たとえば、2つのケースを考えてみましょう。
1)マーケティング部から市場分析の情報がメール添付で送られてくる。一目見て「ふーん、良いデータやな」とつぶやいて、すぐ閉じて終わり。
2)担当している顧客からクレームが入ったという情報。直ちに顧客に電話を入れ、確認、対処する。
両方とも情報に対する対処です。
しかし、対応が全く違う。前者は行動に全くつながらない。情報はまるで観賞物かのよう。逆に後者は行動に直結しています。
ここでわかることは、情報には行動につながる情報とつながらない情報の2種類があるということです。
行動につながらない情報は意味がありません。情報をいくら観賞しても無意味です。
そして、日々生き残りをかけて行動していかねばならない企業にとって、情報と行動を密接に連動させることは死活問題です。一度自社の情報を行動につながるか、つながらないかで2種類に分類してみましょう。
もし、誰の行動にもつながらない情報があるとしたら、それは全く無価値と言わねばならないでしょう。
では、この2種類の情報は、いったい何が違うのでしょうか?
クレームの例の場合、行動を生み出す前提があります。
まず、自分の職務領域に適合しているということ。つまり、自分の職務のミッション、目的、内容、行動方式にはまっているということです。経理課の職員であれば何の反応もしないでしょう。これを行動スキームと呼んでおきます。
次に、文脈が把握されているということ。
この顧客がどんな顧客で(重要なお得意様、等々)、いまどんな案件をやっていて、この案件をしくじるとどんな重大問題につながるか、等々をよく知っているということです。この案件の重大さを理解していなければ、対応はもっと緩慢になるかもしれません。これを行動文脈と呼んでおきます。
行動スキームと行動文脈、この2つの前提があるからこそ、情報は行動と密接に連動します。先のマーケティング部の情報も、自分の担当案件の来月(1年後でも3年後でもいいですが)の売上に直結するような市場分析なら、「良い情報やな」と一言つぶやいて終わるようなことはなかったでしょう。
私はこの行動スキームと行動文脈をベース情報と呼んでいます。ベースと言うのは行動の基底として不可欠だからです。
では、なぜこれを情報と言うのか?
答えは簡単。伝達されなければならないからです。
たとえば、他部署から新たに職員が配属されてきたとします。彼はクレームの情報を聞いて、同じような的確で迅速な対応ができるでしょうか?
ふつうにはムリでしょう。なぜなら、この部署の目指すところ、考え方、行動の仕方、さらには、この顧客がどういう顧客で、この案件がどんな意味をもっているか等々を全く知らないとしたら、何が的確な振舞か、皆目見当もつかないだろうからです。
だから、それは確実に伝達されねばなりません。その限りにおいて、それは情報なのです。しかも、他のすべての情報を理解できるものにし、そこから行動を生み出すより根本的な情報なのです。それがなければ、クレームの意味ひとつ、理解できないでしょう。その都度の情報の意味を理解し、それを行動につなげていくためには、ベース情報の伝達が不可欠なのです。
高度な統計分析も、ビッグデータも、ITシステムも、この土台があってはじめてビジネスで力を発揮するでしょう。情報と行動を連動させる努力、それこそが企業にとって不可欠ではないか、と思います。
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■執筆者プロフィール
清水多津雄
ITコーディネータ
企業内ITCとしてITマネジメントに従事
大学・大学院での専攻は哲学。
現在、オートポイエーシス理論、とりわけニクラス・ルーマンの社会システム理論をベースに企業で役立つ情報理論&方法論を模索中。