【コラム】中小企業が目指す経理業務を中心としたバックオフィスのDX– デジタル化によるバックオフィスの変革 –

はじめに

経理業務は企業の日常的な運営に不可欠な存在であり、企業の財務健全性や管理体制の要を担っています。しかし、多くの中小企業では経理業務が属人的に運用され、紙を使った手作業や古いシステムへの依存が問題となっています。さらに、インボイス制度の導入や電子帳簿保存法の改正など、外部環境の変化に適応することも企業の大きな負担となっています。本コラムでは、中小企業がどのように経理業務のデジタル化を進め、バックオフィスの変革を達成できるかについて、具体的なステップと事例を交えて解説します。

経理業務の現状とデジタル化の必要性

経理業務の多くは日常の事務作業や紙ベースの処理に時間を割かれています。例えば、伝票の起票、請求書の発行と確認、経費精算といったプロセスでは、手作業によるミスや非効率が目立ちます。経済産業省の調査によると、中小企業の多くがこのような非効率な業務の見直しを進めることで、年間数百時間の業務時間を削減できる可能性があるとされています。

特に、クラウド会計システムやAI-OCR(光学文字認識)技術の進展により、これまで紙に依存していた業務をデジタル化し、情報をリアルタイムで活用することが可能になりました。これにより、経理業務は単なる「作業」から「戦略的な経営支援機能」へとシフトすることが期待されています。

 

経理業務の課題:現状と背景

○多くの中小企業が抱える経理業務の主な課題として、以下が挙げられます。

 

 

これらの課題を放置すると、業務効率の低下やミスの発生、さらには企業全体の成長を妨げる要因になり得ます。

○もう一点企業の経理部門の改善が進まない理由として、現場担当者などが積極的になれない以下のような要因(現場の感情)が考えられます。

 
 

○現状の課題を踏まえ、理想として目指したい経理部門の役割、求められる機能についても考えてみます。

 

経理DXの進め方

経理業務のデジタル化、すなわち「経理DX」を進める際には、以下のステップが重要です。

 

1. 業務の棚卸しと現状分析

まず、経理業務全体を棚卸しし、どの業務がデジタル化の対象となるかを明確にします。紙を使っている部分、手作業が多い部分、属人化している業務などをリストアップし、どこに最も時間とリソースが取られているかを可視化することが第一歩です。

2. 段階的なデジタル化の導入

経理DXを進める際には、全てを一度にデジタル化しようとするのではなく、段階的に進めることが重要です。例えば、最初は経費精算システムをクラウドベースのツールに切り替え、手作業での精算業務を減らすことから始めます。次に、クラウド会計システムを導入することで、会計データのリアルタイム共有や遠隔地からのアクセスが可能になります。

3. 全社的な業務連携とデータ活用

デジタル化の進展により、経理部門だけでなく他の部門とのデータ連携が容易になります。これにより、販売管理や顧客管理とのデータ統合が可能となり、より正確な経営判断をサポートできる環境が整います。また、AIを活用して過去のデータから将来のトレンドを予測し、戦略的な経営支援を行うことも視野に入れられます。

 

実践事例 – 経理DXの成功体験

経理DXを推進する際に重要なのは、実際に効果を実感し、成功体験を積み重ねることです。以下に具体的な事例をいくつか紹介します。

  • クラウド会計システムの導入
    A社では、クラウド会計システムを導入することで、これまでオフィス内の特定のパソコンでしか行えなかった会計処理が、リモートワーク環境でも可能になりました。これにより、業務の柔軟性が向上し、特に経理担当者の作業負担が大幅に軽減しました。さらに、取引先とのデータ連携がスムーズになり、ミスの削減にもつながっています。
  • 経費精算の自動化
    B社では、経費精算をクラウドシステムに移行し、社員がスマートフォンで領収書を撮影して経費を申請できるようにしました。これにより、経理部門が毎月行っていた紙の伝票チェック作業が大幅に減り、精算業務にかかる時間を50%以上削減することができました。

経営者の役割とリーダーシップの重要性

経理DXを成功させるためには、経営者の積極的な関与とリーダーシップが不可欠です。単にシステムを導入するだけではなく、経営者がデジタル化の目的を明確にし、そのビジョンを社員に伝えることで、全社的な意識改革を促進します。また、経営者が自らデジタルツールを使いこなし、その利便性を実感することが、組織全体のデジタルシフトを加速させます。

経理DXを進める際の注意点

経理DXを進める際にはいくつかの注意点もあります。まず、IT導入自体が目的化しないようにすることが大切です。経理DXはあくまでも業務効率化や経営支援機能の強化の手段であり、デジタル化そのものが目的ではありません。次に、デジタルツールを導入する際には、社員への教育や運用サポートを同時に行い、ツールが現場に定着するよう工夫が必要です。

おわりに

経理業務のデジタル化は中小企業にとって大きな挑戦ですが、同時に大きな機会でもあります。経理部門がデジタルツールを活用して効率化を図ることで、企業全体の競争力向上につながります。本コラムで紹介したステップや事例を参考に、自社の経理業務を見直し、少しずつでもデジタル化に取り組むことをお勧めします。将来的には、経理部門が戦略的な経営パートナーとして、企業の成長を支える役割を果たすことが期待されます。

◆執筆者プロフィール

小泉 智之

 

ITコーディネータ京都理事

中小企業診断士、ITコーディネータ、ITストラテジスト、プロジェクトマネージャ

 

(書籍) 

児玉尚彦、上野一也(2022) 、『経理DXのトリセツ』、日本能率協会マネジメントセンター