もう一度リスクマネージメントを考える / 大塚 邦雄

 -内部統制は何故有効に働かないか-   

 先日、某大手電気機器メーカーのトップ3人が利益水増しの責任をとって辞任しました。私事ですが、以前働いていた会社は上場迄果たしましたが、過大な設備投資で倒産寸前まで進み、吸収されなくなりましたので、他人事には思えなく
今更という感じはありますが、今回のテーマに取り上げました。

 過去にも類似の事件があり、2006年には会社法が施行され、同じ年に金融商品取引法(所謂、日本版J-SOX法)が成立しています。
これらの法整備によって、内部統制が強化されたにも関わらず、何故このようなことが起こるのかを考えてみたいと思います。
会社にとって信用を疵つけることは大きな損失であり、存続に関係する場合もあります。この様な問題を避けるために内部統制は会社の規模に関わらず必要なことです。

 先ず、改めて内部統制とは何か? という点からしますと既にご存知の通り、「内部統制とは、基本的に、業務の有効性及び効率性、財務報告の信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守、並びに資産の保全」を目的にとしており、その為にプロセスのリスク評価やモニタリング等行い業務改善活動を行うものです。

 しかし、この内部統制活動には次の様な事態に対する弱点も指摘されています。
(1)経営者自身の不当な介入
(2)関係者の共謀による不正
(3)コスト見合いによるチェックの甘さからくる運用上の不完全さ
(4)想定外の事象の発生

これ等のうち(2)、(3)、(4)については、組織内部の問題として、例えば次の様なしくみがあれば防ぐことは可能です。
(a)不正行為が起こりにくい業務特性にする
(b)社内規定を整備、あるいは負荷を軽減する。

しかし、(1)はその事態になってしまえば止めることは難しくなります。
そのような事態になる前に防ぐ方法はないのでしょうか?

某社の場合、既にいくつかの論評がありますが、まだ事象の解明途中であり、かつ本稿では原因究明が目的でもあリませんので、ここでは一般的な論点からリスクマネージメントの必要性にふれます。

余談になりますが、某社の記事にある『チャレンジ』という言葉ですが、英語のchallengeには、難しい課題、あるいは、困難に立ち向かうことの他に、人の意見に異議を唱える、という意味があります。つまり使う方向性によって、貢献もするし、これが正・反・合へ止揚される要素となれば新たな価値が生まれるかもしれません。
指揮命令系統が厳密であることは強い組織であるための重要な要素の一つではありますが、方向性を誤った場合は組織を蝕むことにもなります。

話を元に戻しますと、ここでリスクをコントロールするために知っておきたいことは上述の(1)?(4)のいずれの場合にも、次の様な心理が働くということです。

つまり、それを乗り越えられない困難な課題が発生し、解決案をいろいろ巡らした結果、ある方法を思いついたが、それはコンブライアンス上の問題が懸念されるが、はっきりと否定もできず、それしか方法がないという結論に達すると、その方法について、組織の為という大義名分であったり、多かれ少なかれ誰でもやっていることだと「自己正当化」します。

そして、それが組織の関係者の中で、有効な対案が提示できなかったりすると、「同調」せざると得ない雰囲気が醸し出され、更に事態が切迫してくると組織の上下関係なども作用して「服従」せざるを得ない状況になってきます。
最後には、関係者の間でその事態が「内面化・共有化」され、行動規範となってしまいます。

リスクコントロールの一般的な知識は既にご存じのことでしょう。
しかし、振り返ってみて実践できていないと思われる節があればこの機会にもう一度見直しされては如何でしょうか。
前述の内部統制の弱点として経営トップの問題を挙げましたが、それとても全く方法がないことはありません。一度麻痺した状態に陥った場合を除いて、事業計画を進める上で、事前にリスクを計測し、閾値を超えた場合の対応策を計画に盛り込んで、上申しておくことが肝要です。

challegeとは、異議を唱えること、を今一度噛みしめ、問題を起こして社会的信用を失墜させることのないように、日頃からリスクマネージメントを心がけて頂きたいと思います。

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■執筆者プロフィール
 合同会社グローバルITネット
  代表社員 大塚 邦雄

 ITコーディネータ、情報処理システム監査資格