2017年は、仮想通貨元年とか。中心的な存在のビットコインは爆上げして12月には最高値240万円超えに達しました。同様に他の通貨も爆上げです。しかし、2018年1月26日に国内老舗の仮想通貨取引所「コインチェック」がハッキングされ、時価で580億円相当のネム(XEM)を盗難される事件が発生しました。これにより、被害を受けたのは26万人と言われています。その後相場は低迷して、ビットコインは60万円程度に値を下げる等、大きな損失を被る投資家も出ました。
しかし、2017年から2018年正月頃にかけては、短期間で億万長者になった投資家たちが雨後の筍のように輩出したのです。
歴史の浅い仮想通貨は、まだ市場の整備や社会的な認知が不十分です。仮想通貨は終わったという人もいる一方で、新規参入してくる企業等も後を絶ちません。
つい先日も世界的な投資家ジョージ・ソロス氏やロックフェラー財閥、ロスチャイルド財閥が参入を決めた等というニュースが流れています。更に、国内ではヤフーが仮想通貨取引所「ビットアルゴ取引所東京」へ資本参加して仮想通貨事業に参入することが伝えられました。
今後、社会的な規制や技術の革新によって仮想通貨市場は整備されていくと思われます。どうやら、AI(人工知能)と並んで仮想通貨は、次の社会インフラとして普及していくと考えられるのです。このような背景から、今回は仮想通貨初心者の道案内になる入門レベルの知識を網羅的にまとめて解説しました。即ち、「今さら聞けない仮想通貨入門」です。なお、貨幣のような物体を持たないために仮想通貨という名称が先に広まってしまいましたが、その実態は暗号通貨(Crypto currency)ですので、一般に仮想通貨と言ったり暗号通貨と言ったりしています。
■通貨とは・・・・■
通常、流通貨幣を略して通貨と言っています。
これは、国等の統治主体によって価値が保証された決済のための交換媒体ということになっています。早い話は、「お金(おかね)」です。仮想通貨(暗号通貨)が登場する以前は、「おかね」と言えば、このような法定通貨でした。
■仮想通貨の誕生と成長の経緯■
仮想通貨としての元祖である「ビットコイン」は、2008年に「サトシ・ナカモト」と名乗る人物がインターネットに公開した論文に興味をもったエンジニアたちが分担して開発に取組み、2009年に誕生しました。翌2010年5月に開発者フォーラムにて初めてビットコインを用いてピザが注文され、ただのデータだったビットコインが現実社会のモノと交換されたと言われています。
その後、一部の人たちに「ビットコイン」が広まっていく中で、2014年に当時世界最大規模の仮想通貨と法定通貨の交換所を営んでいたマウントゴックス社(MTGOX)がハッキングを受けて経営破綻する事件があり、ネガティブな報道ともあいまって「ビットコイン」は危ないという認識が国内で拡がりました。後日談では、ハッキングによる被害は少なく、ほとんどが代表者による不正事件だったと言われています。
その後も仮想通貨取引所が続々と現れて、サービスを提供していきます。仮想通貨は、各国が管理する法定通貨と違って国際送金の費用が桁違いに安く、中には匿名性が大変に高い仮想通貨も存在していて、利用者の範囲が広がってきたのです。2015年には、G7サミットの首脳宣言やFATF(金融活動作業部会)が公表したガイダンスで、仮想通貨と法定通貨の交換所に対して、マネーロンダリング及びテロ資金供与規制を課すことが各国に求められた経緯があります。
■日本における法整備(仮想通貨法)■
この様なことから、日本においては2017年4月1日から施行された改正資金決済法(いわゆる仮想通貨法)に仮想通貨が明記され、初めて仮想通貨に関する法的規制が導入されたのです。これに伴い、仮想通貨交換業者に関する内閣府令、犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令等が公布されています。
それでは、資金決済に関する法律 第二条5項による仮想通貨の定義を見てみましょう。
(1) 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済の
ために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売
却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているも
のに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、
電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
(2) 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値で
あって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
上記の(1)を1号通貨といい、ビットコインやアルトコイン(ビットコイン以外の仮想通貨)の多くがこれに該当します。また、上記の(2)を2号通貨といい、アルトコインの一部がこれに該当します。アルトコインは、既に1,000種類以上あるといいます。
なお、日本ではいち早く上記の法整備がスタートしましたが、仮想通貨に対する世界各国の姿勢は現状で相当の開きがあって、どのように対応すべきか各国とも戸惑っている様子がうかがえます。ドイツでは、ビットコインは「計算単位 (unit of account)」であって、国内における課税と取引に使用可能であるとしているようです。また、中国本土では金融機関によるビットコイン取引を禁止していますが、個人間の取引は合法としています。
最近の日本国内民間企業の動きでは、三菱UFJフィナンシャルグループが独自の仮想通貨である「MUFGコイン」を開発して、社員が使う実証実験に取組んでいます。
■仮想通貨取引所■
次に、仮想通貨の取引所である仮想通貨交換業者について見てみましょう。
上記の法整備により、仮想通貨と法定通貨の売買などを行う交換所に登録制を課すことになりました。
仮想通貨交換業者は、次の業務を実施します。
(1) 仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換を行うこと(利用者の売買の相手方となって直接販売
等を行う販売所の業務)
(2) 上記(1)の媒介、取次ぎ又は代理を行うこと(利用者同士の売買の場を提供する取引所の業務)
(3) 上記 (1) (2)に関して利用者の金銭又は仮想通貨の管理を行うこと(アカウントやウォレットを
提供して金銭や仮想通貨を保管する業務)
他にも、仮想通貨交換業者には、利用者保護のために様々な安全管理策や誤認防止策及び情報提供、マネーロンダリング防止体制等が課せられ、監督することとされています。
既に、2017年末では16社が仮想通貨交換業者として登録されています。また、審査は完了していないけれど登録申請中の業者や申請準備中の企業があります。
■ICO(新規コイン発行)の魅力■
仮想通貨の魅力の一つであるICO(Initial Coin Offering:新規コイン発行)について、その光と影を見ていきましょう。
仮想通貨を発行してサービス等の開発資金を調達するICOが注目を集めています。株式市場における新規公開(IPO:initial public offering)は、一定基準を満たした法人企業しかできないのに比べて、ICOは個人レベルでも行うことができます。投資する側から見ると、世界中のICOプロジェクトに対して小額からでも仮想通貨(実際は完成した仮想通貨の前段階に位置するトークンと言われる電子引換券)を購入することができる手軽さがあります。その結果、調達した資金で真面目にサービスを開発するケースがある中で、一部には資金調達が完了した段階で連絡が取れなくなるような詐欺的なケースも発生しています。
実際に発行した仮想通貨が取引所に上場されて広く売買が行われるようになると、人気次第で取引価額がプレセール(トークンセール)で購入した金額の何百倍以上にもなる魅力がある訳です。しかし、計画がうまく進捗しないで取引所に上場できない場合や前記のような詐欺にあうと資金を失うリスクがあります。
現在の日本では、ICO自体を対象にした法律はなく、ICOプロジェクトの中で発行されるトークンが持つ性質により、適用される法律が異なります。ICOの商品形態によって仮想通貨法や前払式支払手段規制、ファンド規制等々を発行側は注意深く検討する必要がありますし、投資する側はICOのホワイトペーパーを良く見て信頼できる案件か否かの判断をしなければなりません。
■仮想通貨を支える技術 ブロックチェーンとマイニング■
仮想通貨を支える技術面の説明をします。
国等が管理する法定通貨と違って、中央集権的な管理機構を持たない仮想通貨を成り立たせている技術は、ブロックチェーン(Blockchain:分散型台帳技術)と言われるものです。
これは、ブロックといわれるデータレコードを鎖(チェーン)のように連続的に繋いでいくデータベースです。各ブロックには、タイムスタンプと前のブロックへのリンクが含まれており、一度記録するとブロックのデータを遡って変更することができなくなっています。
このデータベースは、中央主権的な管理サーバを持たないPeer to Peer(P2P:サーバマシンに対するクライアント端末のような関係ではなく、対等の関係で通信する複数の端末により構成される関係)ネットワークに加えて、分散型タイムスタンプサーバによって自律的に管理されています。これを簡単に言うと、仮想通貨の取引記録はネットワークに参加する全端末が持っている状態なので、サーバのような中央集権的な管理は必要ではなくなります。例えば、誰かが仮想通貨の保有残高を偽装しようとしてもネットワーク上の他の全ての端末で確認できる記録とは異なりますから、偽装しようとした内容は承認されないということになります。
取引内容は、ネットワークに参加する全員から監視されている状態ですから、この技術は仮想通貨だけではなく、現在中央集権的に管理されているあらゆる事項に適用できる訳で、まさに世界を変えてしまうほどの可能性を持っていると言えます。しかも、世界中に広がったネットワーク上にあるブロックチェーンは、どんな大国といえども止められないのです。
ブロックチェーンに関して、もう一つ重要なことがあります。それは、マイニング(mining:採掘)という作業です。前項で、ブロックチェーンは取引データ等を収めたブロックを鎖のように繋いでいくのだと説明しました。これを参加者全員が確認できるから、中央集権的な管理者がいなくても不正なく運用できるのです。そのためには、新たな取引を公正に記録する必要があります。直前の記録に新たな取引記録を付け加える時、不整合等がないように確認しなくてはなりませんが、仮想通貨の人気の広がりとともに、その作業は想像を絶するような膨大な量の計算になっています。ビットコインでは、この作業を10分単位に行っており、世界中の参加者が競っていますが、一番早く計算を終えた参加者にのみ新たなビットコインが与えられるのです。
このブロックチェーンという取引台帳の更新作業をマイニングといいます。マイニングに成功すれば、ビットコインを買わなくても報酬として入手できるのです。当然ながら、参入者が多いのですが、一番早く計算を終えるには先進的に強力なコンピュータシステムが必要になり、もはや個人の力量を遥かに超えているようです。この分野では中国の企業グループのシェアが高いのですが、国内では2017年からSBIホールディングス、GMOインターネット、DMMが参入して、アルトコイン分野にも進出するようです。
なお、ビットコインのマイニング報酬は、2018年現在では1ブロック当たり12.5btcですが、報酬は一定数ごとに半減する仕組みで2020年頃には6.25btcになる予想です。
■仮想通貨の保管庫 ウォレット■
入手した仮想通貨はウォレット(Wallet:財布)に入れておくのが一般的です。
購入した仮想通貨を紛失してしまっては、元も子もありません。ウォレットには、現在いくつかの種類がありますので、次に簡単に説明します。
(1) オンラインウォレット
仮想通貨取引所で準備しているウォレットは、取引所のサイト内にありますから、使い勝手が良く重宝します。もちろん、通常のID/パスワード認証の他に2段階認証の仕組みがありますから、セキュリティ面も強化されています。しかし、当然ながらハッキングのリスクは常にあります。また、インターネット接続できないと確認できないほか、取引所がつぶれた場合のリスクは残ります。
他にも、ウォレット専用サービスがあり、人気も高いようです。ウォレットのサービスは、保管できる仮想通貨の種類が限定されているのが普通ですから、様々なアルトコインを保有している人は複数のウォレットを用いることになるでしょう。
(2) ローカルウォレット
基本的には自分のパソコンにウォレットソフトウェアをダウンロードして、ローカルな環境内で保管します。サービスによっては、オンライン環境とオフライン環境の両方で利用できるタイプもあるようです。このタイプのウォレットは、専用ソフト以外に既存ブロックチェーンも一緒にダウンロードされるのですが、全チェーンをダウンロードする完全型と一部のチェーンだけをダウンロードする簡易型があります。ローカルウォレットは、個人でセキュリティ管理する必要がありますが、オンラインよりは安心感があります。また、取引所がつぶれても影響されないし、確認するのにインターネット環境は不要です。一方、自分でセキュリティを維持する必要から、パソコンの故障やウィルスへの対策、専用ソフトをインストールしたパソコン以外では使えないことに留意する必要があります。他にも、完全型のソフトウェアはパソコンの記憶容量を大量に使うことと起動に長時間を要する場合があります。
(3) ペーパーウォレット
管理が簡単ですし、ハッキングにも無関係です。一方、火災や盗難への対策は重要で、秘密鍵の保管には留意が必要です。また、残高確認する場合は面倒です。高額資産はペーパーウォレットで保管して、普段はオンラインウォレットを用いているケースが多いようです。
(4) ハードウェアウォレット
USBメモリに保管しておき、ブラウザからウォレットを利用するタイプです。基本的にオフライン管理なので、ハッキングには強く、パソコンがウィルスに感染してもデバイスと暗証番号が揃わない限り大丈夫だと言えます。一方で、破損や紛失への対策が重要になります。また、リカバリーやファームウェアの更新等の手間があるほか、購入費用が必要になります。
■仮想通貨取引に掛かる税金■
ICOにせよ、取引所での購入による場合にせよ、とにかく安い価格の時に買って、値上がりした時に売ると、相応のキャピタルゲインが得られます。「儲かった!」と喜んでいるだけでなく、確定申告して税金を払わねばなりません。
ところで、国内の仮想通貨取引所との取引記録を税務当局は把握可能です。つまり、税務署は現金取引の裏付けを取るために金融機関に対して調査を実施します。また、海外の口座においても、2018年から海外銀行等は非居住者口座の自動情報交換をスタートすることになっていますので、国内同様に対処しておいた方が良いでしょう。
で、ビットコインは、総合課税で累進税率が適用されます。仮想通貨取引で得た利益(売却額-購入額-必要経費)は、「雑所得」として計上することになっています。1~12月の1年間で得た利益が20万円を超えた場合に申告が必要になります。もちろん、マイニングにより報酬を得た場合も含まれます。念のために言いますが、仮想通貨を円やドル等の法定通貨、若しくは他のモノに交換していない場合は、当然に申告外です。他のモノに交換とは、ビットコインで物品の購入代金を支払い、ビットコイン購入時の価額より物品の価額が高かった時は、その差額が利益になります。他にも、ビットコインで他のアルトコインを買った場合は、アルトコインの購入価額と使用したビットコインの取得価額との差が損益になります。なお、例外的にビットコインを給料の一部として受け取った場合や人から譲り受けた場合は「雑所得」ではなく、「譲渡所得」に計上しますが、こちらは50万円を超えた場合が対象になります。
留意すべきは、仮想通貨取引で損失を出した場合ですが、雑所得は他の事業所得や譲渡所得等と損益の通算ができないことです。また、今年の赤字を翌年へ繰越すことも認められません。
以上、仮想通貨に関わる税金は、歴史が浅いだけに未整備で不利な状況にあります。株式投資では、総合課税ではなく分離課税を選択できるので、仮想通貨より税率が低く、損益通算ができるほか、翌年への繰り越しもできます。今後の見直しを期待したいところでしょう。
以上、長くなりましたが、更に具体的な詳細を知りたい場合は、次のウェブサイトを参照してください。
------------------------------------------------------------------------------------------------------
■執筆者プロフィール
中村久吉(なかむらひさよし) (NPO)ITコーディネータ京都理事長、ITコーディネータ、中小企業診断士、プライバシーマーク主任審査員
e-mail: ohnakamura@gmail.com
コメントをお書きください