モノのインターネットIOT / 馬塲 孝夫

●今年5月29日の日経新聞朝刊に、「モノとネットつなぐIoT 大阪市とVCが支援」という記事が出ました。VCとは、ご存知のようにベンチャー投資をする投資会社ですので、IoTとは何やら、ハイテクの有望技術のようです。今回は、このIoTに関して、筆を進めたいと思います。

●IoTとは、”Internet of Things”の頭文字をとったバズワード(明確な定義や範囲をもたない、流行語、特にIT業界で多用される)の一つで、ここ数年で、急速に使われだした言葉です。IT業界では、“クラウド”と言う言葉に並んで、今年の最注目キーワードではないでしょうか。

●そして、その内容ですが、一言でいえば「何らかの通信機能を持つデバイスがインターネットにつながり、相互に情報交換し、制御する仕組み」と言えましょう。これが、なぜそんなに注目されるのか。インターネットは従来、世界中のコンピュータが簡単につながる仕組みを提供してきたのですが、その使い方は、例えばパソコンを操作する人が、他のパソコンと通信する事により、人の作業をより効率よくするなど、人の意思や操作とインターネットのかかわりが中心でありました。それが近年、人が関与しない、センサと制御装置のようなデバイス間のネットワークもインターネットを介して容易に情報交換や制御ができる状況になってきたことがその原因と思われます。

●つまり、インターネットが全世界に普及し、いわゆる「クラウド」の世界が現実のものになり、そこに、例えば、テレビ、冷蔵庫等のホーム器機、自動車、時計やスマホ等の個人情報機器、工場の制御機器等、世界中のあらゆるデバイスや機器が、インターネットにつながるようになり、その間の制御を自律的にネットワークを介して行えるシステムが可能になったわけです。

●その最たる応用分野は、前回ご紹介した、ドイツ主導で進められている、産業領域におけるIoT活用「インダストリー4.0」です。昨年、12月にこの取組を紹介しましたが、その後、世界の注目度はぐんぐん上がり、今や書店で、「インダストリー4.0」関連の書籍を何冊も見る事ができます。そして、この流れは、その他の分野、例えばヘルスケアや自動車分野でも、確実に浸透していくでしょう。

●市場調査会社IDCジャパンによれば、日本の2014年におけるIoT市場規模は、9兆4000億円、そして2019年には16兆4000億円に成長するとの事。
また別の会社の市場予測では、2020年の世界市場は、約365兆円にのぼるとの強気な成長予想が出ています。

●さて、IoTは着実に世界を変えていくでしょう。その背景にあるのは、インターネットという、インターフェース技術の標準化、スマホ等に代表されるインテリジェント端末の小型化、高性能化、ネットワーク化の猛烈なスピードによる技術革新です。いまや、一昔前には到底実現できなかったコンピュータによるネットワークシステムが、ローコストで、容易に構築できる時代になったわけです。言い換えれば、徹底的な標準化技術の進化により、誰でも、思いのハードウエアによるシステム構築が可能になり、その分野での事業参入コストは劇的に低下しつつあります。そのため、ここで勝負になるのは、ハードウエアのコストや機能のみに重点を置いた製品力ではなく、それを有効に使ったサービスや新鮮な体験の提供などのコンテンツに関する革新的なアイデアです。その意味で、優れたアイデアを持つ人材確保やアイデアを醸成しやすい組織の構築が肝要で、グーグル経営者のいう所の「スマート・クリエーティブ」という、飛びぬけて優秀な人材を如何に採用し、彼らのアイデアを活用していくか、に重点が移り、それがIoT時代の重要な経営戦略となるといわれています。日本においても、その流れが現実
のものになっていくのではないでしょうか。

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■執筆者プロフィール

馬塲孝夫(ばんばたかお) (MBA)

ティーベイション株式会社 代表取締役社長
(兼)大阪大学 産学連携本部 特任教授
(兼)株式会社遠藤照明 社外取締役