領収書保存方法が変われば経理業務がより便利に / 松山 考志

1.はじめに
 中小企業や個人事業者にとって、日々の営業活動で獲得した名刺の管理や経理業業務における記帳、請求書の発行等の事務処理に負担を感じることがあると思います。このようなニーズを解決するクラウドサービスが次々と誕生しています。
無料で始められるものが多いため、利用者が伸長しています。例えば会計分野では、既に会員数が10万人を突破しているfreee(フリー)やMFクラウド会計が有名です。これらは、銀行やクレジットカードのweb明細から自動で帳簿作成をしてくれる機能やスマホで利用できる点等が、会計業務に多くの時間をさけない小規模事業者、スタートアップ企業で受け入れられています。また、いつでもすぐにスマートフォンやタブレットで会社の売上実績等を確認できるため、現場での判断が迅速にできるようになりました。それでもクラウド会計の利用者は従来型の会計ソフト市場の5%程度に留まっています。既にアメリカでは40~50%以上の利用率に達しているとのデータもありますので、これから日本でも会計のクラウド化がさらに進むかもしれません。これは会計の一例ですが、大変興味深いと思いました。

2.税務関係書類におけるスキャナ保存制度の見直し
 中小企業においてもクラウド化の進展により様々なメリットを享受できることが予想されますが、関連性がある法律の制度改正をご紹介します。e-文書法は、法人税法や商法、証券取引法などで紙による原本保存が義務付けられている文書や帳票の電子保存を容認する法律です。今年9月月30日以後に行う承認申請分について、国税関係書類に係るスキャナ保存制度の見直しが適用されます。見直しは、スキャナ保存の対象となる契約書及び領収書に係る金額基準(現行3万円未満)の廃止を骨子としています。
 そもそも何故、今回の見直しになったかというと、「3万円以上の証ひょう類は原本を保存しなければならない」という金額基準の制限があった、改ざん等の防止のために電子署名法で定められた認定業者の電子証明書とタイムスタンプを付加する必要性があった、スキャナが「原稿台付のスキャナ」のみ許可されているという制約条件が普及の足かせになっています。今回の見直しでは以下のように企業側が使いやすいように条件が緩和されました。

(制度見直しの概要)
・一定の要件を条件に、スキャナ保存ができなかった3万円以上の紙の領収書などの証ひょう類の金額基準を廃止する。
・業務処理後にスキャナ保存を行う場合に必要とされていた電子保存の承認要件を廃止する。
・一定の要件を条件に、スキャナで読み取る際に必要とされている入力者などの電子署名を廃止する。
・スキャナで読み取る際の大きさ・カラー保存要件を見直す。

3.電子化の基本要件
 e-文書法は、カルテや処方せんに代表される医療関係書類、稟議書などの会社関係書類などほとんど全ての文書が対象です。実際に紙文書をスキャナで電子化し利用するためには、各府省令によって規定する要件を満たす必要があります。
経済産業省は、文書の電子化を行う際に文書の性質に応じて満たすべき要件として、「見読性」、「完全性」、「機密性」、「検索性」を挙げています。定義については、経済産業省のホームページに解説がありますので詳細な説明は省きますが、今回の領収書保存等の要件について「見読性」と「検索性」を補足します。
 「見読性」とは、パソコンなどのデバイスなどを用いて、明瞭な状態で見ることができることです。領収書保存等の要件では、解像度は200dpi以上、カラーはRGB 各色256 階調以上と定められています。A4用紙の約388万画素以上になりますが、重要でない部分は白黒での保存が認められています。なお、スキャナは原稿台と一体型のものに限られますので、デジタルカメラやハンドスキャナを用いての保存は認められていません。
 「検索性」とは、文書をファイル名、取引年月日等のインデックスで検索し表示しやすくしておくことです。領収書等については、取引年月日、勘定科目、取引金額などの主要な記録項目を検索の条件として設定できること、日付け又は金額に係る記録項目については、その範囲を指定して条件を設定できることが求められます。

4.最後に
 現状では、税務関係書類のスキャナ保存が浸透するにはさらなる利便性を高めることが必要と考えられます。現状はタイムスタンプが必要で、またスキャナが原稿台と一体型のものに限定されているため、普及するにはまだまだ敷居が高いといえるでしょう。既に米国では、スマートフォンのカメラで撮影した領収書が正式な証ひょうとして認められています。経済産業省は、事務の生産性向上を図るためにスマートフォンのカメラで撮影した領収書の画像データで、企業の経費精算ができるようにする規制緩和を検討し始めました。これが実現すれば、中小企業の事務効率化の一助になることが期待されます。

(参考文献)
・財務省ホームページ 平成27年度税制改正の大綱
・経済産業省ホームページ 文書の電子化・活用ガイド

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■執筆者プロフィール

 松山 考志
宅地建物取引主任者
個人情報保護士