経営に活かす心理学~社員を勇気づける~ / 米田 良夫

 2014年のベストセラー本は「嫌われる勇気」でした。この本がきっかけとなりアドラー心理学が注目され様々な本が出版されています。そこで、今回はアドラー心理学について考えてみたいと思います。

 アドラー心理学は「勇気づけの心理学」ともいわれます。「勇気づけ」と類似している言葉に「ほめる」があります。しかし、アドラー心理学では「ほめる」を否定いたします。ではこの二つはどう違うのでしょうか。

 「ほめる」とは、「相手の優れている点を評価し、賞賛する」ことで、上下関係に基づいています。成果や顕在している能力に対して、「相手が自分の期待していることを成し遂げた時」に「ほめる」という行為が行われます。その視点が、「自分自身の視点」で「評価的態度」で行われます。「相手をたたえる」ということですが、「相手をコントロールする」、または、「相手よりも立場が上であ
ることアピールする」という目的の場合でも行われます。結果的に、部下(社員)をほめられないと動かない依存体質にしてしまいます。

 他方、「勇気づけ」とは、「相手が困難を克服する活力を与える」ことで、対等な横の関係です。それは、時や場面を問わず、「相手が自分の期待に反していた時や、失敗した時」にも可能です。相手の潜在的な力に焦点を当て、プロセスや相手の存在そのものを認めます。「相手の視点」にたち「共感的な態度」で行われます。「相手が自分の力で課題解決ができるように支援する」ことが目的です。その結果、相手が自立するようになります。

 「ほめる」と「勇気づけ」は、はっきりと区別できないところもあります。特に、ほめられることに慣れていない日本人には、一時的な効果がありますが、それは自立を促しません。もちろん、新入社員には仕事を教えることが優先されます。そして、できた時には「ほめる」ことも必要です。しかし、数年経った社員には「勇気づけ」で自立を促していくことが重要となります。「ほめる」から、「勇気づけ」へ移行していくことが重要となります。

 そこで、今回は勇気づける方法のひとつであるアイ・メッセージを紹介します。
 アイ・メッセージとは、「私」から始まるメッセージで、横から目線で主観的で参加的なメッセージです。例えば、
 「私はこの計画はすばらしいと思います」
 「私はこのように変えると、もっとよくなると思います」
 など、「私」がどう思っているかを相手に伝えます。

 これに対して、「あなたは」から始まるユー・メッセージは、上から目線で冷たい印象を与え、客観的で評論家的なメッセージとなります。例えば、
 「あなたのその計画はよくできています」
 「あなたは優秀だ」
という使い方をし、相手の勇気をくじきます。

 何か難しそうですが、あまり深く考えず、
 「ありがとう」
 「助かったよ」
 「会社にとってよかった」
と、声をかけてみることから始めてみてはいかがでしょうか。

 今回は、心理学を経営に活かすというテーマでコメントいたしました。自立する社員を増やし、組織(会社)に貢献できる喜びを知った社員が増えることが、組織を成長させます。私はそう信じます。

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■執筆者プロフィール

 クリッジナリティー 代表 米田良夫
 中小企業診断士、ITコーディネータ