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【コラム】ビジネスプロセス再考 ~生成AIは組織の生産性向上に寄与しているか?!~

 生成AIは組織の生産性向上に寄与しているか?!

 

 今回はこのテーマについて書きます。

近年、企業におけるAI活用は急速に進展しています。特に生成AIの登場は業務の効率化を進め、マーケティング資料や契約書のドラフト、技術ドキュメントの作成など、知識労働の領域で目に見える効果を生み出しています。従来であれば数時間から数日を要した作業が、生成AIにより短時間で完成するようになり、リードタイム短縮の成果が多く報告されています。

 

 しかしこれは、ビジネスプロセスという視点で見れば、一機能の効率化にすぎません。「顧客に価値を届ける一連の活動」としてのビジネスプロセスの視点から見ると、それを構成する一機能が効率化したに過ぎないのです。 ビジネスプロセス全体が効率化されているのか、あるいは新たな顧客価値を生み出しているのか、が疑問になりました。

 

 と、このような疑問を生成AIに投げてみたところ、ChatGPTが「あなたの問題意識に近い報告書がある」と紹介してくれました。

 

The state of AI in 2025: Agents, innovation, and transformation”, By Makinsey & Company, November 2025. 訳「2025AIの現状:エージェントと変革への道筋」マッキンゼー&カンパニー

 

 今回はこの報告書の解説を軸に、表題のテーマを考えていきたいと思います。

 

部分的な効率化にとどまっている企業が多数である

このマッキンゼーのレポート「The State of AI in 2025」は示唆に富む分析を提供しています。同レポートによれば、世界の企業の約88%は何らかの形でAIを活用している。しかしながら、AIが企業全体の生産性向上に結びついているかという問いには、単純に「はい」と答えられない現状がある。報告書では、多くの企業がAIを導入しながらも、実際に業績へ顕著なインパクトを与えている企業は限定的であり、むしろ「部分的な効率化」に留まっている企業が多数派であると示されています。

 

図 過去1年間におけるAI活用が組織的指標に与えた影響の程度

(出典:2025AIの現状 マッキンゼー&カンパニー)

 

本コラムのテーマである「生成AIは組織の生産性向上に寄与しているか」という問いに対して、マッキンゼーの調査結果は、「個別のコスト削減やイノベーションの促進という点で貢献の兆候は見られるが、全社的な財務的インパクトを生み出すためには、導入の深度とビジネスプロセスの根本的な再考が不可欠である」という現状を示しています。

 

高業績組織=AIハイパフォーマー企業に注目

 この報告書が注目しているのが、AIハイパフォーマー=高業績組織と呼ぶ企業群です。

AIハイパフォーマーとは、

1. AI利用によるEBIT(営業利益)への貢献度が5%以上である

2. AI利用の結果、「Significant value(著しい価値)」を得た

と回答している企業群で、回答企業全体の約6とのことです。

 AIの活用によって、新たな価値を創造し高収益を実現している企業群を“AIハイパフォーマー”と位置づけるが、それはごく一部の企業にとどまっているとの報告です。

 

それでは、AIハイパフォーマー企業とその他のAI活用企業との違いはどこにあるのでしょうか?

報告書によれば、以下の3項目に大きな違いがあるとしています。

 

(1) 成長とイノベーションの追求

効率性向上をAI導入の目標に設定している組織が大多数であるのに対し、ハイパフォーマーはそれに加えて、成長やイノベーションを目標として設定している。AIを変革の触媒として捉え、ビジネスの根本的な変革をめざしている。

(2) ビジネスプロセスの根本的再設計の実行

単にAIツールを導入するだけでなく、既存のビジネスプロセスをAIとエージェントの機能に合わせて再設計することが重要な成功要因としている。従業員の専門知識とAIソリューションが相互作用するときに真の価値が生まれる。

(3) リーダーシップのコミットメントと投資

 ハイパフォーマー企業は、経営層の強力なリーダーシップのもとで推進している。投資額も大きい。

 

部分最適から全体最適へ

 私がこのコラムで主張したいのが、この見出しの通り「部分最適から全体最適へ」です。

 

この報告書によれば、「AIの導入で企業は多くの効率化やコスト削減を実現している。しかしその成果は限定的である。『著しい価値』を実現するためには、AIを漸進的な効率向上ではなく、ビジネスプロセスの根本的再設計など組織の変革が必要である」との結論です。

 

 これを別の表現で説明すると、「AIを個別業務の効率化など“部分最適”で導入している企業の成果は限定的であるが、“全体最適”をめざして取り組んでいる企業は大きな経営上の成果を得ている」となります。

 

このように書いていると、「それならAIエージェントが解決してくれるのでは」とのツッコミがありそうです。その発想は理解できますが、答えはNOです。

新しいビジネスプロセスの実行にAIエージェントはとても有用だと思いますが、それをどのように使うかを決めるのは組織の仕事です。

AIエージェントはビジネス変革の強力な推進力になると思いますが、“ツールを導入するだけ”ではAIハイパフォーマー企業には絶対になれません。AIエージェント導入は、「目的」ではなく「手段」に過ぎません。組織の側の準備が不可欠です。

 

AIハイパフォーマー企業は、AI導入を部分最適で終わらせず、組織全体の最適化(全体最適)へと進化させている企業群といえます。

 AI活用で組織が大きな生産性向上を実現するためには、ビジネスプロセスをAI前提に業務改革として実行すること、組織全体が同じ方向を向きビジネスの変革をめざしていることなどが必要になります。

これはまさにDX(Digital Transformation)の推進と同じ方向だと言えます。生成AIの登場で、DXが新たなステップに入ろうとしています。

 

 

    参考URL

The state of AI in 2025: Agents, innovation, and transformation”, By Makinsey & Company, November 2025.

 

https://www.mckinsey.com/capabilities/quantumblack/our-insights/the-state-of-ai

 

    執筆者プロフィール

藤原正樹(フジワラ マサキ)

ITコーディネータ京都 副理事長

京都情報大学院大学 教授

宮城大学 客員教授

博士(経営情報学) 中小企業診断士 ITコーディネータ

e-mailm_fujiwara@kcg.ac.jp

Web: https://www.fujiwaralab.jp/