1.正しい分析結果を得るために
前回の記事で、いろいろな事象を正しく分析するためには、広い視野で客観的に事実を捉える事が重要であると述べた。広い視野で客観的に物事を捉えるために、どのようなことに注意をしていく必要があるかについて、今回は考えていきたい。
2.自分の目で見て感じたものが、常に正しい?
インターネット上にある自動車関連のページにある様々な書き込みを見ていて、「プリウスに乗っている人は運転が乱暴な人が多い」という記述を目にした。本当にそうなのであろうかと、自分が自動車を運転しているときに、乱暴な運転をしている自動車を見かけた場合にその車種を確認していった。そうすると、やっぱりプリウスが他の車種より、かなり多かったことが判明した。しかし、この事実よりインターネットの書き込み内容が正しいと判断してよいのであろうか。
自分が見た事実を正しく表現すると、「運転が乱暴な人の車種はプリウスが多い」となる。そしてそこに、「自分が運転しているときに、周りに走っていた自動車の車種はプリウスが、かなり多かった」という事実が加わることにより、「プリウスに乗っている人は運転が乱暴な人が多い」ということが、必ずしも成り立つわけではないのである。
この例のように、単純な内容であれば、分析の誤りを比較的簡単に気づくことができるが、ビジネスシーンでの分析においては、様々な環境の条件などが複雑に絡み合っていることが多い。そのような状況下において、自分の目で見て感じたことに対して、先入観を持って分析することにより、局所的な現象を全体の傾向であると誤解してしまうことがないように、常に客観的に広い視野で分析を行うことが大切である。
3.アンケート調査の落とし穴
企業が自社の商品購入者に対してアンケートを取るということが、しばしばある。アンケートの結果を集計し、自社の商品に対する不満などを知ることにより、次期商品開発における改善点を見つけることができるなど、貴重な情報源としての活用が期待できる。
アンケートを実施すると、回答の内容を集計して多かった意見について、優先的に改善方法を検討することが一般的である。これは、なるべく多くの購入者の満足度を高めるためには有効な方法であるが、「価格が安いほうがよい」など、誰もが思いつくような意見であることも多い。そのため少数意見にもしっかりと目を通すことが大切である。その中には、我々が気付かなかったようなヒントが隠されていることもある。
アンケートの質問を作る際に、集計結果を分類しやすくするために、選択肢を設けた質問にすることが多い。選択肢を多くすることにより、多様な意見に対して適した回答を選んでもらえるのであるが、選択をしてもらうという行為は、結果的にこちらが想定している結果に対して回答を誘導しているという一面も忘れてはならない。アンケートの回答率を上げるために、気軽に回答できる選択方式のみにすべきという意見も聞かれるが、アンケートの回答率がたとえ数パーセント上がったとしても、こちらが想定する回答ばかりを得るのではなく、記述式の回答欄をある程度設けて、数パーセントの回答を犠牲にしてでも、想定外の回答を得られるほうが、良い結果が得られる可能性が高いのではないだろうか。
しかし、自由に記述された少数意見について対応の優先度をつけることが非常に難しい。同様の回答が数件しかないような意見については、その件数の大小を比較することが無意味であることは容易に想像がつく。それぞれの意見を個々に見ながら、「ごく少数の非常に偏った意見である」、「今後の新しい流れに対する胎動である」、「大きなトラブルに発展する前兆である」などを考えていく必要があり、経営者としてのセンスが問われる判断でもある。
この自社商品購入者アンケートで、満足度が非常に高いという結果が出た場合、我々がいままでとってきた戦略が正しいことが証明されたので、今後もこの方向性で進んでいくべきだという結論に至ることが多い。しかし、アンケートの母集団が自社商品購入者であるということに注意が必要である。
近年はインターネットによる消費者の情報交換が容易にできるようになっている。そのため購入前に第三者による商品の評価を見て、自分が納得できると判断してから購入するといったケースが多い。そのため、ミスマッチな購入の可能性が低くなり、結果として商品購入者アンケートでの満足度が上がることはないだろうか。
市場シェアがほぼ独占状態の商品を除いては、自社商品を買った人より、買わなかった人のほうが多いのである。そして買わなかった人の意見は、今回のアンケートの結果には、直接現れてこないのである。だが、今後自社製品の売り上げを伸ばすためには、この買わなかった人を取り込む必要があるのは明白である。
そのことを十分に考慮したうえで、アンケートの結果を活用していく必要があるのである。
4.インターネットを活用した情報収集
消費者がインターネットを利用して、商品を選択する動機になっている状況を、逆の視点で考えると、インターネットから消費者の動向をつかむということができるということである。ただし、多くの情報が自由に無秩序で大量に飛び交っている状況であるので、こちらのほしい切り口での情報を簡単に得ることは難しい。
そのため、その内容を分析するためには、自社主導のアンケートとは違ったアプローチが必要である。
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■執筆者プロフィール
池内 正晴 (Masaharu Ikeuchi)
学校法人聖パウロ学園 光泉中学・高等学校
ITコーディネータ