インターネットが身近な存在になった頃、それにつなげるのはパソコンだけでした。
やがて携帯電話がインターネットにつながり、そして次はゲーム機やテレビがつながるようになり、今は、家電製品はもとより、街中や施設・建物にある多くの機器や設備がインターネットにつながっています。
そう、IoT(アイ オー ティー:Internet of Things)が実現されています。
最近になって、IoTは古く、IoE(アイ オー イー:Internet of Everything)だとも言われており、全てのモノがインターネットにつながろうとしています。
そう言えば、私の会社の車もネットに接続されており、高速道路での法定速度超過や急ブレーキ・急ハンドルなどの異常操作が行われると、ネットを通じてリアルタイムに管理者に通報が飛び、ドライブレコーダと連動して異常操作の数秒前からの動画までもがクラウドを介して見られるようになっています。
こういったIoTと車の話をすると必ず話題になるのが、ITS(Intelligent Transport Systems:高度道路運転システム)です。※1
ITS = 自動運転
と思われがちですが、自動運転はその一部にしか過ぎず、ITSは実に奥が深い、そしてまた夢のある、通信とセキュリティとITの技術が沢山詰め込まれた宝石箱のようなものです。
ITSで使われるIT技術は後で述べるとして、先ずはITSの目指すものと、現在の状況について触れてみます。
先に述べた通り、最近のコマーシャルで良く目にする車の自動運転だけがITSではなく、ITSが目指す主な効果は以下の5つです。
1)交通事故削減
2)交通渋滞緩和
3)環境負荷低減
4)高齢者等の支援
5)運転快適性向上
これら5つは自動運転技術だけで達成できるものではなく、むしろ、IoTによって得た様々な情報をもとに、人が適切なオペレーションをすることにより実現されます。
例えば、
・交差点で多い右折車と対向右折車両の陰から出てきた直進車との衝突回避のために、交差点に設置された路側機が右折車に対し直進車が近づいていることを知らせ運転者に危険回避させる仕組み(路車間通信)
・緊急車両がどの方向から近づいているのかを知らせる適切な対処を促す仕組み(車車間通信)
・高速道路の昇り坂での意図しない減速を回避し渋滞要因を除かせる仕組み
・高速道路で前方車両の加減速の情報を得て自車両も加減速し車間距離を保つことで渋滞緩和とエコ運転を実現させる仕組み
などです。
これらは、機械やシステムが全てを人にとって代わるのではなく、人が行うセーフティドライビング・スマートドライビングの手助けをする仕組みとなっています。
では、現時点で、どこまで実用化しているのでしょうか?
残念ながら上記の例は実用化までには解決すべき課題がいくつかあり、現在は様々な角度からの実証している段階です。
今、実用化されているのは、衝突被害軽減のブレーキシステムや駐車支援の360度モニタなどです。
自動運転システム搭載車も出始めていますが、加速・ハンドル操作・制動などの複数操作をシステムが行えるようになったと言うのが正しい表現であり、完全自動走行のレベルまでには至っていません。
完全自動走行には技術面だけでなく、事故が起きた場合の保険の適用範囲を含めた法に関わる部分の見直しも必要になるなどまだまだ課題は山積です。
自動運転システムは車そのものに予め搭載された機能であり、新車買い替えのタイミングでしか普及しない問題もあることから、IoT普及の道のりは、自動運転中心ではなく、現用の車両にITS機器を搭載して他車や路側機から情報を得るアドオン方式が当面続くと思われます。
では、次に、ITSで必要となる要素技術について言及します。
ITSは様々な要素技術の集合体とも言えるシステムなのですが、主だった部分を要約し列挙すると、無線通信・移動体通信・通信品質(QOS)・セキュリティ・認証・暗号化・位置情報・デバイス・制御になります。
かつて車と言えば、機械工学・人間工学が技術の根幹を成しており、その後、電子制御技術が満載されるようになりました。
しかし、上記の要素技術を見る限り、車はもはや機械ではなく、エンジンが搭載された人を運ぶコンピュータ、いや、通信機器と言っても過言ではありません。
これら要素技術がどのように活用されるのかを、
「私の車両が交差点を直進、Aさんが対向車線を右折する場合の衝突防止」
を例にとって説明してみましょう。
(かなり要約していますので、あくまでもイメージとして捉えて下さい)
私の車に搭載された車載機は交差点に設置された路側機に進行方向や速度などの情報を送信します。
移動しながらの通信ですので携帯電話同様、移動体通信技術が必要ですし、カーナビ同様、位置情報も必要になります。
また、情報が改ざんされてしまうと事故を誘発させてしまうので、改ざん防止のための暗号化技術も用いられます。
さらに、路側機へ正確に情報を届けるための通信品質も重要になります。
私の車から発信された情報を受け取った路側機は、ごく短時間で復号化・解析しますが、私の情報がなりすましのニセ情報でない確証を得るために認証技術が用いられます。
その後、右折待ちのAさんに情報を送り届けますが、固定された場所からのなのでここでは無線通信技術が用いられます。
Aさんの車に搭載された車載機は直進者が近づいている情報をキャッチし、音声やイメージ画像などで運転者に知らせる必要があり、通信だけでなく表示・アラームなどのデバイス技術が用いられます。
場合によっては衝突防止制御機能も作動するといった具合です。
上記は「車両から路側機」、「路側機から車両」へ情報伝達する【路車間通信】について述べましたが、「前方車両や後方車両と直接情報をやりとり」する【車車間通信】についても実用化を目指して開発・検証が進められています。
また、これら情報を集積し更なる高度化に活かすための、いわゆる【ビッグデータ活用】についても研究が進められています。
しかし、言うまでもなく最も大切なのは利便性ではなく「安全性」です。
これまでの車の安全第一とは、衝突防止でしたが、ITSにおいては、その前提として「セキュリティ」に覆われている必要があります。
通信が改ざんされたり、通信機器に悪意あるウイルスが侵入すれば、意図しない操作が行われ交通パニックに陥ることは必至です。
総務省では今年7月に
「700MHz帯安全運転支援システム構築のためのセキュリティガイドライン」を策定し、その中で通信システムの構築に関するセキュリティ要求事項も定義しています。※2
ここまで述べてきた技術を用いた研究・開発・実証試験を現在、産学官がベクトルを合わせて行っており、東京オリンピックでの実用化を目指しています。
通信・セキュリティ・ITで車がどこまで進化するのか楽しみでなりません。
4年半後に控えた東京オリンピックで見れるであろう「その歴史的瞬間」が今から待ち遠しいですね。
※1 ITS
「道路交通の安全性、輸送効率、快適性の向上等を目的に、最先端の情報通信技術等を用いて、人と道路と車両とを一体のシステムとして構築する新しい道路交通システムの総称」
※2 「700MHz帯安全運転支援システム構築のためのセキュリティガイドライン」
による通信システムの構築に関するセキュリティ要求事項の一例
1)発信元の真正性確認
偽の第三者がなりすまして不正な通信情報を送信することで通信情報の完全性が侵害されないようにすること
2)通信情報の完全性確認
通信の途中での改ざん等により通信情報の完全性が侵害されないようにし車載機や路側機から送信された情報が改ざんされていないことを保証すること
3)通信情報の機密性維持
第三者による盗聴により通信情報の機密性が侵害されないようにすること
4)セキュリティ情報の更新
セキュリティ情報が漏洩した場合、もしくは漏洩した可能性がある場合は、該当のセキュリティ情報を更新できること
5)解析防止対策
車載機メーカ及び路側機メーカは、車載機・路側機が容易に解析できないようにすること
参考:官民ITS 構想・ロードマップ2015
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■執筆者プロフィール
富岡 岳司
ITコーディネータ京都 理事
ITコーディネータ/文書情報管理士/IPAセキュリティプレゼンター/情報セキュリティ指導者/第1種衛生管理者/電気工事士