【コラム】移動年計という、経営の羅針盤

肌感覚を、数字に翻訳する

先日、自社の半期の報告会がありました。前期の決算が、思うような結果ではなかったのです。

 

正直に言うと、決算書が届いたのは、期末から2ヶ月が過ぎたころ。その数字を受け取ったとき、私はうまく飲み込めませんでした。目の前の現場は活気に溢れ、社員はいきいきと動いている。事業は、どう見ても好調。それなのに、なぜ数字だけが、こんなに寂しい結果なのだろう。

 

税理士さんに、思わず尋ねました。「この数字、違う気がします」。彼は落ち着いて、丁寧に説明してくれました。話は、すべて正しい。正しいのに、私の本心はまだ納得していない。その夜は、なかなか寝つけませんでした。

 

肌で感じている手ごたえと、決算書に書かれた結論。どちらも嘘をついていないはずなのに、両者が重ならない。どこかに、両者をつなぐ方法があるはずだと、もやもやしていました。

 

明け方、ふと師の言葉がよみがえりました。「日次決算」。毎日、過去365日分を締め直すという発想です。さすがに小さな会社で毎日決算は難しい。けれど、月に1度ならできる。毎月末に、過去12ヶ月分をまとめて締めてみる。いわゆる移動年計です。

 

そしてもうひとつ、大事なことに気づきました。私が見つめるべきは、売上ではなくMQ(粗利の総額)の、移動年計でした。

 

翌朝、さっそくShinMT(データベースソフト)で見てみます。直近12ヶ月分のMQを、移動年計としてグラフ化します。次に、過去24ヶ月を2で割った1年ぶんの平均を、長い時間軸の線として。単位を1年分に揃えて、同じグラフに重ねます。

 

すると、移動年計と24ヶ月分の長い時間軸の2本の線が、交わっていました。移動年計が、24ヶ月の線を下から上へ、上回っていました。株の世界でいう、ゴールデンクロス。私の会社は、ちゃんと上を向いていたのです。

 

決算が沈んだのは、事実でした。けれど、MQ(粗利の総額)という稼ぐ力そのものは、着実に伸びていました。前期の数字が沈んだのは、固定費が一時的に膨らみ、その月の稼ぎを上回った時期が長かっただけ。移動年計は、そのことを、慌てずにすむ「流れ」として見せてくれました。私の肌感覚がそのまま可視化されて鳥肌が立ちました。

 

税理士さんが、間違っていたわけではありません。決算書は、過去を丁寧に記録する、いわば学校の通信簿(財務会計)。一方、経営では、今日の一手が未来を変える(未来会計)。両者の役割がちがうだけです。また決算書は年に一度きりの手がかりになり、移動年計では、それが毎月になるため年に12回分(12ヶ月分)の手がかりに変わる。2ヶ月遅れの知らせが、毎月末の羅針盤に変わりました。

 

あらためて思います。現場のいきいきとした空気という「暗黙知」を、1つの移動年計グラフという「形式知」へ翻訳する。これは、ITCケース研修で教わったITコーディネータの役割そのものでした。教わったはずの言葉が、自分の会社の小さな違和感を通じて、ようやく腹に落ちたのです。

 

私たちITコーディネータの仕事は、クライアントにとってベストなIT環境を整備することのみならず、経営者が肌で感じている手ごたえや不安に、そっと数字の言葉を添えて、次の一手を選択できるように寄り添うこと。その道具のひとつが、このMQの移動年計でした。

 

そして今、私はこのグラフを、顧問先の経営者にも手渡しています。自分の会社で試して、効いたものだけを渡していきたい。それが、私なりの三方良しだと考えています。

 

数字は、経営者の心の一部を映す鏡なのかもしれません。

 

 

 

執筆者プロフィール


柴田 誠一(シバタ セイイチ)


株式会社プリムスクリエイティブ 代表取締役 ITコーディネータ 1982 年、滋賀県長浜市生まれ。広告代理店を経て、2011 年に株式会社プリムスクリエイティブを創業。東京から地元へ U ターンし、倒産危機も乗り越えながら「IT を使って三方良しの良い循環」を理念に事業展開。 得意分野は、 現場の『利益に効く』 DXの伴走支援。会計と販売データの分析とグラフ化、IT導入補助金、DX認定の実務支援。MG(マネジメントゲーム)や TOC(制約理論)研修のインストラクターとして、人づくりにも力を入れる。