小売業復活のキーワード:オムニチャネル / 宗平 順己

 Amazonや楽天を代表とするECの成長は小売業に大きなダメージを与えてきました。特に「ショールーミング」という店頭で実物をみて、ネットで購入するという行動は、読者のみなさんもご自身で体験されていると思います。
 この脅威に対して、自らもECサイトを立ち上げた小売業もありましたが、ほとんどの場合うまくいっていません。店舗と競合しないようにEC専用の商品を準備した場合は、特に期待外れの結果を経験しているところが多いです。このように店舗、ECとそれぞれの顧客チャネルを設定してビジネスを進める方法を「マルチチャネル」と呼びます。
 さて、このようなネット(特に最近ではスマホ)を中心とした顧客行動をうまく取り込んで見事にV字回復をとげ、多くの小売業が注目しているのがMacy’sのオムニチャネル戦略です。
 オムニチャネルの基本は、ネットであろうが店舗であろうが、顧客には同じサービスを提供できるようにするというものです。ネットで購入して仕事帰りに店舗で受け取る、店舗で見かけたものをあとでネットで購入する、店頭になくても他店舗に在庫があれば、それを販売する。このようなサービスを展開したことで、Macy’sは2009年からわずか6年で売上を20%増、営業利益率を約2倍に伸長させることに成功したのです。
 このような活動の根本は徹底して顧客基点でものごとを考えるということです。
来店したお客さんが最もがっかりすることは何か、それはせっかくきたのに良い商品と出会えないことです。これをなくそうということからCEOのテリー・ラングレン氏は、自らを CCO (Chief Customer Officer)に任命し、スローガンだけではない 「真の顧客セントリック」を実現すべく採用したアプローチがオムニチャネルなのです。
 良く似た動きにO2O(Online to Offline)というものがありますが、これはスマホにメッセージを送りつけて顧客を店舗に誘導しようというものですが、片手落ちであるだけでなく、顧客基点でものごとを考えているとは言い難いものです。
 オムニチャネルの実現には、決まったソリューションはありません。POS、EC、CRM、在庫管理、物流、業績管理いろいろなシステムを、その企業のオムニチャネル戦略にあわせて組み合わせることが必要となります。これらの広範囲な領域を網羅できるシステムは存在しません。
 大事なのは、その企業にとってのオムニチャネルは何かを考えること、すなわち、お客さんにとってのベストな購買体験はどうあるべきなのを設計し、組織改革とシステム連携などを進めていくことです。
 ECやスマホファーストの動きを絶好のチャンスととらえて、ぜひチャンレンジしてください。

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■執筆者プロフィール

氏 名 宗平 順己(むねひら としみ)
所 属 ITコーディネータ京都 副理事長
    (株式会社ロックオン 特別顧問)
資 格 ITコーディネータ、公認システム監査人

専門分野
・サービスデザイン(UX)
・クラウド
・BSC(Balanced Scorecard)
・IT投資マネジメント
・ビジネスモデリング
・エンタープライズ・アーキテクチャ  などなど