
中小企業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進は、日本経済の競争力を高める上で重要な課題です。しかし、多くの中小企業は、デジタル化の進展が遅れがちです。そんな状況において昨今、中小企業のデジタル化支援で存在感を高めつつある金融機関と伴走するデジタル化/DXの意義について考えたいと思います。
中小企業におけるデジタル化の現状と課題
中小企業のデジタル化が進まない背景には、業務の属人化やアナログな業務プロセスの定着、さらにはそもそも情報システム部門が存在しないことや経営層のITリテラシーの不足といった要因が絡み合っています。従業員数が限られる中小企業では、日々の業務に追われ、デジタル化に割けるリソースが不足しがちです。加えて、IT投資に対する慎重な姿勢や、過去の失敗経験から導入に二の足を踏むケースも見られます。また、IT投資の効果が見えにくいという声も少なくありません。
一方で、デジタル化の波は不可逆的に進んでおり、顧客の購買行動や市場環境も急速に変化しています。この変化に適応できない企業は、競争力を失いかねません。したがって、中小企業にとってデジタル化は、単なる業務効率化の手段ではなく、生き残りをかけた経営戦略の一環として捉えるべきでしょう。
金融機関が果たす役割
こうした課題に対して金融機関は地域の取引先企業に対してデジタル化・DX支援の各種コンサルティングの動きを強めています。
具体的には専門部署の設置や関連する補助金の申請支援、認定取得支援、外部パートナーとの連携・協働、デジタル人材の育成等を通じて中小企業のデジタル化、DXを後押しする取り組みをしています。金融機関の従来の強みである事業経営や財務を軸にしたアプローチとデジタルの掛け合わせによる支援を通じて次のようなことが期待されます。
金融機関が果たす役割
1. 事業計画×IT戦略の構築支援によるIT投資のリスク軽減
デジタル化には初期投資が必要ですが、適切な戦略やそれに基づく導入計画、技術選定がなければ、投資が無駄になるリスクがあります。 IT導入を成功させるためには、単なるツールの導入ではなく、企業の経営目標に沿った事業計画やIT戦略の構築が不可欠です。金融機関は、企業の現状分析を行い、成長戦略とIT活用を結びつける支援が可能です。
2. 専門知識の提供
中小企業にはシステム部門が存在しないケースやITに詳しい人材が不足しているケースが多く見られます。金融機関は外部のIT専門家やツールを活用し、経営者に分かりやすく具体的な提案を行うことができます。これにより、企業の意思決定がスムーズに進みます。多くの金融機関はビジネスマッチングの枠組みを活用し、多様なIT事業者(中にはITコーディネータ)と連携しているため、中立的な立場から企業に最適な情報やソリューションを提供できます。中にはプロフェッショナル人材の仲介を行う金融機関もあり、社内のデジタル化を加速させる人材を直接雇用しプロジェクトを加速させるという選択肢もあります。
3. 業種に特化したアドバイス
金融機関は、日頃から多様な業種の企業と関係を築いており、それぞれの業種特有の経営課題や商習慣を熟知しています。この知見を活かして、業種ごとに適したIT活用の提案が可能です。例えば、小売業ではPOSシステムの導入やECサイト構築、製造業ではIoTや生産管理システムの活用が効果的なケースがあります。
4.IT導入に伴う資金支援
金融機関は、IT導入に必要な補助金の情報提供や活用のアドバイスを提供できます。特に、国や自治体のデジタル化/DX関連予算は増加傾向にあり、補助金制度を活用した提案は魅力でしょう。また、デジタル化投資により企業の持続可能性や収益性の改善が見込まれればその投資にかかる融資も期待することができます。
5. 導入後のサポート
ITは導入して終わりではなく、運用や改善が重要です。特に金融機関にとって取引先企業の成長は金融機関自身の収益にも大きく影響を与えるため、導入後の投資効果の検証やフォローアップは不可欠です。企業がITを最大限活用し、経営課題の解決に結びつけることができるよう、金融機関は必然的に継続的なサポートを実施するでしょう。
実際に中小企業におけるデジタル化推進の支援機関として金融機関を考えている事業者も多くいることが調査結果にも現れており、その期待は今後もますます高まることが予想されます。
さいごに
本稿では、金融機関が中小企業のデジデジタル化推進にどのように貢献できるかを述べましたが、必ずしも金融機関との伴走型支援が唯一の解決策ではありません。デジタル化を成功させるためには多様な支援機関やステークホルダーとの協働、そして何よりも経営者自身の意識改革と覚悟が不可欠です。これまでの事業の枠にとらわれず、時代の変化に適応しながら、会社を進化させていく覚悟が求められます。デジタル化は単なる業務効率化にとどまらず、事業モデルそのものを変革し、競争力を高める機会となります。金融機関の支援を活用しながらも、自社の将来を見据えた積極的な変革の姿勢を持つことが、真のDX成功の鍵となるでしょう。
◆執筆者プロフィール
氏 名:竹下 侑馬
所 属:特定非営利活動法人ITコーディネータ京都
株式会社滋賀銀行
資 格:ITコーディネータ/中小企業診断士/ウェブ解析士