生き物から学ぶ経営の勘所・・・蝶々編 / 富岡 岳司

「生き物から学ぶ経営の勘所」の第4話は蝶々です。

世の中には凄い蝶々もいるもので、「オオカバマダラ」と言う蝶がまさしくそれです。
僅か10cm程の大きさしかない蝶ですが驚くべき能力を幾つも秘めているのです。
 まずは、その飛行距離です。
渡り鳥で有名な白鳥(コハクチョウ)は遥か4,000kmも離れたシベリアから日本にやって来るのですが、白鳥の約5千分の1程度しかない体重のオオカバマダラも、ほぼ同じ距離を移動するのです。カナダで生まれたオオカバマダラは、夏の終わりに南に向けて旅立ち、アメリカ合衆国を縦断して晩秋には彼らの越冬地であるメキシコに辿り着きます。その距離、約4,000km。
体重1gにも満たない蝶が4,000kmもの距離を移動するのです。60kgの人間に単純換算すると2億4千km、つまり、人で言うなら地球6千周分の距離を半年足らずで移動してしまうことになるのです。
しかし、この大飛行は彼らに与えられたもう一つの特殊な能力によって成されていることが最近の研究によって判明したのです。
アゲハ蝶などは数十メートルの高さまでしか飛ばないそうですが、オオカバマダラは高度4,000メートル付近まで上昇し風に乗って滑空する事ができることが判ったのです。その飛行技術により、1日に100kmも移動することが可能なのです。
 夏の終わりにカナダを旅立ち、メキシコで越冬したオオカバマダラは、春にはまたカナダへと戻ってくるのですが、ここにも神秘に満ちたドラマがあります。
郷里に戻ってきたオオカバマダラは、前年に旅立った固体とは違い、戻って来るのは彼らの孫、ひ孫なのです。つまり、3世代、4世代に渡ってようやく元の地に帰ってくるのです。
研究結果によると、カナダを出発した1世代目は4,000kmの飛行の後、メキシコで越冬し春に北上してカナダへの帰路に着きますが、アメリカ合衆国南部で産卵した後、力尽きます。
親の意思を継いだ2代目も北上しますが、なんと2代目の成虫は短命で僅か3~4週間で一生を終えてしまいます。
孫にあたる3代目が残りの大半を飛び彼らが、或いは更にひ孫である4代目が、ようやくカナダまで戻って来るのです。
 体長わずか10cm、体重1g弱の小さな蝶が、地球規模で世代を超えてタスキリレーを繰り返しているのです。
生命の神秘に感動すると共に、生き様に感服する次第です。

随分、前書きが長くなりましたが、彼らの生き様と私達の経営を例によってこじ
つけで考えてみたいと思います。

1.チャレンジを恐れない
 カナダの冬は寒くじっと耐えていても冬を越せないので、遥か遠い南の国へ出る事を決意した第1世代。
経営でも冬の時代は必ず訪れます。冬が来る前に、新たな市場や未開拓の分野へ思い切って舵を切れるかと言う事だと思います。

2.ひたすらに目標に向かう
 一度定めた目標は簡単には諦めない。どんな苦難が降りかかろうが辿り着けると信じて、ひたむきに走り続ける事だと思います。
体長10cmの蝶にとって、4,000kmの道のりは気が遠くなる目標ですし、他の蝶では成し遂げていない前例のない挑戦でもあるのです。
しかし、自らが生き延びる方法として選んだ彼らは、途中で引き返す事無く、途中で諦めることなく見事にメキシコまで辿り着き冬をしのいでいるのです。
オオカバマダラは人間のように邪念にとらわれる脳(思考)がないから成せたのかも知れません。であれば、私達も目標を目指す時は、困難に挫けることなく、一方で余計な事は考えず一心不乱にひたむきに進まなければならないのだと思います。

3.科学的・論理的裏付によるチャレンジ
 次はチャレンジに対し科学的或いは論理的に裏付けされた技術力や現場力があることです。
先に述べた通り、オオカバマダラは他の蝶ができない高度4,000メートルまでの上昇と滑空の能力を備えているからこそ、無謀とも思えるメキシコまでの長旅を成功させることができるのです。
他の蝶が真似ても命を落としに行くようなものであるのと同じように、私達の経営も、他者が成功した事業転換を単純に真似るだけでは上手くいきません。自分達に備わっている力を今と違う形で発揮することや、潜在的な能力に気付き、それを活かした新たなチャレンジをすることで発展を目指さなければならないのだと思います。

4.蓄える
 4,000kmの飛行を終え越冬地メキシコに着いたオオカバマダラの体重は、カナダを飛び立った時よりも増加していることも判明しています。長旅で痩せ細るどころか、道中でエネルギーをセーブ(備蓄)しているのです。
明日の飛行で直ぐに使うエネルギーを補充しつつ、越冬で消費するエネルギーも蓄えながら旅を続けているのです。
経営に例えるなら、現預金などの当座資産を確保しつつ、たな卸し資産を蓄え将来の売上に備えた余力のある経営を行っていることになります。
マイルストーンの達成は果たせたが資金・体力(組織力)が枯渇し、直ぐには次なる目標に進めないなんて事にはならない経営を行っているに他なりません。

5.DNAの継承
 オオカバマダラが何故、出生の地、時には出生の木そのものに戻って来られるのかは判明できておりません。しかし、DNAが継承されていることは間違いありません。
経営で言うなれば創業の精神の継承にあたると思います。
メキシコで越冬しカナダに戻って来ることを決意した1代目。残念ながら帰路の途中で命尽き果てますが、その子孫が見事に1代目の夢を叶えます。
崇高な経営理念のもと高い目標を持って起業した創業者の思いを、脈々と受け継いでいく経営と見事にオーバーラップします。

6.製品ライフサイクルと原点回帰
 オオカバマダラの一生を製品ライフサイクルで捉えてみると・・・。
便宜上、メキシコに向かったのは第1世代と書いていますが、当然ながらこの世代の前にも何代もの祖先がいます。
晩夏までに成虫になったオオカバマダラは旅立つことなく次の世代に夢を託してその生涯を終えてしまいます。そしてようやく、メキシコに旅立つ(ここでは第1世代と書いた)オオカバマダラが誕生します。
それは、華々しいデビュー作の前には死の谷やダーウィンの海で例えられる陽の目を見ない時期があり、それを乗り越えてようやく世の中に認められる製品が誕生するのと同じように思えます。
そしてオオカバマダラのその後の世代交代は冒頭に記した通りですが、製品ライフサイクルも、2作目や3作目はデビュー作ほど長く席巻できないのが世の常ではないでしょうか。
しかし、大事なのは、色々と製品を出していく中で自社の製品・サービスがデビュー作で掲げた製品理念から少しずつずれてきていないかと言うことです。
もし、オオカバマダラが第1世代誕生の地から少しずつずれて帰還するようになってしまったら、やがて種は滅びてしまうでしょう。
オオカバマダラが今日まで脈々と種の保存を続けられているのは、常に同じ地に戻って来られているからだと思います。
製品・サービスの開発においても、常に原点回帰を忘れることなくチャレンジし続けることが肝要であり、ひいてはそれがゴーイングコンサーンに繋がるのだと思います。

オオカバマダラほどではありませんが、日本にも1,000km以上の旅をするアサギマダラがと言う蝶がいます。
関西でも見かけることができるそうで、比良山(びわ湖バレイ)ではマーキングによる個体数調査や移動調査も行われているようです。
仲夏の陽気に誘われアゲハチョウも飛び始めましたね。
今年は飛び交う蝶を少し違った視点でみては如何でしょうか?

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■執筆者プロフィール

富岡 岳司
ITコーディネータ京都 理事
ITコーディネータ
文書情報管理士/IPAセキュリティプレゼンター/JNSA情報セキュリティ指導者
第1種衛生管理者