この春に、郷里にある吉野山から届いた桜の写真は、いつもの年であれば少しづつ咲く時期が異なるシロヤマザクラやヤエザクラたちが一斉に咲き誇っている画でした。桜の木々それぞれの花の色合いが混ざり合うグラデーション。今年の気候ならではという、花の吉野の景色でした。
そして、いつしか新緑に目をうばわれるようになって初夏へ。街のあちらこちらでハナミズキが開き、次いで、サツキが溢れていたと思っているうちに、もう紫陽花が元気に咲いています。ご存知のように、あの花びらのように見えている部位はガクだそうですが。でも、花ですよね。
ところで、ITコーディネータ京都で、農業とITについて、セミナーを開催したのはいつだったかと振り返ると、2011年7月のことでした。今回は、この農業とITについてがテーマです。
■2011年7月セミナー
今から7年前の当時、IT技術者兼農業者、コンサルタント、学術研究者というメンバーが、それぞれの課題や問題意識を持ち寄りながら、農業とIT研究会として活動しました。その時点での農業とITの関わりの実際と、将来への展望について、他府県の視察をはじめとする調査研究を試みました。セミナーは、その発表のための場でした。
ITコーディネータ京都2011年7月セミナー
農業分野におけるIT活用の現状と課題
~食の産業化に向けたITの役割~
農業生産分野のIT活用
農産物流通とIT活用
農商工連携/6次産業化・地域とIT活用
2011年ですので、その年は、東日本大震災の年としての記憶が残っているかと思います。それは、日本の農業にとっても重い経験となるできごとなのですが、ここでは、少し、その頃のIT、情報通信関連分野の状況を思い出してみましょう。
Twitterが注目をあびるようになったのが、2009年。クラウドという言葉がよく聞かれるようになったのもその頃から。iPadの登場が2010年。2011年にはFacebookが脚光を浴びるようになっていました。2015年頃を目途に全ての世帯におけるブロードバンド利用の実現を目標とするという「光の道」構想。その実現に向けた工程表が示されたりしたのもこの頃でした。2000年頃から急速に進んだデジタル情報通信のインフラの高度化と、そのうえで開するアプリケーションが次々と登場した時期です。
セミナーの各講は、上述の通り基本的な課題をとりあげたもので、今もなお有効な視点が盛り込まれています。
農業でのITの利活用も、他の業種と同じく、情報系や勘定系・基幹系といった各領域に渡ります。そして、生産オペレーションの分野では、計測記録技術、制御技術、解析計画技術といった技術が、ITを利活用する際の、生産側の基盤技術です。
上述のセミナーを開いた当時も、これらの技術は、理論やソフトウエアの面では。農業生産にとっての有効性を備えていました。実際の適用・運用も各地の例が報告されていました。ただし、広く普及するためには足りないと感じられるものがありました。それは、適切な入出力のデバイスが整っていないことでした。
例えば、空気や水、土壌といった環境の状態を入力する機器はありました。しかし、装置の仕様・コストにおいて費用対効果を出すために必要と考えられる運用規模は、少なくとも京都に多い小規模な農業者では、なかなか届かない規模でした。
今、その状況が、変わりはじめていることを、ここに来て強く感じています。
■適切なデバイスの登場
例えば、近距離無線技術のBluetoothのデバイスでの使われかた。細かく言うと2009年に定義された省電力・省コストのBLE(Bluetooth Low Energy)。昨年、これを使ったセンサー端末を、大手企業をスピンアウトして開発している経営者のかたに、話をお聞きする機会がありました。ご自身がケミカルセンサーの利用者でもある技術者で、BLEを搭載することで、低コストで、実に使い勝手の良いワイヤーレスのセンサーを開発されています。ちなみに、このセンサーは、独自の解析プログラムを実行するためのデバイスになることで、さらに、威力を発揮するという製品です。
こうした例に見られるように、デバイスが低コストになり、かつ適切な機能を備えるようになって来たことに接すると、このことが、農業とIT、こと生産分野での、大きなブレイクスルーをもたらし得ると、感じさせられます。
■ベンダーについて
この、適切なデバイスの登場で、農業へのIT利用が広がる可能性を、積極的な経営を行っていらっしゃる農業法人の経営者に投げかけてもみました。そのときお聞きしたことも、大切なことでした。
それは、農業が重要な産業であることは、重々に了解したうえで、なおかつ、国内では、文字通りの戦略的な成長産業にはならないということを踏まえること。そのうえで、その国内の農業分野を戦略的な対象市場として本格的な投資をするベンダーは、少なくとも大手のなかには、無いのでは、という視点を持って臨むことが、農業者には必要との考えでした。
これは、農業分野でのITの利活用が進まないという思いでは、もちろんありません。ただ、本来、他の分野で培われた技術、製品の応用展開であることを理解のうえ、提供されるシステムや製品を、農業の実態に応じて見立て直すことが欠かせないという考えかたです。
■コーディネーション
デバイスが進化して来たことで、農業の分野でITの利活用が進むことが、想定されます。ただし、ベンダーが考えるシステムをそのままに導入するだけで、効果的なIT活用が実現するとは、考えられません。他の産業と同じく、そこには、現場の運用管理をふくめた農業経営の分野とITとを橋渡しをする役割を担う人が必須です。ITコーディネータの役割が、まさに期待されるときです。
農業経営体、農業法人の多くは小規模で、ITコーディネータを社員のなかに持つことは難しいとも思われます。提供するベンダーの側や、あるいは公的な支援機関に所属するITコーディネータ、またはITコーディネータと同じように経営とITの橋渡しの役割を担える人材。農業分野でのそうしたかたがたの活躍に、あらためて期待させていただきます。
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■執筆者プロフィール
松井 宏次(まつい ひろつぐ)
ITコーディネータ 中小企業診断士 1級カラーコーディネーター
焚き火倶楽部京都 ファウンダー
e-mail:hmatsui@iplow.jp mobile:090-6908-4368
tel/fax:075-201-1990
ソフトプラウ 調査・事業設計 プランニング支援
Lab:616-8151 京都市右京区太秦帷子ケ辻26-3 HERSE D'OR 313
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