
最近、ニュースで千葉県印西市のデータセンター(以下、DC)の建設が急速に進み、電力供給のひっ迫や排熱処理、冷却時の騒音対策の懸念そして駅前の商業地へのDCの建設への住民の反発も強まっているようです。DC自体がどのような施設なのか理解が進まず、住民が「得体の知れないもの」と感じることが反発の原因にもなっています。過日、けいはんな丘陵(関西学術研究都市)を訪れた時に巨大な壁のような大きなDCを目の当たりにして、人の出入りの少ない何か「得体の知れないもの」という言葉がぴったりの様な感覚を覚えました。そこで、DCの登場から現在に至る光と影について少し考えてみたいと思います。
■DC急拡大のカギは「クラウド」と「AI」
DCという言葉は1990年代から登場し、自社のサーバーをDC事業者の提供するスペースを借りて運用するハウジングや、サーバーを借りて運用するホスティングなどの形態が生まれます。インターネットの普及とともにサーバーを仮想化技術で分割して共同利用するようになり、2000年代にDCの利用が急増しました。その要因の一つが2000年代後半の「クラウド」の普及で自社コンピューターを保有して運用することから、コンピューターリソースやアプリケーションサービスを使用量に応じて課金するサービスの利用でした。クラウドを構成するのは大量のサーバーであり、それらを設置しているのがDCとなります。もう一つの要因が近年の「生成AI」の普及です。調査会社のガートナーの調査では、ICT機器などのIT支出に関する「DCシステム」の世界市場規模は2025年に、23年比1.7倍の60兆円規模に達する見込みです。AIの開発競争が激しい米国のAmazon、Microsoft、Google、Metaなどが巨額の投資があります。
クラウドサービスの加速化により、中小企業にとっても初期投資を抑えた安価なサブスク料金でのアプリケーションサービスが利用可能となり、運用やデータ保全からも解放されてデジタル化への一歩が踏み出しやすくなりました。
一方で、個人がスマホを利用しているのも、無意識にDCと通信することで各アプリケーションを利用しているのが日常になっています。
■DCの四大要素と立地条件
私は20年前に米国ミネソタ州にあるITサービスとソリューションを提供するユニシス(Unisys Corporation)のDCを訪れたことがあります。広大な施設でしたが、このミネソタ州は寒冷気候による冷却コスト削減や豊富な水力・風力発電資源で電力料金が安く、DCの立地条件として恵まれていることを聞きました。AI需要の急激な増加により米国でも電力料金が値上がっているものの、日本の産業用電力料金は米国の約2倍となっており、DC運営において重要な競争劣勢要因となっています。
DCのインフラとして次の4つの要素があります。
1)建物:床や天井、消火設備、耐震構造、物理セキュリティなど
2)電気設備:電力供給方式、非常用発電機、UPS(無停電電源装置)など
3)空調設備:冷却装置、アイルコンテイメント(排気熱の最適化)など
4)ICT設備:通信機器、ケーブル、サーバー、ストレージなど
一方、日本の代表的なDC集積地の立地条件を調べると、
・けいはんな丘陵や箕面市(彩都西地区)と千葉県印西市は、それぞれ西日本と東日本における大規模な「サーバー倉庫」の役割を担っています。広大な土地と安定したインフラを活かし、クラウドやAIのような膨大な処理が必要なサービスを支えています。
・北海道石狩市は、その冷涼な気候という独特の強みを活かし、環境性能とコスト効率を最重要視する企業にとって、非常に魅力的な選択肢となっています。省エネ性能の高さは、DCの運営コストを大きく左右するため、今後のDC戦略においてますます重要になることでしょう。
■DCの急速な普及による現代社会の「光」と「影」
「光」(ポジティブ)な側面では、DCの普及は、デジタル経済の成長を支え、多岐にわたる産業に好影響を与えています。
1)生成AIの普及とイノベーションの加速 :
大量のデータを処理・学習するDCは、生成AIの進化に不可欠で、新薬開発、自動運転ほかイノベーションが加速します。
2)巨大ビジネスの創出と経済効果 :
・建設/不動産業界は大規模なDCの建設ラッシュで事業拡大している。
・電力/インフラ業界では大量の電力消費への送電網強化や再生可能エネルギー事業そして省エネ対策に投資が拡大している。
・電子部品/素材業界ではサーバー、冷却装置、通信機器などに使われる半導体、電子部品、特殊な素材(冷却液など)の需要が急増している。
・通信/コンピューター業界では高速かつ大容量の通信ネットワークや、高性能なサーバー、ストレージの需要が拡大している。
3)雇用の創出:
DCの建設、運用、保守、セキュリティ管理など、多岐にわたる分野で新たな雇用が生まれます。
「影」(ネガティブ)な側面では、DCの普及は、環境や社会に深刻な課題も突きつけています。
1)環境問題:
莫大な電力消費: 莫大な電力の消費で温室効果ガスの排出増に直結し、気候変動を加速させる一因となります。
水資源の消費: サーバーの冷却には大量の水が使われることがあり、水不足の地域では深刻な問題となります。
2)電力料金の値上がりと電力供給の不安定化:
DCの需要増は、一般家庭や企業の電力料金の値上がりの可能性やDCの稼働による電力網への負荷で停電リスクを高める懸念があります。
3)土地の高騰と地域社会への影響:
DCに適した土地は限られているため、土地価格の高騰や建設時の騒音や振動、稼働後の景観の変化など、地域住民の生活環境に影響を与えることも考えられます。
4)電子機器廃棄物(E-waste)問題:
短期間で更新されるサーバーや機器は、大量の電子機器廃棄物となります。リサイクルが困難な部品も多く、環境汚染の可能性があります。
最後にDCは、デジタル社会を支える最も重要なインフラの一つです。その普及は多くの産業に恩恵をもたらします。しかし、その成長を持続可能なものにするためには上記の様な課題克服と地域社会との協調で、土地利用の最適化、環境への配慮といった「影」の部分にどう向き合って解決していくかが、今後ますます重要になると思われます。中小企業にとってもそのような背景を理解しつつ、DCやクラウドシステムそしてAIをうまく活用してデジタル化やDX推進に挑戦してほしいと思います。
(参考文献)
・AI時代のビジネスを支える「データセンター」読本 杉浦 日出夫 著
・週刊東洋経済2025/2/15号~データセンター急拡大!~
◆ 執筆者プロフィール
特定⾮営利活動法⼈ ITコーディネータ京都 監事
ヒーリング テクノロジー ラボ 代表 下村 敏和
ITコーディネータ&インストラクター
E-mail:shimomura_toshikazu@itc-kyoto.jp