USJのハロウィーンにおける顧客価値について考える / 中川 普巳重

  突然ですが、小6の息子と私はUSJが好きで9年ほど年に数日レベルで通っている。いろんなイベントテーマがあるがハロウィーンが一番のお気に入り。ということで、今日はUSJにおける顧客価値、特にハロウィーンについて考えてみる。

 ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)は大阪市此花区に2001年3月に開業したテーマパークである。HP掲載のビジョンは「私たちは、ゲストの期待を常に上回る「ワールドクラスの体験」を提供し、 世界のエンターテイメント・リーディングカンパニーを目指します。」である。開業当時の対象顧客は映画ファンであったが、いまでは老若男女問わず国内外の人々を対象としている。2019年の今年は開業18年目、経営危機を乗り越えマーケティングに注力しV字回復した企業としても有名である(と思う)。

 2019年のハロウィーンは、「ユニバーサルサプライズハロウィーン」と題して「絶叫ハロウィーン(ホラー・ナイト)」、「大人ハロウィーン」、「こわかわハロウィーン」の3つのジャンルとなっている。

 

1) 絶叫ハロウィーン:

 18時になるとセーフティエリア以外はパーク全体がホラーエリアとなり、USJならではの特殊メイク技術とエンターテイメント力を駆使して、9つのエリアにサーカス、アイドル、海賊、囚人などのテーマ性を持った多数のストリート・ゾンビが徘徊し、集まった顧客へホラー体験を提供するコミュニケーションを展開していく。ホラー・ナイト運営時間中には数回のダンスパフォーマンスがあり、徘徊していたゾンビたちがキレのあるダンスパフォーマンスを披露する。今年は特にパフォーマンスの最後に顧客も一緒に踊るという仕掛けがあり盛り上がっていた。アトラクションとしては、ホラー・メイズやホラー・シアター、ライド、レストランやラウンジもある。それぞれの対象顧客が安全にかつ存分に楽しめるようにそれぞれに年齢制限が設けられている。絶叫ハロウィーンの最大の価値は、非日常であろう。ゾンビが脅かしてくれることで思う存分に叫ぶことができる。絶叫マシーンに乗って叫ぶのとはまた違った自分の開放、素の自分をさらけ出し日頃のストレスを発散できるのだろう。顧客も思い思いの仮装で日頃の自分とは違う自分を演出し楽しむことができる。顧客は女子が多く目についた。数人のグループでおそろいのテーマの仮装をして叫びながら逃げてみたり、パーク内の気に入った背景で自分たちの写真を撮りあったり、徘徊するゾンビを一眼レフカメラで追う姿も見られた。今年は、ゾンビとの握手会や徘徊するゾンビが顧客と一緒に写真に納まる姿もあり、SNS投稿を加速させるコミュニケーションなのだろうと感じた。カップルも男子グループも、職場の同僚らしきグループも、年齢も性別も国籍も多様な世界であった。

 

2) 大人ハロウィーン:

 ゾンビに追いかけられて叫ぶのはちょっと…という大人女子向けのエリアでは、プロのカメラマンによる撮影とカクテルがセットになった有料サービスもあり非日常のドレス姿でホラー・ナイトを楽しめる。顧客が物語の登場人物の一員になる体験型アトラクションやホラーレストランもある。

 

3) こわかわハロウィーン:

 小学生以下の子供たちを対象にファミリーで1日中楽しめるメニューがある。日中に行われるフェスタ・デ・パレードはもちろん、エンターティナーたちとイタズラにチャレンジしたり、大量なお菓子をキャッチしたり、トリック・オア・トリートと声をかけてキャンディーをもらったり、ハロウィーン衣装のエリアキャラクターショーなどがある。

 

 マーケティングの視点として大切なことは、価値は顧客が決めるということである。顧客が抱えている課題が何かを顕在と潜在の両面で考え、課題を解決できるような商品・サービスを考え、顧客が消費しやすい形で提供することが大事である。提供側が良いと思うものが売れるわけではなく、いまなぜこの商品やサービスを利用しなければならないのか?を顧客に分かりやすく伝え、顧客にとっての利用する理由を明確に用意する必要がある。USJのハロウィーンにおける非日常の体験は全顧客層共通の価値だろう。(1) 絶叫:非日常体験を通じて自分を開放できる、仮装した自分をアピールできる、親しい人と共通の体験ができる、ゾンビ等の中からお気に入りの人を見出しファンになる、思い思いの写真を撮る、SNSに投稿する。(2) 大人:仮装をした人物になりきり、写真撮影や食事を優雅に楽しむ。没入型アトラクションでより深い非日常体験をする。(3) こわかわ:子供の笑顔を写真に残す、子どもの仮装を通じて非日常を楽しむ、お菓子やキャンディーを集める、等。USJのハロウィーンに行くことで、日常から大きくかけ離れた非日常を手軽に体験できるのである。様々なメディアと共に暮らす顧客はちょっとした非日常体験では満足できなくなっている。もっと何か面白いことは無いだろうかと常に何かを探している、満たされていない状態の顧客にとって、ハロウィーンという世界観、ホラーという世界観、自分の好みにあった世界観を見出し、思い思いに楽しめるという価値は大きい。ハロウィーンという非日常を盛り上げるためのテーマに応じた仮装グッズやメイク、フードメニューやお土産品までハロウィーンを楽しむための商品・サービスも充実しており、顧客の購買意欲も刺激している。

 

 もう一つ大切な視点は顧客満足であり、顧客に満足という成功体験を持ち帰ってもらうことが重要である。そのためには、提供するサービスや商品の品質をある一定レベル以上に保つ必要がある。特殊メイクや衣装、エンターティナーの動き、BGM、照明、小道具などの演出すべてが本物であり、本気度が顧客に伝わらなくてはならない。また、ホラー・ナイト運営においては安全性への配慮がよりいっそう求められ、徘徊するゾンビのそばには必ずイヤホンマイクを装着したスタッフがついて顧客とのコミュニケーションを見守っている。ダンスタイムやエリアの混雑状況等様々な情報を共有しているのだろう。

 ここ数年の筆者自身の体験からも、提供される商品やサービスの内容は確実に進化している。チケットの種類(エクスプレスパスなど)、アトラクションの利用方法(予約制など)、キャラクターとの体験(グリーティング、ショーなどの形式)、様々なシーンでの顧客コミュニケーション、パーク内の撮影スポット、もちろんフードやグッズの内容もだ。常に顧客視点に立って顧客から見た価値を考え、提供品質にこだわり、安全管理に注力し続けることが、顧客満足につながり、現在のUSJブランドを創っているのだろう。顧客と共感し、顧客が感じる価値を分析し、顧客が満足する商品・サービスを生み出し、かつ儲け続けることは難しい。時流に乗り続けるためにも、現場を把握することは大事であり、答えは現場にあると思っている。体験している顧客を観察し理解することで、次の商品・サービスアイデアは見つかるのだろう。顧客の体験が、顧客自身も認識していないであろう次の新たな価値を生み出していくのだろう。そして、顧客理解から考え出された商品・サービスを実際に展開するには、主観ではなく客観的に現状を確認するためのデータ収集・分析の技術力と、アイデアをスピード感を持って実行できる組織体制があってのことだと思う。

 ちなみに今年のハロウィーンは11月4日まで。興味が湧いた方は是非マーケティング視点を持って体験してみてください。

 

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■執筆者プロフィール

 

中川 普巳重(なかがわ ふみえ)

福岡大学 産学官連携センター 産学官連携コーディネーター 客員教授,地域連携センター コーディネーター,中小企業診断士,ITコーディネータ,(財)生涯学習開発団体認定コーチ

e-mail:fumie-na@k4.dion.ne.jp