最近、デザイン思考について目にする機会が増えました。知れば知るほど、これはビジネスを根底から変える大きな流れにちがいない、という思いが強くなります。これはすごいことになっている、と。
デザイン思考は、どうも欧米では90年代ぐらいから同時多発的にあちこちから出てきたもののようです。
私自身は、ティム・ブラウンやトム・ケリー、d.schoolの言うような「デザイン思考」も、エリック・リースが言っているリーン・スタートアップも、ビジネスモデルキャンバスやバリュープロポジションキャンバス、カスタマージャーニーマップなどのツールの考え方も、すべてデザイン思考だと思っています。
共通項があるからです。
以下、それについて書きます。
私の頭の中では、デザイン思考(デザインシンキング)は論理思考(ロジカルシンキング)の反対概念になっています。そう考えるとわかりやすいからです。
ロジカルシンキングは、事実を原因-結果連鎖で正確に捉え、それに基づいて行動を目的-手段で組み立てて確実に成果を出すことを主眼としており、言うまでもなく、ビジネスにおいては重要な基本スキルのひとつです。
市場調査によって消費者のニーズを正確に把握し、それに基づいて開発、生産、販売を一貫して計画し、PDCAを回しながら目標を達成する、というわけです。
しかし、実は、この「市場調査によって消費者のニーズを正確に把握する」といった類の前提が通用しなくなってきています。
ここにこそロジカルシンキングからデザインシンキングへの大きな変化の発端があります。なぜ、通用しなくなってきたのか?
2つあります。
1つは、消費者自身、実は自分で何が欲しいかわからなくなってきたという点です。
90年代以降、商品やサービスが溢れ、コモディティー化し、欲しいものが見当たらない。これでは市場調査をしても意味がない。
iPhoneは市場調査から生まれたのでないことは周知の事実です。
それゆえにまた、消費者の求めるものは製品から経験へと高度化しています。
これが2点目です。
単なるクルマが欲しいのではなく、クルマに乗って家族で楽しくアウトドアに行き、Facebookに写真をあげて「いいね」をもらうという、この経験全体を欲しているのです。
なので、ましてや消費者自身が自分のニーズを正確に把握し、表明するなどということは期待できない。
とすれば、そこから先のロジカルな開発、生産、販売プロセスは成り立つはずがない。
では、どうすればいいのか?
ということでデザイン思考の出番になるわけです。
わからないニーズをいかにしてわかるか。
まず市場調査のようなマスではなく、一人ひとりの具体的な人間を対象とする(人間中心)。そして共感を駆使する。
その人間になりきるわけです(あるいは、実際に体験してみる)。
それによって何が欲せられているか洞察する。
もちろん、これらは検証される必要があります。
プロトタイプを作り、実際の顧客からフィードバックを得る。
思わしくなければアイデアを変え、プロトタイプを作り直してまたフィードバックを得る。
これを繰り返していくことによって、顧客自身も気づいていなかった本当のニーズ(経験)を浮き彫りにしていくわけです。
そして、その隠れたニーズに真に応える商品サービスが生まれるとき、イノベーションが起こるわけです。
粗々ですが、以上が私が理解した限りのデザイン思考のエッセンスです。
これがここ6、7年、日本に流れ込んできているデザイン思考的な考え方に共通するポイントだと感じています。
(例えば、上の検証を徹底的に「科学的」に行えば、リーン・スタートアップになります)。
現在モノが売れないと言われています。
だから政治が給料を上げろなどというわけですが、よしんば給料が上がったとしても欲しいものがなければ人はなにも買わないでしょう。
消費者が喉から手が出るぐらい欲しいものを生み出さない限り、経済の活性化もないでしょう。
その意味でもデザイン思考はこれからのビジネスの最重要な駆動力になるのではないかと思っています。
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■執筆者プロフィール
清水多津雄
ITコーディネータ
企業内ITCとしてITマネジメントに従事
大学・大学院での専攻は哲学。
現在、オートポイエーシス理論、とりわけニクラス・ルーマンの社会システム理論をベースに企業で役立つ情報理論&方法論を模索中。