デジタル時代の行動規範について / 下村 敏和

 私はかつて浜松にある坐禅道場で2泊3日の坐禅三昧を体験しました。それ以来
年に数回京都のお寺で早朝坐禅を行い心の静けさを取り戻しています。ITの進化
とともに忙しい情報過多の世の中になって、あらためてデジタル時代の「行動規
範」はどのようにあるべきかと考えることが多くなりました。

■生かされている環境の変化
 坐禅を行い、呼吸を整え、無心になっているとアルファ波がでるのか、心身と
もにリラックスしてきます。そして、じっと座っていると普段は意識しない呼吸
を感じ、この世(自然界)に生かされていることを実感します。
 しかし、一歩外に出ると最近ではIT環境の中に生かされていると感じることも
多くなりました。例えば、電車の中でスマートフォン(以下、スマホ)を使い音
楽、ゲーム、メール、SNS、チャット等を楽しむ人が本や新聞を読んでいる人を
大きく上回ります。
 先日も優先席の前に立っていると前に座っている女性が私の隣に立っている学
生にペースメーカー使用者の証明書を見せ、「スマホを止めてください」と申し
出ているのに学生がスマホに夢中になっているのか気が付かないので、私が腕を
つついて初めて気が付きスマホ利用を止めました。最近、総務省から「携帯電話
がペースメーカーに影響を及ぼす可能性は限りなく低い」という指針案が出てい
ますが、まだ完全徹底されていないので、現時点では使用者に無用のストレスを
与えてもいけないので控えるべきことだと思います。人はIT機器のコンテンツに
夢中になっていると周りが見えないし、時間感覚もなくなることがあります。
 一方でIoTやM2Mが急速に進む中、車も安心・安全の観点からマイコン制御やG
PS制御そしてビッグデータ処理まで、ますます武装化を加速しています。従っ
て、車を運転していてもことごとくIT環境の中に生かされていることを実感して
います。

■ITの光と影
 ITの劇的な環境変化はインターネットによるところが大きく、1990年に米国で
商用サービス化(日本は1992年)されましたが、1995年の阪神・淡路大震災の時
は、まだPC-VANを活用して被害にあった人の消息リサーチを行っていました。
2011年の東日本大震災では写真なども含めた情報をもとにインターネットが大い
に活用され、貢献しています。
 この様にITの効用[光]は誰しもが充分認識し、無くてはならない存在になっ
ています。一方、負[影]の面ではスマホ依存症などが挙げられます。先日、テ
レビを見ていたらある民間会社が調査した女子高校生がスマホや携帯電話を使う
時間は1日に7時間(男子は4時間)に及ぶといいます。
 そこで埼玉県立浦和高校のあるクラスでは生徒の夏休みの課題として「IT断食」
を体験させるという試みを行い、1日だけスマホやパソコン、携帯音楽プレーヤー
などを使わずに過ごし、いつの間にかIT機器に依存していることを気づかせ、適
切なIT機器利用の姿勢を身につけてもらうというものです。
夏休み後の授業では、
(1)    IT機器の普及で衰えた力や態度
(2)    IT機器を使わなくてもできることや使わないと出来ないこと
(3)IT機器の普及でやらなくなったこと
等が議論され、断食前は「依存している」と答えるのは約4割だったのが、断食
後には約8割に増加し認識の変化が起こっています。
コミュニケーションの基本は対面であり、必要以上にスマホを使うと、本来ほ
かのことができる時間が削られることの気づきを与えたようです。

■デジタル時代の行動規範
 企業理念や行動規範(行動指針)は多くの企業において制定されており、大き
く社会規範や内的規範が示されています。社会規範は、人間関係や社会的秩序を
保つ役割を果たすものとしての理解であり、内的規範は行動する側からの理解を
示しています。
 さまざまの事業体に存在するいろいろな人間関係や社会関係の中で、お互い異
なる要請を、自分自身の感性・願望・欲求をコントロールしながら自身の行動や
あり方を見つけなければなりません。
 私が勤務していた会社では、1985年に制定された「SE行動規範」なる100頁以
上にも及ぶ基本的な心構えと仕事上の実践的なことをまとめたものがあります。
そこには、企業人/社会人としての心構え、仕事に対するスタンス、対外折衝の
心構え、ビジネスにおける「マナー」などが記載されています。インターネット
の無い時代ですが、口頭報告と文書報告の使い分けまで記載されています。最近
では、メール文化に慣れて口頭報告がないがしろにされ、目の前にいる上司にメー
ルで報告というのも少なからずあるのではないでしょうか。
 これらの指針を、若い人は分かっているだろうではなくて、山本五十六語録に
あるように「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は
動かじ。」を実践し、その種のテーマを設定して議論するなど反芻する仕組みを
考えなくてはなりません。
 私は大学で非常勤講師をしておりますが、注意しても授業中に下を向いてスマ
ホ操作をしている学生も少なくありません。
 その様な中で、家庭や学校そして企業などある組織単位にデジタル時代の「行
動規範」なるものをルール化して、適切なるIT活用を促し、実践することが重要
かと思います。

 禅の世界には、昔からの教えや経典など脈々と受け継がれています。それらの
思想のもと修行僧は坐禅による厳しい修行を実践体験し、無意識の境地にたどり
着きます。現代のデジタル社会にも「IT断食」を行ってデジタルデトックス(解
毒)などを体験しながらIT依存症を跳ね飛ばし、無意識のうちに適切なIT活用そ
して健全なデジタル社会が生まれることを望むところです。

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■執筆者プロフィール
ヒーリング テクノロジー ラボ  代表 下村 敏和
ITコーディネータ

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