アメリカ小売業最前線 ウォルマート VS Amazon / 杉村 麻記子

 昨年のblogで「アメリカ小売業最前線 ? ウォルマートを訪れて感じたこと」と題し、アメリカ旅行の際に訪問したウォルマートに関する記事を投稿した。

その中では、

 

「従来型の小売店舗は曲がり角に来ており、ウォルマートがその投資を集中しているEC市場が伸びていくことは確実である。アメリカのウォルマートでは、オンラインで購入した品物を地元の店でピックアップする方法での売り上げも増加しているようで、ここにあたらしい小売業の在り方がある。車社会でかつアメリカ国内に多数の店舗を持つウォルマートならではの戦略となりえる。実店舗に誘導できれば、そこではモチベーションの高い店員が対面で対応する事による顧客満足度の向上、クロスセルやアップセルによる売上アップや、周辺のショッピングモールやレストラン・映画館などの複合施設への誘導も期待できる。」

と述べ、ウォルマートがネットシフトの戦略をとり、今後業績を伸ばせるのではと期待していた。

 一方で、「日本では、ウォルマートのような巨大な小売業が存在しないことからも、当面はAmazonが躍進するのではないかと思う。EC市場の拡大については、主な消費層となるシルバー層を取り込むことが重要となる。そのためには複雑な操作なしでも注文ができる、GoogleアシスタントやAmazon Echoといったものが使いやすく

普及するか? 主戦場となる食品や日配品の取り扱いが増えるかどうかなど今後も市場の動向を注視していきたい。」と記述した。あれから10か月、アメリカ、日本の小売業界の動向はどうなっただろうか?

  

【ウォルマート VS Amazon FY17実績比較】

・ウォルマート

 2017年度 売上高 5000億ドル(対前年比3%増)

       純利益 98億ドル(対前年比22.7%減)

・Amazon

 2017年度 売上高 1778億ドル(対前年比30.8%増)

      純利益  30億ドル(対前年比27.9%増)

 

 ウォルマートは、5000億ドル<50兆円>を超える売上高で全米No.1をキープしたものの、ネットビジネスへの投資などが膨らみ、純利益は大幅減となった。

 一方のAmazonは、ECサイトの売上(直販)やマーケットプレイス(第三者販売サービス)の手数料などを着実に伸ばし大きく飛躍している。ちなみに、日本でもおなじみのAWSの売上比率は10%程度である。

 このようにウォルマートは、ネットへのシフトを展開したものの、Amazonの勢いを止めることができなかった。このAmazonの勢いはアメリカのみならず、世界中でその存在感を増している。

 

【日本の小売市場は? Amazon VS イオン】

 ・Amazon

 2017年度  日本事業の売上高 1.3兆円(対前年比 15%増加)

・イオン(GMSセグメント)

 2017年度  売上高 3兆円(対前年比 0.6%増加)

 営業利益 105億円

 

日本の小売業界においても、Amazonが躍進している。国内の小売業No.1、イオンのGMSセグメントは売上が伸びず、ほぼ利益が出ていない状況となっている。小売業界は非常に厳しい状況が続いている。なお、イオンの儲けの源泉は、銀行や不動産などの非流通業態で、利益の6割を占める。

 

 このように、2017年度は(も?)、日米ともAmazonが大躍進した結果となった。

 

 

【ウォルマートの今後の戦略について】

  さて、今後ウォルマートがAmazonへの対抗を強めるための戦略としては以下のようなものが考えられる。

  1. オムニチャネルへの対応

 2. 海外戦略の見直し 選択と集中

 3. デジタルトランスフォーメーション、働き方改革

  

<1. オムニチャネルへの対応 ~生鮮食品>

ウォルマートは全米に4700の店舗を有している。不採算店などの問題もあるが、アメリカ国民の9割を半径10マイル(約16キロメートル)圏でとらえているとのことだ。

 参考:http://president.jp/articles/-/24969?page=4

 前回のコラムでも書いた通り、「主戦場となる食品や日配品の取り扱い」を実現できるのがこの実店舗からの配達である。生鮮食料品やいわゆる中食(惣菜)なども含めて、ネットで注文し近くのスーパーからその従業員に届けてもらうというものだ。

 日本でもネットスーパーなどの取り組みは多いが、配送センターからの一括配送などのため物流コストがかさみ撤退したケースもある。実店舗を有しているウォルマートがオムニチャネル戦略をどのように実現していくのか、注目していきたい。

 余談とはなるが、「私が欲しいサービス」として、家のIoT冷蔵庫、来週の献立メニューサービスと連携し、足りないもの、そろそろ食べたいもの、お買い得なものなどをレコメンドして食材を届けてもらえるようになると便利だと思う。

(現在の技術なら実現できそうな組み合わせかも?)

また実店舗への誘導で成功のカギとなりそうなのがやはり小売り以外の業態を組み合わせてのワンストップサービスだろう。特にシルバー層を取り込む場合は、健康や医療などのサービスと組み合わせなどが有効だ。

 

 

<2. 海外戦略の見直し 選択と集中>

 ウォルマートが日本に本格参入したのは、2002年大手スーパー「西友」に資本参加してからである。日本版の、EDLP(エブリデーロープライス)を実践し業績を伸ばした。

 その当時はフランスのカルフールやイギリスのテスコなどが相次いで日本に参入したもののすでに撤退している。7月13日付の日経新聞ではウォルマートが西友を売却するとの記事も掲載された。

 ただし、翌日、ウォルマートは「ウォルマートは西友売却の決定を下しておらず、買い手候補との協議を一切行っていない」とこの報道を否定している。

 成長が望めない日本から撤退し、中国やインドなど大きな成長が期待できるところにリソースを集中するというのは、ほかの業態でも一般的になりつつある。西友を売却し、日本市場は楽天など提携先をうまく使いながら収益を上げる方法を模索するのではないか。

 

 

<3. デジタルトランスフォーメーション、働き方改革>

 ウォルマートは、この7月にマイクロソフトと5年間の戦略的パートナーシップ契約を結んだと発表した。「Azure」などのクラウドサービスをウォルマートのIT基盤として全面的に採用するほか、IoTの活用によるコスト削減、最新ツールの導入による働き方改革などにも取り組むとのことだ。

参考:https://www.bcnretail.com/market/detail/20180718_77755.html

 

 クラウドサービスの業界でAmazonのAWSと一騎打ちの勝負をしているMicrosoftのAzureをつかって、デジタルトランスフォーメーションに取り組むというのが興味深く、まさにAmazon包囲網となるのだろうか?

 またウォルマートの従業員の働き方を改革するためのデジタル化を推進し業務の効率化や情報共有を進めている。また有給での育児有給休暇制度を導入し、従業員の満足度を高め、離職率の低下や顧客の満足度向上を狙っている。

単に安い商品を提供するだけではなく、店舗での満足度の高い買い物体験が、長らくのファンを醸成することになる。時間がかかる取り組みではあるが、強みの源泉ともなりうるので今後に期待したい。日本の小売業も従業員の働き方改革、モチベーション向上施策についての取り組みを進めるべきだと思う。

 

 さて現時点ではウォルマートは、Amazonの勢いを止めることができないまま、様々な施策を実践しているという状況だろう。日本の小売業も非常に厳しい状況が続いている。さて半年後はどのような状況になっているのだろうか?

小売り関連のコラムは、機会があればまた投稿していきたい。

 

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■執筆者プロフィール

 

杉村麻記子

ITコーディネータ・中小企業診断士