●オープンイノベーションの概念が喧伝されてから久しくなります。オープンイノベーションとは、一言でいうと、企業の新事業化に際し、従来の自前主義から脱して、外部企業や大学の研究機関と積極的に外部連携し、イノベーションに基づく事業化開発を加速する手法ということができます。歴史的には2003年にハーバード大学教授ヘンリー・W・チェスブロウ氏が提唱した概念で、端緒となった著作の出版から今年で14年目となります。
筆者は今年9月11日に開催されたシンポジウム「関西の未来」(オープンイノベーションによる新しいビジネスモデルの創出)に参加する機会があり、改めて、オープンイノベーションについて考えてみたくなりましたので、今回は雑感として思うところを書いてみることにします。
●まず、オープンイノベーションの日本国内での現状はどうなっているのでしょうか。資料としてとても参考になるのは、2016年にオープンイノベーション・ベンチャー創造協議会(JOIC)がまとめた「オープンイノベーション白書(初版)」です。これを見ると、この十数年を経て、企業や大学のオープンイノベーションに対する意識が日本においても、かなり浸透してきた事が見てとれます。詳しくは白書をお読みいただく事として、企業が外部連携組織に研究開発資金を拠出する実績額は、徐々に増加している事がうかがえます。また、オープンイノベーションを支援する公的サービスや、民間サービス企業も確実に増加しています。
株式会社ナインシグマ・ジャパンや、最近ではリンカーズ株式会社等の技術仲介サービス企業は、最近ではその存在感を伸ばしているようです。
●個人的にもその実感があります。筆者は3年ほど前、関西の一般社団法人が実施した、オープンイノベーションに関する調査に参加し、関西企業の生の意見を聞きましたが、当時においても、オープンイノベーションに対する関心は高まっており、できれば取組みたいという声を多く聞きました。また、筆者の勤務する大阪大学においても、この1~2年の間に、従来の産学連携では考えられなかった、毎年10億円の資金を10年間に亘って拠出するという、基礎研究から応用研究までをカバーする中外製薬株式会社との包括連携契約や、IOT、AI研究に対し10年間で総額56億円を拠出するダイキン工業株式会社との包括連携契約など、大型の連携契約が締結されるようになりました。このように、企業における外部連携の動きは、これまで大学に対して比較的少額の共同研究契約しか締結してこなかった状況に鑑みると、確実に進展しているようです。
●このように日本において、オープンイノベーションの動きは着実に進展しているようです。しかし、オープンイノベーションの成果としての、具体的なイノベーションの創出実績はまだまだ欧米にはかなわないように思います。特にシリコンバレイのベンチャー企業が創出してきた破壊的イノベーションは、日本においても創出できるようになるのでしょうか。その点においては、やはり均一的でリスクを嫌うといわれる日本社会文化の特有性に大きな壁があるように思います。オープンイノベーションには、ダイバーシティとそのマネジメント人材が必要であると言われます。冒頭で紹介したシンポジウムで基調講演したシンガポール科学技術庁長官のリム・チュアン・ポー氏がいみじくも指摘していましたが、日本はイノベーション創出環境を十分備えているが、オープンイノベーション先進国になるためには、特にダイバーシティ(多様性)レベルをもっと上げるべきであると。ダイバーシティの指標の一つに、大学の在籍留学生比率があるのですが、彼によれば、日本の留学生比率はアメリカやシンガポールに比して。極端に少ないという事です。その結果、多様な人材の交流が生まれず、イノベーションが起こりにくいとのことです。現在の日本のオープンイノベーションは、このような壁を如何に乗り越えるかという、次の大きな課題に直面している段階ではないかと思います。
参考文献)
1. オープンイノベーション白書、オープンイノベーション協議会(JOIC)、2016
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■執筆者プロフィール
馬塲 孝夫(ばんば たかお) (MBA)
ティーベイション株式会社 代表取締役社長
(兼)大阪大学 産学共創本部 共創人材育成部門 特任教授
(兼)株式会社遠藤照明 社外取締役
e-mail: t-bamba@t-vation.com
◆技術経営(MOT)、産学連携、FAシステム、製造実行システム(MES)、生産産情報システムが専門です。◆
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