このコラムにてちょうど1年程前に、山崎正敏氏がプロジェクトマネジメント知識体系、いわゆるPMBOK (Project Management Body of Knowledge)と呼ばれる知識体系の活用について、書かれていました。PMBOK には特有の考え方があり初見での理解は難しいこと、また、実務にそのまま丸ごと適用できるものではないので、おのおのの組織、目的に合うように必要な部分をカスタマイズして適用するべきであること、を述べられていました。
私は今まさに、PMBOK を咀嚼し、自社の組織にあうようカスタマイズをしたマネジメント・ガイドラインを作ろうとしているところです。ITを使った企業活動を行う上で、プロジェクト活動とそれを管理するガイドラインの重要性は高まっています。通常の企業活動はもちろんですが、IT経営を推進していく上で、プロジェクトマネジメントが、今まで以上に重要視されてくると考えたからです。ガイドライン作成の前段階としてPMBOK を理解する過程で、PMBOK という知識体系が、非常に面白くかつ為になると感じました。今回はそれをいくつか述べてみたいと思います。
PMBOK は、立ち上げ、計画、実行、監視コントロール、そして終結の5つのプロセス群から構成されており、PDCA (PLAN-DO-CHECK-ACTION) サイクルと比べて説明されます。PMBOK の特徴はPDCAのCHECK に当たる監視コントロールプロセスが、立ち上げ、計画、実行、そして終結のすべてのプロセスを監視の対象としていることです。私は特に、計画プロセスを監視する、という考え方が非常に新鮮で驚きました。先に山崎氏も述べられていましたが、PMBOK では計画プロセスを非常に重視しています。計画というプロセスは、最初にまとめて行うのではなくPMBOK の9つの知識エリア(統合、スコープ、タイム、コスト、品質、人的資源、コミュニケーション、リスク、調達のマネジメント)それぞれで遂行されます。
そして、計画プロセスの工程内において、前工程の成果物をインプットとしてブラッシュアップし、完成度の高い成果物=計画書をアウトプットしていきます。
全体を統合したプロジェクトマネジメント計画書は、単独ではなく他のすべての知識エリアの計画書を補助計画書として、はじめて成り立ちます。最初にたてた計画を100%と考えるのではなく、計画プロセスそのものを監視、コントロールして補助計画書というものを整備していく、という風に私は理解しています。
私が最もなるほど、と思ったことは、変更管理とスコープ定義についてです。
監視コントロールのプロセスでは、計画書同様に様々な要素成果物の更新版を出力し、その更新版を出力する際のインプットとしては「変更」があります。更新と変更という言葉を日本語ではよく似た意味合いでとらえられますが、PMBOK では、更新は要素成果物に対して行われ、変更は変更管理システム内にて、承認、または却下される管理対象と考えられます。プロジェクトの範囲内となるのは、承認された変更要求のみです。実際のプロジェクトを遂行していく中で、数多の変更が要求されてきます。プロジェクトの範囲=スコープとして、どの変更を承認し、どれを却下するのかを判断することが、最も大変、かつ大切なところだと考えます。
プロジェクトスコープについて、私たちが最も忘れがちなことは、スコープの境界を定義することです。実際のプロジェクトにおいて、何が含まれ何が含まれないのか、暗黙のうちに了解されていると思っていたことが、ステークホルダーと呼ばれるプロジェクトの利害関係者間では了解されていなかった、ということを何度も経験しました。プロジェクトの目標、要素成果物の明記はもちろん、それ以外のものはスコープとしないこともスコープ記述書の中で明記することで、そのような誤解を防ぐことが出来ます。
この他にも、人的資源マネジメントにおいて、新しいメンバーが追加になったプロジェクトは、たとえ既に安定したチームが形成されていたとしても、もう一度、成立期と呼ばれるチーム育成のふりだしまで戻ってしまう、ということは、安易にプロジェクトメンバーを追加することでスケジュールの遅れを取り戻そうとすることの危険性を認識させられました。
また、品質マネジメントにおいては「欠陥」とされる計画外の品質に対応するコストよりも、それを予防するコストの方がはるかに低く効率的である、ということなど、なるほどなぁ、と深くうなづくことが随所にありました。PMBOK を勉強することで、自分のプロジェクトマネジメントの方法に欠けていたものが見えてきたような気がします。日常の業務では身にしみて分かっていることばかりですが、体系立てて理論的に定義・理解することで、客観的、かつ所属する組織に適応可能な汎用的なガイドラインというものにまとめることが出来るのだと思います。
お客さまの要望に応じて、プロジェクトを立ち上げ、実行し、終結をする。企業活動をそのように定義した場合に、私たちがプロジェクトを成功という形で終結させる為に、プロジェクトマネジメントは行われます。確かにPMBOK は1つの知識体系であり、それだけでプロジェクトを成功に導くことができる、というものではありませんが、PMBOK の知識体系を理解することはプロジェクトマネージャ自身にとって有益なことだと思います。
<参考>
PMBOK ・・PMI(Project Management Institute)発行
■執筆者プロフィール
二上 百合子(ふたがみ ゆりこ) ITコーディネータ