インターネットによる情報発信が社会に与える影響 / 池内 正晴

1. インターネットの進化

 2006年9月に当メルマガに「Web2.0時代のインターネット」というコラムを寄稿した。当時はインターネットが一般に広く利用されるようになって10年ほどたった時期で、インターネットの大きな転換期であった。それまでは、インターネットへの情報発信は企業やホームページを作成する技術をもった一部の個人に限られており、利用者の大半はその情報を検索して利用するのが主な利用目的であった。したがって世間の多くの人は、インターネットは新聞やテレビなどのマスコミを補完するような存在としてとらえていたのではないだろうか。

 その後Web2.0と提唱された技術が広く利用されるようになってからは、だれもが簡単に情報を発信できるようになり、情報を発信する人の数が急激に増加した。それによりインターネット上で広まる情報が力を持つことになり、社会を動かす力を持つようになってきたのである。

 

2. 個人による情報発信の影響力

 最近、自動車のあおり運転についてよく話題になっている。しかし、あおり運転といわれる行為については昔からあるが、なぜ最近急に取り上げられることが増えたのだろうか。近年の変化で注目すべき事柄のひとつは、ドライブレコーダーの普及である。それにより、あおり運転の行為が記録できるようになった。さらに、この記録映像をインターネット上に投稿することにより、多くの人が危険なあおり運転の実態を知ることになり、許されない行為であるとの世論が一気に広がったのである。この世論の広がりをマスコミ各社が察知し、テレビの報道番組などで取り上げられることにより、さらに多くの人が知って大きな社会問題との認識につながった。

 あおり運転については、これまでマスコミに取り上げられることは、ほとんどなかった。その理由として考えられるのが、実際のあおり運転の実態について直接取材できる機会が少ないうえ、警察もあおり行為を法的に直接取り締まることが難しく、そのことによる逮捕者というのもほとんどいなかった現実もある。

 だが、インターネット上で多くの人が問題意識を持ち、それをマスコミが大々的に取り上げられることにより、警察も積極的に取り締まりを行わざるを得なくなったのである。ただし、法的にはあおり行為を直接取り締まることができないので、車間距離不保持や傷害罪などの関連する行動によって立件しているというのが現状である。でも、これをきっかけに法整備の必要性についても議論されていく動きも出てきている。

 

3. コントロールできない情報発信の弊害

 ここまでは、個人によるインターネットでの情報発信が社会に対して良い影響を与えたケースの話であるが、悪い影響を与えることも多い。その一つの事例がこの同じ事件に関連して起こってしまった。

 あおり運転による事件で相手に危害を加えた男Aの同乗者であった女性Bも被害者のドライブレコーダー映像に記録されており、それもインターネットに投稿された。そのことによりインターネット上では、この女性Bが誰であるかということが話題になり、しばらくして身元が特定できたという情報が流れた。しかし、この女性であるとされた人物は、全く別人の無関係な一般の女性Cであった。あおり事件に対する反響が大きかっただけに、この女性Bに対する非難の声も大きく、その声は無関係なこの女性Cに向けられ、社会生活に影響を与える状況にまで追い込んでしまった。

 

4. 誤った情報の拡散

 この最悪な状況になってしまった原因はどこにあるのだろうか。インターネット上で多くの人が同乗者の女性Bの身元を知ろうとしている時期に、ある人が推測で同乗者が女性Cであると思われるといったような投稿をすると、多くの人がそれを事実と認識して、その情報を拡散することにより、デマが一気に広がったのだろう。インターネットによる情報の拡散は正しいか誤っているかにかかわらず、世間の関心がある情報はすごい速さで広まってしまう。さらに情報が繰り返し拡散されるうちに、その情報の真偽が確かめられることなく、すべて事実であるかの如く広まっていく傾向が強いのも事実である。

 情報の拡散が主にマスコミによって行われていた時代においては、マスコミ各社の責任において、不適切な情報な拡散はある程度コントロールされていた。しかし、インターネットによって情報が拡散されるようになった現在、それをコントロールできる組織というものが存在しない。

 だからといってインターネットが完全な無法地帯になるのではなく、多くの人の意見などによって不適切な情報は排除されるという力が働くということも事実である。ただ、今回のケースのように誤った情報が拡散されている状況から、それが誤っていると認識されて収束されるまでに時間がかかり、その間に大きな被害が出てしまっている現状がある。また、情報が誤っていると認識されたとしても、誤った情報がすべて削除されるわけではないので、それによって被害者への不利益が続いてしまう可能性もある。

 

5. 望ましいインターネットの利用をめざして

 現在の状況では、インターネットによる情報発信について利用者のモラルや必要な法整備が十分になされているとは思えない。そのような状況でも情報発信はどんどん行われており、良い効果・悪い影響などが結果として次々に生じている。

 これから、社会全体としてどうあるべきかの議論が行われ、法制度やマナーなど一定のルールが確立されていくであろうが、それが確立されるまで利用を控えるということにはならない。したがって我々は当面その状況を十分に理解しながら、加害者・被害者のどちらにもなりうるという意識をもって利用していかなければならないのであろう。

 

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■執筆者プロフィール

 

池内 正晴(Masaharu Ikeuchi)

 

学校法人聖パウロ学園

    光泉中学・高等学校

ITコーディネータ