祇園祭が終わって、五山の送り火や地蔵盆も過ぎると、白っぽい夏の陽射しも秋の陽の光に変わります。自然の営みとはいえどこか不思議です。
それにしても、地蔵盆のような習わしの受け継ぎ方をみていいると、京都というところは、都から都会になることは無いまま今に至り、田舎では無いが都会でも無い地域になっている、そんな気がします。
こんなことを書いていると、京都は京都、何を言っているのと(たぶん京都弁で)いう心のうちの声が聞こえて来そうですが。
今回は、「地方と呼ばれる地域」について考えるヒントを、近頃の言葉から拾い集めてみました。
■地方創生
政府の政策の旗のひとつが振られるなか、「地方創生」のブームがしばらく続きそうです。行政機関から受託をする調査会社やコンサルティング会社が対応に大忙しとも伝え聞きます。
地方創生という用語が使われ始めたのは、増田寛也氏が書いた「地方消滅」がきっかけといわれています。このままでは896の自治体が消滅しかねないという論でした。人口という外れにくい未来予測がベースで、そのうえ「消滅」という惹句は、読者の目をことさらに引いたと思います。
もっとも消滅と言っても、地方自治体が維持できなくなるということを指していて、ただただ村や町が消えるというような意味では無かったと思います。
といっても、暮らしの基本インフラは、自治体が維持するもの。自治体の経営が破綻して行くことをそのままにしておいて良いわけでは、もちろん、ありません。
■移住・定住 複数拠点居住
いわゆる「田舎での暮らし」が、誰にとっても心地よく魅力的なものかというと、決してそうではありません。
ふつうに考えれば、都市生活者にとって、地方の町や山村は、生活の外にあって、時おり触れる機会があった時に、気持ちを和ませてくれるといった存在でしょう。暮らしやすいのは都会。都会と田舎という人気対決で考えると、それはもう都会の圧勝。都市への人口集中は人気投票結果の現れみたいなものでしょう。
それでも、いっぽうで、田舎での暮らしを、本当に望む人たちが少数ながらいるのも事実です。そして、その少数の人々が都会から地方に移り住むことが、地方にとって、今、大切なこと。移住や定住を促進する取り組みのベースにある考えかたのひとつです。
ここで、もうひとつここで大切にしておきたいのは、「一箇所の拠点にこだわらない暮らしかた、仕事のしかた」です。複数拠点居住とでも呼べるものです。
少し周囲を見渡すと、例えば、京都を東京を行き来しながら、両方に住み、仕事をしている人が珍しくありません。
同じように、都市部と地方に、あるいは複数の場所に仕事や暮らしの拠点 を持つ過ごしかたをする、そうした人が少し多くなる世の中というものは、じゅうぶん考えられます。
企業組織の風土や一部の商習慣がまだ妨げにはなりますが、飛躍的に進んだ今の情報通信ネットワークとコンピューティングの環境は、複数拠点居住を仕事のしかたの面でも充分に支えるインフラに育っています。地方で携われる、新たな産業、職種もよく見ると現れつつあります。
■エコノミックガーデニング
過去、地方の経済の活発にするために大企業の誘致が盛んに行われた時期があります。各地に工業団地ができ、自動車道が整備されました。しかし、大企業の生産工程が国内から海外に出て行くという経験を経た今では、企業誘致という方策の限界があらわなっています。
それに対し、大企業を呼び込んで産業を起こすのではなく、地域内で中小規模の事業をしっかりと育てて根づかせようという考えかたが、エコノミックガーデニングです。地域経済を庭に、地元の企業を植物に見立てた言葉です。
ちなみに、京都府では中小企業の公的支援施策の一部が編成し直され、現在は「京都版エコノミックガーデニング」と呼ばれる体系になっています。
エコノミックガーデニングの日本での提唱者として知られる山本尚史氏は、そのためのツールとして次のような例をあげています。
1. 企業の情報力強化
・企業に必要な分析結果と提言
・正確な情報を、影響力ある人に、効果的なメディアで
2. 地理情報システム(GIS)
3. インターネット・マーケティング
・検索エンジン最適化
・検索エンジンマーケティング
4. ソーシャルメディア
・会話の「場」をつくる
もともとのモデルとなった米国のケースの紹介では、「着実な経済成長の信念に基づいている」との要点も伝えられています。
ツールとしては、上記のような支援の仕組みですが、どうやら鍵になるのはその地方に暮らす人々や事業者が持つ「心意気」のようです。
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■執筆者プロフィール
松井 宏次(まつい ひろつぐ)
ITコーディネータ 中小企業診断士 1級カラーコーディネーター
焚き火倶楽部京都 ファウンダー