少子化時代の学習塾のマーケティング戦略を考える / 杉村 麻記子

-はじめに
矢野研究所の「教育産業市場に関する調査結果2014 *1」によると、学習塾業界
の市場規模は2013年度に9,360億円規模と前年を下回る結果となりました。市場
規模拡大を牽引してきた個別指導塾の伸びが鈍化ししたことが原因で、今後も少
子化による対象人口の減少や競合の激化など厳しい市場環境が続くことが予想さ
れます。
 日本国内の大学自体も私大の45%が定員割れという数字が示すように学習塾以
上に少子化の影響を大きく受けています。
 今後も少子化が進む中、学習塾が生き残るためにはどのような戦略をとる必要
があるのか?本稿では学習塾(教育産業)のマーケティング戦略について考えて
みたいと思います。


-学習塾のビジネスモデル
 学習塾の収益構造は、収入は生徒の月謝となり、支出は、講師の給与(大学生
のバイト代)、教室の家賃、広告宣伝費、講師の給与の3つが大きく占めていま
す。もしフランチャイズに加盟していれば本部へロイアリティ支払などが発生し
ます。
 通常は1年間や学期ごとのクラスとなりますが、年間を通して募集のための折
込チラシやダイレクトメールなど生徒募集のための広告宣伝費が多くかかります。
クラスの生徒数が少なくなればその分の収入が入らないことになるため、適正な
生徒数を確保できるかどうかが収益に大きく影響します。
 一方で家庭教師を派遣するモデルでは、教室を確保しておく必要がありません
から、優秀な学生バイトを確保し、生徒宅先に数多く派遣すれば高収益を上げる
ことが可能です。ただ一方で、派遣された講師が、生徒やその家族に満足される
よう教えることはできるのか? 講師の多くを学生のアルバイトとしている場合
は、京都のように大学生が多い地域であれば、一定数のアルバイトを確保するこ
とができるでしょうが、やはり講師の教育サービスの品質をどのように担保する
かが課題となります。
 学習塾を利用する親・学生の目線から見た場合、選ぶ時の基準は合格の実績や
知り合いからの口コミというのが最も多くなります。実績のある大手企業が各所
に教室を開く一方、個人経営の小さな塾も各地に多くあり、大手の塾の教育方針
に合わない子供たちを個別に指導して小学校・中学校受験で合格の実績を伸ばし
存在感を示しています。
 私立小学校が創立され、ターゲット層の低年齢化が進み、また小学校では英語
教育が義務化されるなど新たな市場が作り上げられている面もありますが、今後
は対象となる子供の数は今後減少していくのは明らかなので、何らかの対策が必
要であることは間違いありません。


-少子化時代のマーケティング戦略
 それでは、少子化を迎える学習塾は中期的にはどのような戦略をとる必要があ
るのでしょうか? いくつかの事例を佐藤義典氏の「BASiCS」フレームワークを
使って分析してみます。

 ***戦略BASiCSとは?***
 マーケティング戦略を以下の5つの要素で考えるというもので、佐藤義典氏が
提唱しています。詳しくは、佐藤氏のHPをご覧ください。(*2)
Battlefield:戦場・競合 
Asset:独自資源 
Strength:強み 
Customer:顧客
Selling message:メッセージ


事例1:ターゲットは「おとな」
 家庭教師のトライは、ハイジのCMなどで皆様もすでにご承知だと思いますが、
ここ数年新たな顧客ターゲットにアプローチをしています。
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 Battlefield:家庭教師派遣(これまで大手企業があまり参入してこなかった)
 Asset:講師採用・生徒募集のノウハウ、コールセンターでの対応(商談折衝
     力
 Strength:強い ブランド力、知名度No.1強力な広告宣伝力
 Customer:小学生~高校生まで幅広く。ただし、今後は絶対数が少なくなる
     ため、数年前から主婦・社会人・退職世代をターゲット顧客に拡大
 Selling message:「おとなの夢をかなえるおとなトライさん」
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 趣味や自分への投資に意欲が高い社会人にむけた資格取得や語学、主婦層や定
年後の世代も利用する料理教室、定番の習字やパソコン、野球やテニスなどのス
ポーツと多岐にわたっています。高い知名度とCMで「おとなトライさん」をPRし、
興味を持った見込み客をコールセンターへ誘導し折衝します。また講師にとって
も、トライに頼めば生徒を集めてくれるとなれば優秀な講師も集まるし、生徒の
評判も上がる。これまで地域の文化センターなどが粛々とターゲットとしてきた
市場を独自の資源と強みをもって強烈な売り文句でアプローチをかけています。


事例2:地域に根差した学校別フォロー
 中小の学習塾が生き残るためには、大手がいる主戦場で真っ向勝負をするので
はなく、いわゆるニッチを狙うか専門性を高めることが必要です。例えば京都の
例でいうと少子化の中でも生徒数が増加傾向にある「小中一貫校区」の中学生を
ターゲットにしている塾があります。
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 Battlefield:特定学区の中学生に対する補講(学校試験対策)<ニッチ市場>
 Asset:定期テスト対策を重点に置いた授業ノウハウ、講師および塾生の実績
 Strength:学校に合わせたテスト対策で、生徒の内申点を着実に伸ばす
 Customer: 特定学区の中学生(いわゆる超難関の高校志望ではなく、公立高校
            希望者)
 Selling message:「○○中学校で5教科の平均点が90点に!」
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 特に高校受験は、京都の場合は中学3年間の内申点が公立はもちろん私立でも
大きく影響します。いわゆる校区がなくなり、京都市内すべての高校を中学校区
に関係なく受験できることから、人気校の倍率も挙がっているようです。中学校
の定期テスト対策に特化したニッチなマーケットです。全国的に見れば少子化の
傾向があっても、このような特定学区は生徒数が増えていて、中期的には成長市
場となるのです。中小ならではのニッチ&高い専門性で大手にはないサービスを
提供しています。


-さいごに
 このように市場環境が厳しくなってきた学習塾も、マーケティング戦略を実践
することで成果を上げることができます。戦略BASiCSのようなフレームで自分自
身の業務や自社の戦略を見直してみると、新たな活動の方向性が見えてくるので
はないかと思います。

参考文献/URL:

矢野研究所 「教育産業市場に関する調査結果2014」
*1 http://www.yano.co.jp/press/pdf/1306.pdf

ストラテジー&タクティクスの戦略ツール「戦略BASiCS」
*2 http://www.sandt.co.jp/basics.htm

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■執筆者プロフィール

杉村麻記子(Makiko SUGIMURA)
中小企業診断士・ITコーディネータ

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