企業の吸収合併時に起きること / 岩本 元

 先日、台湾企業の鴻海とシャープの間で企業の吸収合併に向けた契約が締結さ
れました。関西を代表する企業の1つであり、かつて日本国内で屈指の技術力を
誇ったシャープが、海外企業の子会社となる衝撃的な出来事でした。本稿では、
企業の吸収合併時に何が起きるかを説明します。

◇企業の吸収合併の会計処理
 吸収合併(Merge)の方法のうち、主なものとして取得(Acquisition)があり
ます。企業Aが企業Bの支配を獲得することをAによるBの取得と呼びます。取
得の会計処理は以下のステップで行われます(パーチェス法)。
(1)取得企業の決定
 Bの支配を獲得する、すなわちBの株式の50%超を獲得するAを取得企業としま
す。
(2)取得原価の算定
 AがBの株式を取得するにあたって支払う対価(現金またはAの株式)の時価
を「Bの取得原価」とします。
(3)取得原価の配分
 Aは、Bから受け入れる資産および負債に対し、それらの時価を基礎として取得
原価を対応付けます。資産(時価)-負債(時価)の金額より取得原価の方が大
きい場合、その差額を「のれん(goodwill)」として資産計上します。Bののれん
は、Bのブランド力など見えない資産価値または将来の収益性を意味します。
(4)増加資本の処理
 AがBの株式を取得するにあたりAの株式を対価として交付するとき、Aの資本
が増加します。

◇パナソニックと三洋電機
 ここで関西最大企業であるパナソニックによる三洋電機の吸収合併を振り返り
ます。パナソニックが吸収合併に乗り出した2008年当時、三洋電機はパソコンや
携帯電話に使用されるリチウムイオン電池で世界トップの4割のシェアを誇り、
また太陽電池でも高い技術力を有していました。これらはパナソニックがあまり
強くない分野でした。パナソニックは2回の株式公開買い付け(TOB)を経て、
2011年4月に三洋電機を100%子会社化します。この買収により,パナソニック
は約5,100億円という巨額ののれんを計上しました。
 吸収合併の以降、パナソニックは三洋電機から取得した事業の再編に取り掛か
り、両社で重複する事業を以下のように整理しました。
・半導体事業をオン・セミコンダクターへ売却、携帯電話の振動用モーターなど
 の小型モーター事業を行っていた三洋精密を日本電産に売却しました。
・洗濯機と冷蔵庫の事業を中国ハイアールに売却しました。また、パナソニック
 が強い事業分野である他の白物家電(エアコンや電子レンジなど)に関して、
 三洋電機の事業を終了しました。
・デジカメ事業において、三洋電機は年間1500万台をOEM生産し、二次電池、
 電子部品に次ぐ3番目の売上高を保持していました。ただ、三洋電機が得意と
 していたのは価格訴求型のコンパクトデジカメであり、パナソニックのデジカ
 メ事業は一眼カメラを軸にした高級路線でした。コンパクトデジカメ市場の価
 格競争が激しくなる中、パナソニックは三洋電機のデジカメの生産終了を決定
 しました。

 上記の事業再編の中、中心であるリチウムイオン電池事業の収益が韓国メーカ
ーとの競争激化により悪化し、2012年3月期決算において、パナソニックは2500
億円ののれんの減損損失を計上しました。

◇鴻海とシャープ
 経営再建中のシャープは、今年1月から鴻海と経営統合について本格協議し、
2月末、鴻海がシャープに4890億円出資することを一旦決定しましたが、その直
後、鴻海はシャープの抱える3000億円規模の偶発債務の存在を知り、最終合意
を先延ばししました。その後1カ月の交渉で、最終的に出資額は3888億円とな
りました。シャープは鴻海に対して3888億円分の株式を新規発行し、鴻海の持
ち株比率が50%を超えることになります。のれんは未算定です。
 また、3月末に新たな契約条項が追加されています。その内容は「シャープの
事情によって契約が終了した場合や、鴻海に責任がない事情が原因で2016年
10月5日までに出資が実行されない場合は、シャープは鴻海に対し、シャープの
ディスプレイ事業を購入する権利を与える」ものです。つまり、シャープのさら
なる業績悪化や株価下落を理由に、鴻海が今後出資を見送った場合、鴻海はディ
スプレイ事業だけ買収し、他事業を切り捨てることが可能、と見ることもできます。
 パナソニックと三洋電機の事例を考えると、企業を取得する側は、不要な事業
を後で整理する負担を避けたいでしょう。鴻海の最大の関心事が液晶や有機ELな
どのディスプレイ事業であることは明白です。鴻海の液晶子会社のディスプレイ
が品質面においてアップル製品にほぼ採用されていない一方、シャープ製造のデ
ィスプレイはアップルのiPhoneに搭載されています。鴻海には、シャープの液晶
事業を手に入れることでアップルとの取引を増やし、関係をより強固にする狙い
があります。

◇グローバルの動き
 ご存知のとおり、海外ではM&Aが通常であり、日本企業による大型M&Aの事例
も報じられています。例えば、2011年の武田薬品工業(株)によるナイコメッド
社の買収、2013年のソフトバンク(株)によるスプリント・ネクステル社の買収、
2014年のサントリーホールディングス(株)によるビーム社の買収など、いずれ
も兆円単位の大きなM&A事例です。
 今後は、海外企業による日本企業の買収も仕方ないかも知れません。逆に、一
度、吸収合併された会社が事業分離し、再び自立することもあります。シャープ
が復活することを期待しましょう。

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■執筆者プロフィール
 岩本 元(いわもと はじめ)

 ITコーディネータ、技術士(情報工学部門、総合技術監理部門)
 &情報処理技術者(ITストラテジスト、システムアーキテクト、
          プロジェクトマネージャ、システム監査他)
 企業におけるBPR・IT教育・情報セキュリティ対策・ネットワーク構築のご支援

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コメント: 1
  • #1

    坂口幸雄 (水曜日, 27 4月 2016 21:36)

    三洋電機とシャープの事例で、企業の吸収・合併の考え方を分かりやすく解説してある。特に、のれん(goodwill)の定義が参考になった。

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