1.はじめに
昨年の総務省発表によりますと、高齢者(65歳以上)の人口が3,384万人、総人口に占める割合は26.7%と共に過去最高となりました。この傾向はしばらく続き、国立社会保障・人口問題研究所の推計では、第二次ベビーブーム期(昭和46年~49年)に生まれた世代が65歳以上となる平成52年(2040年)
には、36.1%になると見込まれています。2015年には、80歳以上人口が初めて1,000万人を超え、日本の高齢者人口の割合は主要国で最高になりました。新聞やニュースで高齢化社会について見ることがありますが、今後の予測を含め数字で見ると実感が沸いてきます。
高齢者の消費特徴は、よく言われていることですが交際費と保健医療への支出割合が高い点です。交際費は子や孫の世帯など世帯外への金品の贈与、保健医療は広く健康への気配りを反映した「スポーツクラブ使用料」やサプリメントなどの「健康保持用摂取品」、余暇を享受する国内旅行や海外旅行などの「パック旅行費」への支出が高いです。知ってびっくりしたのが、過去12 年間で高齢者世帯のネットショッピングの利用が5倍に増加していた点です。消費の内訳は「旅行関係費」が 最も高く、次いで「食料」が続きます。また、高齢者のネット利用を高めるのを後押しするかのようにスマートフォンの利用率は高齢者世帯の4の1程度にまでなっています。
一方で、国民生活センターに寄せられた消費者被害の数は年間20万件にも上ります。このうち販売方法・手口別件数でみるとネット関連での被害相談は3番目に多い被害件数となっています。被害内容としては「インターネットで借りたレンタルDVDを返却期限内に返したのに延滞料金を請求された」、「ホテルの宿泊サービスがネットで予約した内容と異なっていた」、「商品がいつまでたっても届かないので、業者に確認したらメール便で送ったと言われた」などネット特有の被害が多いようです。これらは、高齢者だけを狙ったものではないと思われますが、高齢者のネット利用の裏でこのような被害が増えていることが読み取れます。
2.特定商取引法と消費者契約法改正の概要
こうした中で、政府は高齢者らを狙った悪質商法への対策を強化するために3月4日に特定商取引法と消費者契約法の改正案を閣議しました。
特定商取引法では、業者への罰則を強化し、業務停止命令の期間を「1年以内」から「2年以内」に引き上げる、国や自治体が悪質業者に返金計画をつくらせて履行を命じる被害者救済制度も創設する、業務停止中の業者が別に法人をつくって同じ業務を繰り返すことも禁じることになります。これに違反した時の罰則は、経営者ら個人は「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」、法人は「3億円以下の罰金」となります。ネット通販などで所在地が分からないと行政処分の通知を出せませんでしたが、消費者庁での掲示をもって処分を出せるようにもされます。
消費者契約法では、嘘の説明で買わされたときに契約を取り消せる期間を現状半年から1年に変更し、消費しきれないほど大量に売りつけられた場合や、「今のタイヤでは必ず事故に遭う」などと危険性を大げさに説明されて契約したケースも解約できるようにする、大量売つけや大げさな危険性の説明に当たるかどうか消費生活センターが相談窓口となる。消費者保護の一方で違法業者への対策を強化する、といった対策が講じられます。
3.消費者契約法改正の今後の動向
現在、さらなる消費者契約法改正に向けての検討が進められていますが、その中で「広告」の取り扱いが民間企業を中心に大きな関心を集めています。何故なら、これまで規制の対象外である広告が契約の取り消し対象となる「勧誘」に含まれる方向で議論が進んでいるからです。消費者保護の強化を図ることで事業者に過大な負担を強いる法改正がこのまま進められると、経済へのインパクトが図り知れないのではと心配です。広告が対象となれば、TVやラジオCM、テレビショッピング、インターネット広告、通信販売のカタログなどにまで拡大する恐れがあります。
今後は、経済への影響を配慮し、民間企業の現場の意見を吸い上げるなどの検討努力をしていただきたいと感じています。企業の皆さんは今後の動向を注視していく必要があります。
(参考文献)
・内閣府 消費者契約法専門調査会ホームページ
・総務省ホームページ
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■執筆者プロフィール
松山 考志
宅地建物取引主任者
個人情報保護士