生き物から学ぶ経営の勘所・・・アリ編  / 富岡 岳司

●働かないアリに関する研究発表
 今年、2月に北海道大学大学院農学研究院の長谷川英祐准教授らが、アリの組
織運営などに関し研究結果を発表されたのをご存知の方も多いと思う。
少し長くなるが、発表文を一部、引用させて頂く。

「アリのコロニーにはほとんど働かないアリが常に存在しますが、これらのアリ
は他のアリが働かないときには働きます。短期的効率を下げる、一見ムダな働か
ないアリはなぜ存在するのでしょうか。コロニーには常に誰かがこなしていない
と全体が致命的なダメージを受ける仕事があり、他のアリが疲れて働けないとき
に、疲れていない働かないアリが仕事を交代でやることにより、コロニーの致命
的な被害を防ぐことができます。よって、コロニーの長期的存続を保証するため
には、常に働かないアリを常駐させることが必要となります。」

 要するに、働きアリが疲れて働けなくなってしまった時に、「働かないアリ」
と思われていた彼らが代わりに同じ働きをすることで、コロニーの致命的なダメ
ージを防いでいるのだという。

●「働かないアリ」と「働かない社員」の比較
 この発表のあと、あちこちで、ヒトの社会と比較した議論が交わされている。
働かないアリも集団を支えているなら、人間社会においても「働かない社員」は
必要だろうとの極端な意見さえ出ている。
半分冗談まがいであったり、不真面目な者が自分の存在価値アピールのために言
っていたりする場合もあるが、真剣に唱えている方もいるようだ。
果たして本当に「働かない社員」は必要なのだろうか。
アリ社会をそのまま人間社会に置き換えるのは短絡的過ぎないだろうか。
今回はそのような疑問にかられ、自分なりに論点と視点を整理してみた。

 研究発表では、「働かないアリは普段は働かないにしても、いざと言う時には
働きアリと同じ活動をする」との事であるが、ここで重要なことがひとつある。
それは、働かないアリも、働きアリを完全に補えるパフォーマンスとポテンシャ
ルを持っていると言うことである。
「いざ」となればできる奴であり、普段は「いざ」となってないだけなのだ。

 では、働かない社員はどうだろうか?
上司と部下で考えれば判り易い。
日頃から不平不満ばかり口にしてサボり癖のついた部下。
そんな部下が、上司の入院を機に、上司の代わりが務まるのかと言う事である。
まずもってそんな事はない。
ややもすると、上司がいないのをこれ幸いとますますサボり出しかねない。

●アリと比較するのは「働かない社員」ではない
「働かないアリ」と「働かない社員」との違い何なのか。
働かないアリに聞かないと判らないが、大きな違いは「働く意思」だと思う。
要は働く意思があっても今はその場面が与えられていないのでパフォーマンスを
発揮していないだけなのか、そんな意思すらないのかの違いだと思う。
 働く意思の無い者は活躍できる場面が来てもさして成果は残せないが、チャン
ス到来を信じ虎視眈々と準備を重ねてきた者は千載一遇を逃さず一気に花を咲か
すことがある。
スポーツで言うならスーパーサブがレギュラーになる時である。

長谷川准教授の話を続けると(要約すると)
「アリには反応閾値(いきち)と言う仕事への反応の個体差があって、先ず最も
反応閾値の低いアリが働き、それ以上の場面が現れたらその次に閾値の低いアリ
が働き出すといった具合に仕事への取り掛かり順序が個体差によって出来上がっ
ている。そのため、なかなか出番の回ってこない反応閾値の高いアリは働かない
アリとみなされる」
と言うことらしい。

 働かないアリは、働く意思も能力も無い訳ではなく、場面が訪れれば意思と能
力をフルに発揮し、その集団を支えているのである。
これって、反応閾値を除くと、先ほど例にあげたスポーツがかなり近しいのでは
ないか。
普段は名前を取り上げられることがない控えの選手だが、レギュラー選手の不調
や怪我などで出番が回ってきた時に、見事に活躍してチームを救う場面を良く見
かける。
これはアリ社会と通ずるものがある。
 つまり、ヒトに置き換える際は、「働かない社員」と言う表現は適切ではなく
「活躍していない社員」と言うべきではなかろうか。
そう捉えるなら上司と部下のも合点が行く。
敏腕上司の下で鍛えられている部下、普段は上司の影になり目立たないが、上司
不在で役割を任せられた時に素晴らしい活躍を見せて周りを驚かせる。
そしてやがて彼が組織を牽引していく。まさに強い組織そのものである。
要するに、働く(活躍)する意思があり、それに向けて準備(努力)をしている
か否かが重要であり、今、働いているか(活躍しているか)が論点ではないと言
うことである。

●強い組織・会社とは
「働かないアリ」を「活躍しない社員」に置き換え、スポーツで例えると判りや
すかったが、会社は、プロスポーツチームのように、控えや2軍などを持てる訳
ではない。
常に利益を出し続けなければならない競争社会で、2軍組織などあり得ないので
上記の理論をそのまま当てはめることはできない。
一方で、会社は、スポーツでは難しいコンバートが比較的行える。
ジョブローテーションなどが最たる例である。
 つまり、今は自分の希望ではない部署であったり、自分の能力をフルに発揮で
きない業務であるかも知れないが、活躍できるポジション(部門)や、場合によっ
ては全く異なる競技(事業)に移れる(異動できる)可能性がある。
その来るべき日に備え自己研鑽・自己啓発を積んでおくことで、何れはその努力
が実り、また役に立たないと思っていた今の業務が糧になり新たな部署でパフォー
マンスをいかんなく発揮できるのが会社であったりする。
働かないアリとて、私達は勝手に怠け者のように思い込んでいるだけで、実は、
働きアリの動きを観察し、いつでも代わりができる準備を整えて、体力も意図的
に温存しているのかも知れない。

長谷川准教授の研究発表の中にもうひとつ興味深いことが記されている。
それは
「働くアリだけにすると働かないアリが現れる。逆に、働かないアリだけを集め
ると働くアリが現れる」
と言うことである。

 なるほど、言われてみれば、集団スポーツにおいて活躍しているスーパスター
ばかりを集めたからと言って、全員が活躍する訳ではない。意図的ではないにし
ろ、力を発揮できない選手が出てくるのが常であり、これもなんとなく似通って
いる。
そして何よりも、活躍の場がなかった選手だけを集めたらチームとして成り立た
ないかと言うと、レベルの差はあるにしても、それなりに戦ったり、素晴らしい
活躍をする選手が現れたりするものである。
 後者については、会社の幹部やリーダーは特に意識しておく必要がある。
前半で述べた、愚痴ばかりこぼして怠け癖のついた者は別として、思ったように
伸びてくれない社員に対し本当に活躍の場を与えているのかと言うことである。
「いくらチャンスを与えても駄目だ」と言っていても、それはひょっとしたら、
働いていないアリを、働きアリが沢山いる中に「頑張れ」と言って掘り込んでい
るからなのかも知れない。
本人がパフォーマンスを発揮する環境は、別のところにあるのかも知れないし、
それが何処なのか本人も気付いていないのかも知れない。
それでは「働きアリ」になるわけがない。
マネージメントする立場にある者は、そこの見極めができないと、「活躍してい
ない社員」を活躍させないまま集団運営をすることになり、ひいては大変な機会
損失をすることになる。

 アリから学ぶ持続した強い組織(会社)とは、今、「活躍していない社員」が、
自らが活躍する来たる日を信じ、それに向けてしっかりと自己研鑽を積んでいる
こと、そしてその能力が発揮される戦いの場とタイミングを見極めるマネージャ
が牽引している組織(会社)だと思う。
他社で活躍している社員を引き抜いてきても、上記が実践できない会社は、一時
的には素晴らしい業績が出ても、世代交代に失敗したり、他社に買収されたりな
どして永続発展は望めないであろう。

初夏のような陽気の中、腰を落として、「君はどっちのアリだ?」と問いかけて
みませんか?

参考:北海道大学プレスリリース
   「働かないアリはコロニーの長期的存続に必須であることが判明」

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■執筆者プロフィール

富岡 岳司
ITコーディネータ京都 理事

ITコーディネータ/文書情報管理士/セキュリティプレゼンター/
情報セキュリティ指導者/第1種衛生管理者/電気工事士

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