花様年華 ~グローバルを考える~  / 上原 守

 皆様,明けましておめでとうございます。
 前回,2015年は Back to the Future PART2 の舞台ということで,そのネタで書かせていただきました。今回は1960年代の香港が舞台の映画です。

■花様年華
 監督はウォン・カーウァイ,出演者トニー・レオン,マギー・チャンで,日本では2001年に公開されました。京都シネマで観たと思います。
 「欲望の翼」「2046」とで三部作になるようですが,一部の登場人物が重なっているだけで,ストーリーとして連続しているわけではないと思います。「欲望の翼」も「2046」も,観ていないので…
 まぁ,ウォン・カーウァイ監督作品なので,明確な「ストーリー」として展開されるわけではなく,モノローグやストップモーションの様な象徴的な画面が淡々と繰り返されます。音楽も「夢二のテーマ」や「Quizas Quizas Quizas」が,これまた淡々と繰り返されます。

■ストーリー(Wikipediaより引用)
 ジャーナリストのチャウ(トニー・レオン)は妻と共にあるアパートに引っ越してくる。同じ日,隣の部屋にはチャン夫妻が引っ越して来ていた。チャウの妻とチャン夫人(マギー・チャン)の夫は仕事のせいであまり家におらず,二人はそれぞれの部屋に一人でいることが多い。そして実はお互いの妻と夫が浮気していることを察し始め,そのうちに二人は次第に親密になっていく。

■日本製品
 映画の最初で,マギー・チャンの夫のボスが日本人であることが分かります。
日本製の炊飯器を持ってきて,本当にご飯が炊けるか試してみたりします。鞄やネクタイなどで,香港で買えない物が登場して,これが伏線になっています。
 実は1950年代後半から日本の東南アジア進出は活発になっていたので,この流れで香港にも日本企業は進出していたのでしょう。

 ITC京都では,2007年に中国を視察に行きました。
 その時に思ったのは,これからの中国はローコストの生産拠点ではなく,大きな可能性を秘めた顧客になるだろうという事でした。現実の流れは,そのようになってきているようです。

■食事のシーン
 この映画は食事のシーンが多いです。トニー・レオンとマギー・チャンは,ほとんど外食かテイクアウトで済ませているようです。奥さんが仕事を持っていると忙しいので,家庭内で料理しないのかなと思っていると,香港ではこれが普通みたいです。参考資料の「社会実情データ図録」の外食比率によると,アジアの外食状況で香港がトップになっています。夕食だけでなく朝食も外食が普通のようです。
 マギー・チャンは,保温の円筒形の弁当箱を下げて屋台に食事を買いに行きます。たまたまトニー・レオンと一緒に居る時に大家さんが帰ってきて,出るに出られなくなり,持ち帰った食事を一緒に食べるシーンがありますが,靴の使い方で二人に関係が無かったことが暗黙のうちに示されます。「ローマの休日」と逆パターンでしょうか。
 この映画を観ていて,香港の郊外に工業団地とか作る時は,屋台が出せるような広い道とか,食堂が作れるような空間配置が必要かな,なんて思いましたが,香港に「郊外」って無いですね(笑)

 トニー・レオンのスーツ姿が格好良い(時々変なネクタイしていますが)ですし,マギー・チャンの襟の高いチャイナドレス姿も美しいです。余談ですが,チャイナドレスって漢民族の民族衣装じゃないです。

■日本との違い
 海外の映画を観ていると,日本との違いに気付くことがあります。
 食事のシーンで外食や屋台でのテイクアウトが多いと気づきましたが,麻雀のシーンでは,捨て牌を並べずに捨てているようです。フリテンってルールは無いようです。
 韓国映画の「八月のクリスマス」(この映画も良いです)では,おばあさんが自分の葬儀用の写真を撮ってもらいに写真館を訪れます。この習慣も日本には無いように思います。また,駐車違反は警察ではなく専門に取り締まる職業があるようで,登場人物の職業がその設定です。日本でも2006年から駐車監視員って制度ができました。

食文化は違います。
 海外に工場とかを進出する場合,どうしても食堂が必要になります。
 例えば日本の場合,ヨーグルトは一般的に甘くして食べますが,他の国では,塩系の味付けで料理に使うのが一般的なようです。
 イスラム経ではハラール料理が必須になるので,イスラムの文化圏に工場進出する場合,工場の食堂にはハラール料理やベジタリアン向けのメニューが必要になった事例もあります。
 中国の人は食べるのが好きですから(この映画もその影響で食事のシーンが多いのかも知れません)その点にも気遣いが必要でしょう。中国視察に行ったときも,大学の食事は美味しかったです。

 機械類の使われ方も違うようです。
 これは映画とは関係ないですが,中国では国土が広いのと農機が高いので,トラクターとかはほとんど一年中稼動するそうです。日本だと10年くらい持つ部品が,1年で交換になることもあると聞いたことがあります。
 日本だと普通に畑で使われるトラクターが,庭の芝刈り用に使いたいのでアタッチメントを作ってくれという依頼があったというスケールの大きな話も聞きました。

 自分で作ったものを自分で試験することが苦手なようです。
 これは恐らく,どこの国でも同じように思います。海外の縫製工場で,自分が縫った服を自分で確認する日本と同じ作業フローだと,不良率が高止まりしてしまい,別の人が縫製直後に確認することで,不良率を下げたという事例もありました。
 ITでも,プログラマーさんが自分でテストした場合には,バグをとりきることはできません。でも一般的に言えば,日本の人は自分の書いたプログラムや製品のテストは,上手いようです。
 原因はいくつか考えられますが,恐らく手を抜いているというより「気づかない」のだと思います。

■グローバルを考える
 海外に進出した日本企業では,上手くいっているところと,上手くいかずに撤退してしまったところの明暗がはっきりと分かれているように思います。ダイヤモンド社の記事によれば,海外進出を進めた企業のうち 4割が撤退・または撤退を検討したことがあるとの事です。
 サービス業では,日本旅館の「おもてなし」スタイルをそのまま海外で展開して成功している旅館がありますが,日本で成功したビジネスモデルをそのまま海外に持っていっても,多くは上手くいかないのだろうと思います。

 「何のために」その国でビジネスを展開するのか,というポリシーを明確にするのが第一歩だと思います。そして,そのためには「何を」変えてはいけないのか中核になることを考えます。そのほかの事は,ある程度まで変えてよいもの,全く変えてしまってもよいものと優先順位をつけて,テーラリングするというかその国に合った形にする必要があると思います。
 先ほどの旅館の例では,お客様が到着したときに皆で揃ってお出迎えをするというところから,同じようにお見送りをするというところまで,全てが「おもてなし」として変えてはいけないことだったのでしょう。個人的には,日本旅館はプッシュ型のサービスで,ホテルはプル型のサービスかなと思っています。

 「ローマに入りてはローマに従え」と言いますが,いずれにせよ,日本と全く同じ方法で上手くいく国は少ないと思います。グローバライズとは,実際は,こまかなローカライズの積み重ねのように思います。
 海外進出をお考えの方がおられれば,上手くいくようにお祈りします。

■最後に
 今回は,映画と話の内容の関連性に無理がありました。申し訳ありません。
 なお,この映画のラストシーンは切ないです…

参考資料:
Wikipedia:花様年華
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8A%B1%E6%A7%98%E5%B9%B4%E8%8F%AF
社会実情データ図録
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/index.html
ダイヤモンドオンライン「日本企業の4割が海外からの撤退を選んだ理由」
http://diamond.jp/articles/-/75399

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■執筆者プロフィール

上原 守
ITC,CISA,CISM,ISMS審査員補,IPAプロジェクトマネージャ

エンドユーザ,ユーザのシステム部門,ソフトハウスでの経験を活かして,上流
から下流まで,幅広いソリューションが提供できることを目指しています。