今回は、国勢調査データの活用について書きます。
昨年10月に皆さんが回答された国勢調査の「速報値」が今年5月に公開されました。今後、年齢別人口・世帯構成などの「基本集計」、就業状態などの詳細な統計「詳細集計」が、これから1年ほどをかけて公開されていくと思います注1)。
国勢調査は総務省統計局が実施する、日本で最も基礎的かつ信頼性の高い統計調査といえます。すべての人・世帯を対象とした「全数調査」であるため、民間の市場調査では得られない網羅性と公平性を備えています注2)。
ビジネス活用の観点から特に重要なのは、以下のデータが「町丁・字等」という非常に細かな地域単位まで公開されていることです。
● 人口・世帯数(総数および男女別・年齢別)
● 世帯構成(単独世帯、核家族、3世代世帯など)
● 居住形態(持ち家・借家、一戸建て・マンションなど)
● 就業状況・産業別就業者数
● 通勤・通学の流動人口
これらのデータはe-Stat(政府統計の総合窓口)から無料でダウンロードできます。また地図と重ね合わせて視覚化できる「jSTAT MAP」も無償公開されており、専門的な統計知識がなくても直感的に使いこなせる環境が整っています。
余談になりますが、以前、私の研究室で「地方都市での新規ビジネスとしての宅配クリーニング企画」のお手伝いをしたことがあります。その時に学生達が使っていたのがこのe-Statのデータでした。ターゲットエリア特定のために、居住形態・就業状況などのデータを地図上にマッピングしていました。ビジネスに活用できるデータであることを、遅ればせながら理解しました。
国勢調査データの有用性
数ある統計データの中で、5年に1回実施される国勢調査データは最強の基礎データと言えます。「お堅い行政の統計資料」とか「5年前の古いデータ」などの先入観を持たれている方も多いと思いますが、その「網羅性」と「信頼性」は群を抜いています。サンプリング調査(標本調査)とは異なり、日本に住むすべての人を対象に行われる全数調査であるため、統計的な偏りが極めて少ないのが特徴です。
また、「解像度の高さ」も市場データとして注目すべき点です。道府県や市区町村といった大きな単位だけでなく、「町丁・字等」や「メッシュデータ」という非常に細かい単位で分析が可能です。例えば「同じ市の中でも、国道を挟んだ東側と西側で、住民の年齢層や世帯構成がこれほど異なるのか」といった、現場の実感に近い商圏分析が行えます。
さらに、5年ごとの推移を比較できることも大きな強みです。「人口は増えているが、実は単身高齢世帯が急増している」「ファミリー世帯が減り、若年層の流入が目立つ」といった動態を把握することが可能です。年齢、世帯構成、就業状態、住居の種類といった多様な切り口と掛け合わせることで、ターゲット像を立体的に描き出すことができます。
総務省統計局e-StatのWebサイト https://www.e-stat.go.jp/
ビジネスへの活用例:京都市伏見区への適用例
具体的にビジネスへの活用例を見てみましょう。
「シニア向け見守りサービスのエリア選定」という架空のビジネスについて、地元・京都市の伏見区での適用例を検討します。
まず、高齢単身世帯の密度とその増減傾向を分析します。単に見守りニーズがあるだけでなく、5年前に比べて当該世帯が増加しているエリアを特定することで、将来的に介護リソースの需要が伸びる「伸びしろのあるエリア」へ早期にアプローチすることが可能になります。
京都市伏見区を対象に、シニア向け見守りサービスのエリア選定を行うための「jSTAT MAP」操作手順を解説します。見守りサービスにおいて重要なのは、単なる高齢者人口だけでなく「高齢者の単身世帯(独居)がどこに集中しているか」を可視化することです。
◆ jSTAT MAP 操作手順:やや操作が解りにくいので、具体的に示します。
1.サイトへのアクセス:政府統計の総合窓口(e-Stat)「地図で見る統計(jSTAT MAP)」にアクセスします。
2.対象地域の表示:検索ボックスに「京都市伏見区」と入力して検索します。
3.統計グラフ作成機能の起動:統計地図作成⇒統計グラフ作成をクリック。
4.調査項目の選択:
調査名: 「令和2年国勢調査」(現時点で最も詳細なデータ)
集計単位: 「小地域(町丁・字等)」を選択(より細かいエリアで分析するため)
統計表の選択: 「世帯の家族類型(16区分)別一般世帯数」
指標選択: リストの中から「高齢単身世帯(65歳以上かつ単身)」に関連する項目
5.集計範囲:京都府⇒京都市⇒伏見区を選択し、集計開始。
以下の図のような、図上に町・丁単位で色が塗られたヒートマップが表示されます。色の濃い場所が、該当する指標(高齢単身世帯数)が多いエリアです。
右下の[データパネル]を押すと、町・丁ごとの詳細数値を確認できます。
jSTAT MAPで、京都市伏見区の「高齢単身世帯数」が多いエリアを表示した例:ヒートマップ
これらの分析に加えて、以下の情報を加えるとさらに精度が高まります。
・高齢単身世帯の割合を表示することで、「高齢化率が高い、サポートが必要な地域」を浮き彫りに出来ます。
・営業所などの特定拠点からのサービスを考える場合は、「エリア作成」機能(半径指定)を使い「同心円(半径500mや1km)」を描画することでその圏内の単身世帯数を知ることが出来ます。
活用時の留意点
国勢調査は極めて優秀な「静的」基礎データですが、他のデータと組み合わせることでより精度を高めることが出来ます。
特に重要なのは「人流データ」など「動的データ」との掛け合わせです。国勢調査は「夜間人口(その人が寝に帰る場所)」を示すため、日中の人の動きは見えません。さらに、家計調査による消費支出の傾向や、GIS(地理情報システム)を用いて競合他社の店舗位置を重ねれば、より立体的な市場環境が見えてきます。「住民層」と「人の流れ」と「競合配置」。これらをレイヤーのように重ねることで、分析の質は飛躍的に向上します。
留意点として、データの「鮮度」問題があります。調査は5年に一度のため、直近の大規模マンション建設や再開発が反映されていない場合があります。最新の地図情報や行政の広報資料と突き合わせる補正意識が必要です。
また、当たり前のことですが、対象者が多い=売れるとは限りません。新規ビジネスを推進するのは、あくまで経営者の意思とビジョンに他なりません。
国勢調査データは、政府が税金をかけて収集した「国民の共有財産」です。それがほぼコストゼロで利用できるにもかかわらず、活用している企業はまだ少ないと思います。ビッグデータや生成AIが注目を集める時代にあっても、「誰がどこにどれだけいるか」という人口統計の基礎は、あらゆる地域密着ビジネスの根幹をなす情報です。
まずはe-Statにアクセスし、自社の商圏となりうる地域の人口データを一度ダウンロードしてみてください。膨大な数字の中に、あなたのビジネスが必要としていた「根拠」が眠っています。
注1)現在公開されている国勢調査の最新版(詳細集計)は、2020年(令和2年)版です。昨年行われた2025年(令和7年)版は、今年5月に速報版が公開され、今後、「基本集計」、「詳細集計」の順に公開されるとのことです。
注2)国勢調査の回答率は8割程度ですが、結果は全国民を対象とした統計として利用されています。これは統計調査が単なるアンケート集計ではなく、補完・推計技術によって社会の実態を推定しているからです。
【参考URL】
・e-Stat(政府統計の総合窓口): https://www.e-stat.go.jp/
・jSTAT MAP(地図で見る統計): https://jstatmap.e-stat.go.jp/
◆ 執筆者プロフィール
藤原正樹(フジワラ マサキ)
ITコーディネータ京都 副理事長
京都情報大学院大学 教授
宮城大学 客員教授
博士(経営情報学) 中小企業診断士 ITコーディネータ
e-mail:m_fujiwara@kcg.ac.jp
Web: https://www.fujiwaralab.jp/



