アベノミクスのIoT・ロボット・AI利活用支援策 / 松山 考志

1. はじめに
 今月2日、政府が第2次安倍政権以降で最大となる事業規模28兆1000億円の経済対策を決定したことは記憶に新しいかと思います。これによる景気対策効果は、7兆5000億円と試算されています。複数年で執行するということで、その第一弾が秋の臨時国会に提出する2016年度第2次補正予算案に盛り込まれるようです。具体的な中身は、首相官邸のホームページに、「経済対策を通じた「日本再興戦略2016」の実施の加速について」という内容で今年7月と8月にアップされています。経済対策に含まれる成長戦略の施策については、8月の更新情報で確認できます。その中でIT利活用と関連した施策のうち、中小企業に恩恵がありそうな「サービスの生産性向上」、「中堅・中小企業正気事業者の革新」という項目について見てみたいと思います。

2. 日本再興戦略2016のIT利活用による企業支援内容
1) AI・IOT技術を活用したサービス産業の生産性向上支援
 AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)を活用し、産業構造を大きく転換しようという第4次産業革命を通じて、サービス産業の生産性向上を牽引する成長企業の創出に取り組むとしています。第4次産業革命とは、ドイツ政府が提唱している「Industry 4.0」が参考になります。これからの社会は、純粋なモノづくりや単純サービスの付加価値はますます薄れ、データを利用したサービス提供にサービスの主体が移るとの予測も出ています。こうした時代の流れから、今年5月に中小企業等経営強化法が制定され、製造業など11事業分野において生産性向上に向けた指針が策定され、サービス業の特性に応じた ITの導入や経営指導等を支援していくことになりました。政府は、中小企業における先進的なデータ・IT 利活用等を支援し、2020 年までに生産性の伸び率 が10%程度となる成長企業を全国で1万社の創出を目指します。IT利活用事例としては、宿泊業や小売業で、顧客データやタブレットを活用し、個々のお客様の様々な要望をお店全体で共有し、これに応えるといったサービスを展開し、リピーターの獲得に加え、お客様の評判がインターネットを介して広く拡散することで、新規顧客の獲得につなげるような取り組みが考えられます。

2) IT利活用による中堅企業・中小企業などの生産性向上支援
 IT利活用をはじめとする中堅企業・中小企業・小規模事業者の生産性向上支援を実施していきます。具体的には、(A)専門家派遣、(B)自動化支援、(C)中堅・中小企業の標準化支援です。
主な内容は、次の通りです。
・IT投資による経営力強化の事例紹介及び相談会を全国100ヶ所で実施
・専門家による1万社以上の中小企業の IT導入を支援。
・製造業については IT、カイゼン活動、ロボット導入の専門家で構成される「スマートものづくり応援隊」に相談できる拠点を整備
・小型汎用ロボットの導入を支援する人材(システムインテグレーター)の拡大を支援

 「スマートものづくり応援隊」はこれから創設されるようですので、今後の動向に注意しておきたいです。小型汎用ロボットの導入を支援する人材は、ロボット導入事業を行っている事業者から聞いたところでは、経済産業省が導入プロセスの標準作業を進めており、それを担う企業の育成を始めていくようです。また、前掲の「経営計画つくるんくん」考でもコメントがありました「ローカルベンチマーク」等を活用した成長資金の提供支援もはじまります。これまで物的担保や個人保証に頼っていた銀行頼みの資金調達方法から、主務大臣が経営力向上計画を承認・認定した事業者は、金融や税制上の優遇・支援を受けることができるというものです。この新しい試みがどこまで浸透するかは大変興味があります。

3. 中小企業等経営強化法の活用方法について
 「日本再興戦略2016」に合わせて施行された中小企業等経営強化法について触れておきます。この法律は、人口減少・少子高齢化の進展や国際競争の激化、人手不足などを背景に、中小企業など事業者における生産性向上を図ることを目的に制定されました。対象となる事業分野が明記されており、現在は製造業、卸・小売業、外食・中食、旅館業、医療、保育、介護、障害福祉、貨物自動車運送業、船舶、自動車整備の11分野となっています。中小企業等事業者は、各大臣が定める事業分野別指針に沿って「経営力向上計画」を作成し、国の認定を受けることができます。認定取得の効果は、申請内容に依りますが、生産性を高めるための機械装置を取得した場合、3年間、固定資産税の1/2への軽減措置を得られ、その他計画に基づく事業に必要な資金繰りの支援(融資・信用保証の優遇措置等)を受けられます。また、ものづくり・商業・サービス補助金の申請においては、認定取得すれば加点対象とされていますので、補助金取得を検討されている事業者は是非取得しておきたいものです。中小企業等事業者の事業発展や体質改善に役立つものになるかと思いますので、認定取得を検討するメリットがあると考えます。

(参考文献)
・首相官邸ホームページ「日本経済再生本部」
 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/
・経済産業省ホームページ「中小企業等経営強化法が施行されました」
 http://www.meti.go.jp/press/2016/07/20160701001/20160701001.html

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■執筆者プロフィール
松山 考志
宅地建物取引主任者
個人情報保護士