IT業界の光と影、ビジネスパーソンの人生の処世術 / 坂口 幸雄

 酉年の今年はどんな年になるのだろうか。トランプ氏の米国大統領就任などにより政治も経済も不安定になる。ITC京都のメンバーはIT業界で働いている人も多く、かつ技術力・人脈など人材は多士済済である。しかしIT企業の栄枯盛衰・新陳代謝は進展しており、雇用環境も多様化して、報酬や待遇の差は大きくなるだろう。

 ここでは、まずは雇用環境の背景となっている”IT業界の光と影”から考えることにする。

 

1.  IT業界の最大の問題点

 IT業界は、「ITを上手に使う立場の人間」か「ITに使われる立場の人間」に二分されてきている。世渡り上手な人はITを活用して高給を取り、反対に世渡りが下手な人は残念だが頑張っても薄給になる。

 IT業界はこの変革の時代に“リスクを犯してチャレンジする新規参入者”を積極的に迎え入れ、新陳代謝を促してIT活用によるビジネスチャンスをもっと増やさないといけない。

 日本のIT業界は花形産業としての明るい「光の側面」もあるが、反対に旧態依然とした体質が残っており、下記のような暗い「影の側面」の改善が求められている。

 

 1)  系列化された企業グループ内の多重下請体質
   安定はしているが、保守的で技術革新が起こりにくい。

 2) 業界標準となる統一されたエンジニアリング手法が普及してない
   ベンダーがバラバラに開発しており、業界の標準化が遅れている。

 3) ガバナンス不足による不正経理、セキュリティ問題
   経営者による粉飾決算、架空計上、循環取引、情報漏洩の事例。

 4) あいまいな労働契約
   派遣偽装請負、労働関係法の違反事例。

 5) 劣悪な労働環境のために人材の採用・定着が不安定
   新卒採用が難しい。将来性に不安を持つ若手や壮年社員の離職。

 6) 社員の能力開発に対して不熱心
   目先の業績に追われ、長期的な視野に基づく人材育成が出来ていない。

 

 このように様々な問題点を抱えているが、最大の弊害は多重下請体質であると私は思う。

 

2. 自社系列内の多重下請構造の問題点

 一言で言えば、多重下請の問題点は「上流にいる者が美味しい水を飲み、下流にいる者はまずい水を飲まされる」という不平等な業界構造である。「上流工程を担当するマネジメント側」と「下流工程を担当するプログラム実装側」の処遇に大きな差が存在する。

 IT業界は大手ITベンダーを頂点にしたピラミッド構造が形成されている。何と言っても政府や金融はソフト開発案件の予算は膨大であり、IT業界にとって大変魅力ある顧客である。政府や銀行から受注した大型プロジェクトは元請、下請、孫請・・へ次々に発注されていく。

 ここで問題になってくるのは、「自社系列内の取引」であるため、PMBOKに記述されている様なドライでオープンな競争環境ではないことである。IT市場規模が停滞している現在、自社系列内での取引関係が長くなると、ウェットでクローズな人間関係・貸借関係が発生する。そして資本・人事面でも段々と子会社化していく。

 この一見安定したピラミッド構造に住んでいると、チャレンジを忘れた守りの会社人間になり、いつの間にか「ゆでガエル」となり、スキルも「ガラパゴス化」してくる。高齢化したベテラン社員は、リスクを伴うイノベーションや大胆な戦略変更には消極的で抵抗勢力となる。内向きなビジネスモデルからはイノベーションは起きない、

 米国では「新しいビジネスモデルの創造、大胆な規制緩和、優秀な外国人技術者をグローバルに採用」の外向きのイノベーションに積極的だ。反対に日本では「売上・利益の伸長、安定した品質、コスト削減」の内向きのイノベーションに積極的となっている。

 

3. 多重下請構造の問題を“建設業と比較”して深掘りしてみる

3.1 建設業と比較して未成熟なIT業界の構造

 ソフトウェア開発の上流工程と下流工程の関係も「いびつ」である。IT業界と比較して、建設業界は長年の経験と知恵が蓄積され成熟しており、職種毎に業務ノウハウが体系化されており、そのスキル・経験により一定の報酬が定められている。比較するとIT業界はまだまだ未成熟である。

 建設業がIT業界と比較して優れている点は以下の通りである。

 

・設計(上流)と施工(下流)は完全独立化しており、責任分担が明確である。
 設計は設計事務所が担当し、設計図書に基づき建築会社が施工する。

・プロジェクトマネジャーは現場の進捗状況を自分の目で可視化できている。
 建設業の成果物は可視化できるが、ソフトの成果物は可視化できない。

・「業務ノウハウ」と「外注する単純作業」を明確に区別出来ている
 建設業界では単純作業は外注しても、業務ノウハウは外部に出さない。IT業界は単純作業と一緒に
 自社の業務ノウハウまでも出してしまう。IT業界では「業務ノウハウ」と「単純作業」の区別が曖
 昧である

・見積方法と基準が標準化されている。
 「積算資料」という市販本で人件費や材料費が公開されている。IT業界では曖昧な「人月数」で大
 雑把、人月単価は力関係による。

・建設業は法律で規制された国交大臣または知事による認可事業である。
 IT業界に特にこのような公的な規制はない。

 

3.2 統一されていないIT業界のエンジニアリング手法

 日本の労働組合は企業別で社員は企業に忠誠心を持つ、米国は職種別で社員は職種(職業)にプライドを持つ。米国は職種毎の業務標準化が進んでいる。そのため、同じ職種ならば他社へ転職しやすい。日本人は相手の勤めている会社名を聞くが、米国人は相手の職業(職種)を聞く。

 日本のITベンダーはエンジニアリング手法を独自に開発しているが、企業秘密にしてオープンにしない。優秀なIT技術者でもその経験・スキルは他社に転職すると通用しない。

 

4. 企業の内部組織の硬直化・老朽化と企業の買収、撤退、統廃合

 IT業界は企業の歴史が長くなり大量のベテラン社員を抱えている。その上組織の階層も多重化して、部門も細分化されている。つまり内部組織が硬直化・老朽化してきている。

 一方、企業はグローバル競争により目まぐるしく「買収、撤退、統廃合」が繰り返されている。日本の大手企業のパソコン事業も中国企業に売却されている。関西では有名大手電機メーカー2社が同業他社に買収されている。

 

5. employability(雇用されうる能力)が最重要

 ビジネスパーソンを取り巻く雇用環境は流動的・不安定になってくる。雇用主からの独立性を保ち、万一リストラされても失業しないように、employability(雇用されうる能力)を日頃から高めておく「しぶとさ」が必要がある。

 私自身の苦い経験を述べると、勤務していたITベンダーの業績が悪化した時にリストラで退職を余儀なくされた。その後「外資系企業」や「政府の外郭団体」で働くことになった。特に外資系は企業文化がドライで、仕事のやり方が理解できずに大変苦労した経験がある。

 

 中国の雇用関係は日本よりも厳しい。中国の知人の話によると、中国の社内掲示板には次の「張り紙」が貼ってあるそうである。

・今天 工作 不努力、明天 努力 找工作 

(今日成果がでなければ、明日は仕事探しで苦労するぞ!)

 このような競争環境では、ビジネスパーソンは自ら「匠の技」を磨く必要がある。キャリア形成の手段は人により様々で、画一的な手法があるわけではない。個人の経験・スキル・家庭環境・人生観・価値観・人脈によりアプローチ手法は様々である。日頃の仕事の体験の中から、自分の能力・性格に合った領域(ドメイン)を決めて、オンリーワンになるべく努力する。最後は、自己責任で臨機応変にやっていく。「金を稼ぐための仕事」と「自分が本当にやりたい仕事」の両方をバランス良く「二兎を追う」ことも必要かもしれない。更には「匠の技」だけでなく、人脈を築くためのコミュニケーション能力も忘れてはならない。

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■執筆者プロフィール

坂口 幸雄

ITベンダ(東南アジアや中国でのマーケティング、日系企業の情報システム構築の支援)、

 JAIMS(日米経営科学研究所、米国ハワイ州)、外資系企業、 海外職業訓練協会(キャリアコンサルティング)、

 グローバル人材育成センターのアドバイザー、 ITC京都の会員

 趣味:犬の散歩、テレサテンの歌を聴くこと、海外旅行、お寺回り

 (四国八十八カ所遍路の旅および西国三十三カ所観音霊場巡り)ホームページ

 http://ysakaguchi.com/

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