
●中小企業とマーケティング
マーケティングという言葉をよく耳にします。実際、企業活動にとって不可欠なものではないかと思います。しかし、ガッツリマーケティングをやっているのは大企業というイメージがあります。多くの場合、中小企業にマーケティング部というものはありません。なので、自覚的にマーケティングに取り組んでいる中小企業はごく少数ではないかと思います。ですが、商品を売っている以上、マーケティングを全くやっていないということはあり得ません。あまり自覚することなく、マーケティングをやっているのではないかと思うのです。そこで、以下、中小企業にとってのマーケティングについて、少し考えてみたいと思います。
●欠かせない「ポジショニング」
今回はマーケティングの基本であるSTPと4Pのうち、特にポジショニングを取り上げたいと思います。基礎知識で恐縮ですが、STPは、セグメンテーション(市場のセグメント分け)、ターゲティング(標的市場の選定)、ポジショニング(立ち位置の明確化)のことで、4Pとは、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)のことになります。要するに、市場を特徴的なセグメントに分け、そこからターゲットとなるセグメントを選び、そのセグメントに対する立ち位置を明確にし、その立ち位置をベースに製品を定義し、価格戦略を明確にし、販売のチャネルを選択したうえでプロモーションをしていくのが、マーケティングというわけです。この中で、中小企業にとっても絶対外せないマーケティング要素として、ポジショニングについて考えたいと思います。
●ユニクロとシャネルはどっちが価値が高い?
たとえば、ユニクロとシャネルを比べてみましょう。両方、服を作って売っています。ユニクロは比較的安価な服を、シャネルは超高級な服を。価格だけ見れば、ユニクロよりシャネルの方がはるかに価値があるように見えます。しかし、そうではないでしょう。多くの人がユニクロの価値を認めているからです。価格帯はシャネルの方が高くても、ユニクロにはユニクロの価値があるのです。つまり、価格帯とは関係なく、それぞれに別の価値があると見なされるのです。
なぜ、そうなるのでしょうか。その理由はポジショニング、つまり立ち位置が違うという点にあります。ユニクロはLifeWearをコンセプトにしています。あらゆる人の生活をより豊かにするための、シンプルで上質で、実用的な服をつくっています。そのために、世界規模で大量生産を行うことで、高品質な素材を低価格で提供しています。一円単位でコストを削り、世界中の誰にでも届くインフラとしての服を作っています。
他方、シャネルはブランドが持つ「物語(ストーリー)」や「憧れ」を売っています。フランスの自社工房で、刺繍、ボタン、花飾りなどを専門の職人が手作業で作り上げます。一つ一つの工程に膨大な時間と伝統技術が注ぎ、すべて代々受け継がれるものとして作られており、シャネルのヴィンテージスーツは、数十年経ってもオークションで高値で取引されるほど「資産価値」を持ちます。
●ポジショニングが違うだけ
どちらも、それぞれの仕方で消費者の心をとらえます。自分たちが顧客と考える人たちにとって価値があるように自分たちの独自性を構築しているのです。これがポジショニング、つまり立ち位置です。ユニクロとシャネルでは顧客に対する立ち位置が異なる、つまりポジションの取り方が異なるのです。
ユニクロもシャネルも、それぞれ独自の仕方で、消費者の心をとらえる立ち位置をしっかり持っています。どの立ち位置に立てば、消費者の思いに応えることができるか、それを徹底的に明確化し、消費者の圧倒的な支持を得ています。
●ポジショニングが顧客をとらえる
立ち位置が明確であると、ターゲットとする消費者の目に留まりやすくなる。ふだんの生活で着るのにもっとも適切な服という立ち位置は、それを求めている消費者層の視界に容易に入ってきます。すると欲しくなる。そして買う。もし、立ち位置が不明なら、何の服なのかよくわからず、誰も目にもとまらないでしょう。
結局、ポジショニングとは、顧客が真に欲しいと思う価値を明確に掲げ、見えるものにすることなのです。それがなければ、顧客からよく見えず、注意もされず、埋没することになるでしょう。いわば、コモディティ化した市場の中で望まれることも買われることもない状態に追い込まれるのです。
●ポジショニングを突き詰める
さて、企業はすべて自社の商品を買ってもらう必要があります。そのためには、ポジショニングを考え、明確にしていくことは絶対に不可欠です。Webサイトで宣伝するのもいいでしょう。SNSで発信するのもいいでしょう。しかし、そもそもポジショニングを突き詰めていなければ、せっかくのWebサイトもSNSも効果は限られてしまいます。自社の商品がもつ他にはない価値を確立しているからこそ、つまり、他社にはない立ち位置に立っているからこそ、圧倒的な顧客の支持を得ることになるのです。
中小企業ではマーケティングを大々的に実行することはなかなかできないかもしれません。しかし、それでも、少なくともポジショニングだけは明確にする。これが私のおすすめです。自社の他にはないポジションと何なのか。独自のポジションをどこにとるのか。それをぜひ徹底的に追究していただければと思います。
プロフィール
清水 多津雄(しみず たつお)
CPC創発経営研究所 代表
ITコーディネータ
企業の情報システム部門でITマネジメントに従事したのち、イノベーションマネジメントに取り組み、創発的な経営方法を研究。2018年CPC創発経営研究所を設立。2020年「創発経営」で商標登録。現在、創発経営に基づく中小企業の経営サポートに従事している。