コラム

【コラム】なぜ“今もなお”デジタル化なのか?──変化の時代に、経営の再設計を考える

0.はじめに

先日、ある産業支援機関で、IT化・デジタル活用の研修の講師を務めた。 

 

「IT」という言葉が一般的に使われるようになったのは、1990年代後半から2000年代初頭にかけてであり、特にインターネットの普及とそれに伴う情報通信技術の進展が「IT革命」と呼ばれた時期である。 

 

その後、「IT」という言葉や意味が、「デジタル」「DX」という言葉に置き換わったり、併用されたりしてはいるが、2025年の今、すでに四半世紀が経ったにも関わらず、なぜ”今もなお”ITやデジタルという内容が求められているのか。 

1.”今もなお”IT、デジタルが求められる理由

私は、”今もなお”IT、デジタルが求められる理由として2つあると考えている。 

1つは、市場も人材も、すでに“前提が変わってしまった”からである。 

ITの言葉が出てきて、一般化してから四半世紀であるが、この間にも前提条件が大きく変わってきている。前提条件というのは、私たちを取り巻く環境であり、10年前と比べても劇的に変化している。 

 

一例として、以下が挙げられる。 

 

・顧客の購買行動は「対面」から「検索・比較・SNS」へ 

・働き手は「定着型」から「流動型・副業型」へ 

・取引先や協力会社の連携は「紙・電話」から「データベース・ポータル型」へ 

 

これらの変化は、規模に関係なく、すべての企業に影響を及ぼしており、その都度その都度、IT、デジタルを否が応でも考え、アップデートしていかないといけない。 

つまり、求められているのは“再設計”であり、再設計することで、環境に適応しつつ、競争力を強化していくことが必要とされている。 

 

2つ目の理由として、IT、デジタルの導入ステップが、どのようなツール、アプリケーションであっても基本的には変わらず、王道の進め方が求められていることである。 

IT、デジタル導入の第一歩は、「自社の現在地」を知ることであり、最初に必要なのは“特別な技術”でもなく、”業務の実態を見つめ直す”視点である。 

 

以下に、よくある実践的な「6つのステップ」を紹介する。これは多くの中小企業が無理なく着手できる、IT、デジタル導入のフレームワークとも言える。 

 

Step 1|業務の棚卸:「見えていない日常業務」を言語化する 

何を、誰が、どんな手順で、どうやって行っているか? 

「この作業は毎回やってるけど、何のためだっけ?」という作業はないか。 

見えているようで見えていないのが日常業務であり、ここに改善の“種”がある。 

 

Step 2|課題の特定:「そのやりにくさの根本原因は何か?」 

例えば「請求ミスが多い」「残業が減らない」など、課題を特定したあとは、その原因を探る必要がある。 

なぜ、請求ミスが多いのか、それは「営業と経理で顧客情報の共有がない」からであり、 

なぜ、残業が減らないのか、それは「作業の進捗がブラックボックス化している」からである、などである。 

表面的な“困りごと”の奥にある、構造的な問題を探る必要がある。 

 

Step 3|ありたい姿(To-Be):「この業務が○○になっていたら…?」 

今ある業務を変えた後の姿をイメージする。 

「作業指示がスマホで見られたら…」 

「売上データをリアルタイムで見られたら…」 

「顧客情報を営業と現場で一元管理できたら…」 

など、“業務の目的”に立ち返り、ゴールを描くことで、手段選びの精度を高めることができる。 

 

Step 4|手段の検討:「身の丈に合った道具選び」 

Excelか?クラウドサービスか?専用アプリか?無理に「最先端」や「流行」を追う必要はない。 

ツールはあくまで“手段”である。「これなら自社でまわせるか?」という視点が重要である。 

 

Step 5|小さく試す:「いきなり全部やらない」安心感 

一部部署や一部業務でテスト導入する。操作できる人・できない人の差を把握する。トラブル時の“逃げ道”も用意しておくなど、小さな成功体験が、現場の理解と協力を生むことにつながる。 

 

Step 6|定着と改善:「“使い続けること”がゴール」 

マニュアルや定例報告などのルール化や、データの活用で“次の一手”を考える仕組みづくりにつなげるなど、”文化づくり”をすることで、「デジタル化したけど、使われていない」を防ぐことができる。 

 

つまり、”業務の実態を見つめ直す”ことで、問題や課題を特定し、その改善サイクルをまわしていく。その手段として、ツールがあり、ITやデジタルが多用されている。 

 

企業が継続的に事業を行うためには、企業も”変わる”必要がある。 

企業を”変える”ためにも、IT・デジタルの導入ステップというのは有用であり、目に見えてカタチに残せるプロセスである、と言える。 

2.”これからも”デジタル化

今回、研修講師を務めたことがきっかけで、ふと「なぜ、”今もなお“デジタル化なのだろうか」と、自身の些細な疑問から、思考を整理し、コラムとしてまとめてみた。 

 

その結果、 

・前提条件(取り巻く環境)が変化したために、それに適応していくために再設計をすることが求められている。また、再設計をすることで、競争力や優位性を築くことにつなげることができる。 

・”業務の実態を見つめ直す”ことで、問題解決を促進する。企業が”変わる”ためにも、”業務の実態を見つめ直し”、自社のありたい姿をアップデートし続けていくことが重要である。 

 

と、外部・内部両面から”これからもなお“デジタル化が必要なのだと、自身の中で理解することができた。 

 

デジタル化は「攻め」もあれば「守り」もある。 

「攻め」であっても、「守り」であっても共通しているのは”変わる”ために“変える”ということである。 

 

“変える”のは“すべて”でなく、“ひとつ”からでよい。最初からすべての業務を”変える”必要はない。”変える”べきものが“見える”ようになること、それが第一歩であり、”変える“ことがある以上、これからも”デジタル化”が求められている、と言えよう。 

◆ 執筆者プロフィール 

 

小笠原 知広(オガサワラ トモヒロ) 

からすまビジネスラボ合同会社 代表社員 
特定非営利活動法人ITコーディネータ京都 理事 
一般社団法人京都府中小企業診断協会 理事 
e-mail:t.ogasawara1101@gmail.com 
Web: https://www.k-bizlab.xyz