少し手応えを感じたので触れてみたいと思います。
2.アジリティ・レイヤー
あるソリューションベンダーの「うんちく本(英語版)」で見かけた一枚の絵、ピラミッドが上中下の3層に分かれていて上から「戦略」「アジリティ・レイヤー」「IT」というもの。戦略はビジネスモデル、ITはアプリケーションで、間をつないでいるのが”プロセス”。これが肝故に、BPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)という管理体系が発達して来たとのこと。
著者曰く「プロセスはビジネスの生命線で、十分に手入れをした場合にのみ、企業戦略とITとのアジリティ・レイヤーとして機能する。BPMは、まさにこの目的のために作られたもの」。
このBPMの頭にエンタープライズを付けることで、拡張して体系化したものが、この本でガイドされている「Enterprise BPM」というフレームワーク群で「戦略策定」・「設計」・「導入」・「構成」・「実行」・「監視と統制」という6つのステップから構成され、6角形の絵で示されます。
このガイド本は、以下の様に1+5章構成で、上記6つのステップについて2章以降で紹介される5つのフレームワークが、それぞれどのステップをカバーしているかを順に触れていきます。
フレームワークは、以下の通りです。
第1章:エンタープライズBPM – 組織間のサイロを解消し、プロセスに力を発揮
第2章:ビジネス・プロセスの解析 – プロセスを変換/転換することで、ビジネスを変換/転換
第3章:エンタープライズ・アーキテクチャ(EA)管理 – プロセスやビジネスとITを同調
第4章:ビジネス・プロセス・マネジメント(BPM) – プロセス自動化により、競合を超える業績を達成
第5章:プロセス・インテリジェンス – プロセスをモニタリングし、そのパフォーマンスを改善
第6章:ガバナンス、リスク、コンプライアンス管理(GRC) – プロセス駆動によるGRCが、唯一の解である理由
3.エンタープライズBPM
エンタープライズBPMは、組織間のサイロを解消しプロセスに力を発揮させる。
でも、「競争優位を生む源泉としてのビジネスプロセス改革」ってちょっと構え過ぎるよなぁ。
ビジネスプロセスの改革や変革といったアプローチは、何かキッカケがないとなかなか始められないものです。このガイド本では以下のように触れられていますが、「こういった活動そのもののトリガーをどう引くか」が、とても難度の高い、苦労する点ですね。要は、経営者やせめてCIO自身がトリガーを引かないと何も始まらないよ、ということかな。
著者曰く「プロセスの能力を発揮するには、持続可能なエンタープライズBPM(EBPM)プログラムによって「人材」、「プロセス」、「テクノロジー」を統合することが不可欠」。
まず、多くの場合に問題となるのは、そのようなプログラムをどのように開始するかということです。最初に、周囲の適切な人材を選択します。IT に興味を持っているビジネス部門の人達と、ビジネスに興味を持っている IT 部門の人達が必要です。また、自分のネットワークを活用して、それらの個人を特定して関与させます。
次に、改善によって大きな効果を生み出せるようなコア・プロセスを特定します。パイロットプロジェクトをセットアップし、これらのプロセスの記述、最適化、自動化、測定を行います。
経営層の応援を得て(1章と4章E-BPM)、企業戦略を反映して(2章BPA)、ITの構想(3章EA)を、最初に測定し(5章PI)、次にリスクおよび統制を反映するために、マップ(6章GRC)します。
1つのプロセスから開始し、順に次のプロセスへ移ることで、迅速な結果を着実に得られる様に工夫します。(一通りやらないと成果をアピールできない構図は続かない)
4.ITの専門家として役立つかも知れない道具
さすがはドイツ人が書いた「うんちく本」であり、ここで扱っているテーマのそれぞれについて、上流工程でよくある「できたらいいな」を論理的に整理してくれています。
例えば総論の第1章では、後続の5つのフレームワークをそれぞれ分解して、以下3点で概要を説明してくれている辺りが、ガイド本としてよくできてると思いました。
(1)達成できそうな目標に触れる(実は難しい)
(2)ベスト・プラクティス(ここは頭の整理整頓)
(3)避けるべき落とし穴(なるほど、これはごっつぁん)
もし状況が許せば、次回はこのeの付いたBPMの実践編を書けるといいなと思います。当然ながら、苦労話が中心で至らぬ自分をさらけ出すという筋ですが、果たして現実はどう推移するか、とてもワクワク・ドキドキしております。
という訳で、eの付いたBPMの紹介編でした。ここまで読んで頂いた皆様に感謝です。
合掌。
<あとがき>
このうんちく本は日本語版もフリーでダウンロードできるので、興味をお持ちの方は1章だけでもさらっと読んでみるといいかと思います。その先は、少々ディープです。
「Intelligent Guide to Enterprise BPM」(ISBN:1620300877(日本語版あり)
https://www.softwareag.com/corporate/rc/default.asp
※言語を”Japanese”・プロダクトを”ARIS”・リソースタイプを”Books”で検索すると該当書籍の日本語版が選べる様になります。
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■執筆者プロフィール
Yukihiro Maruyama(丸山幸宏)
Principal Consultant
日本インフォビューテクノロジス(株)
ITコーディネータ
http://www.ivtlinfoview.com/